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四兄妹の末っ子、しっかり者の妹役に。在日コリアンとか、日本人とか分けて考えない彼女から感じたこと

水上賢治映画ライター
「北風アウトサイダー」に出演した櫂作真帆  筆者撮影

 俳優で劇団主宰者でもある崔哲浩が、自身の体験を基に、ある在日コリアン家族の山あり谷ありの歩みを描いた映画「北風アウトサイダー」。

 本作は、確かに在日コリアンに対する偏見や差別といったセンシティブな内容が含まれている。

 ひとつの社会派ドラマにもとらえられないことはない。

 ただ、それ以上に伝わってくるのは、崔監督の映画に対する情熱にほかならない。

「出し惜しみは一切なし。初監督で自分のやりたいこと、描きたいことはすべて作品に注ぎこんだ!」といった監督の思いのたけが作品にあふれている。

 そして、その監督の思いに応えた俳優たちがそれぞれの役で大きな存在感を放つ。

 本作についてはすでに崔監督のインタビューを4回(第一回第二回第三回第四回)に渡って届けた。

 続いて登場いただくのは、出演者のひとり、櫂作真帆。

 「北風アウトサイダー」においてストーリーテラーでありキーパーソンといっていいミョンヒを演じた彼女に訊く(第一回第二回)。(全四回)

ミョンヒは在日コリアンだからとか、日本人だからとか、分けて考えない

 第三回も、演じたミョンヒの話を続ける。

 前にも触れたように本作は、在日コリアンに対する差別などセンシティブな内容が含まれている。

 その中で、演じたミョンヒについてこんなことを感じていたという。

「ミョンヒはすごくフラットな性格で、ほんとうにどの人とも分け隔てなく付き合うというか。

 在日コリアンだからとか、日本人だからとか、分けて考えない。

 もちろん自分が在日コリアンであることは意識の中にあると思うんですけど、そのことに必要以上にとらわれていない。

 ひとりの人としてこの街でここに暮らす人たちといっしょに生きているようなところがある。

 そこはすごくわたし、すごく共有できたんです。

 わたしも、わりとボケっとしている性格からか、周りに外国人の方や在日の方がいらっしゃってもあまり意識しないといいますか。

 いまやいろいろな国の方が日本には住んでいらっしゃいますから、たとえば『外国から日本にこられている方なんだ』ぐらいで、特別な存在として考えたことがないんですよ。

 自分の暮らす町で同じく暮らされているんだなぐらいで。

 だから、『北風アウトサイダー』の脚本には、もちろん差別や偏見をはじめ在日コリアンに対する問題が含まれている。

 崔監督がおっしゃっているように間違いなく在日コリアンのリアルを描いた物語ではある。

 ただ、わたしとしては在日コリアン家族の物語ではあるけれども、そこから在日コリアンを外して、ある家族の物語として受け止めた印象が強い。

 正解かわからないですけど、たぶんミョンヒも『わたしたち在日コリアン一家』の物語というよりも、『わたしたち一家の物語』と思っているんじゃないかなと思ったんです。

 そこがわたしはすごくミョンヒと共有できた気がしました。

 ですから、最初はわたしとはイメージがかけ離れていて、『違う!』と思ってお断りしたわけですけど、最終的にはけっこう似ているところがあるなと思いました。

 わたしはミョンヒほど心が広くはないと思うんですけど、彼女のような心の持ちようの存在であれたらいいなと思いました」

「北風アウトサイダー」に出演した櫂作真帆  筆者撮影
「北風アウトサイダー」に出演した櫂作真帆  筆者撮影

ヨンギをミョンヒは許していたけど、わたしは怒りが収まってなかった(笑)

 心の広いミョンヒが、なかなか許すことができない人物がひとりいる。崔監督自身が演じた、長年にわたって行方知れずでオモニの葬儀にも現れなかった兄のヨンギだ。

「ヨンギは最悪ですよ(苦笑)。

 ずっと行方知れずで音信不通で、みんなに心配かけて、いろいろあったのはわかるけど、ふらりと戻ってくる。

 さすがのミョンヒもこのときばかりは堪忍袋の緒が切れる。演じていてもミョンヒの怒りの気持ちはよくわかりました。

 まあ、それでもヨンギを受け入れるのがミョンヒで。

 ヨンギが店を手伝うことに同意するところでたぶんミョンヒはヨンギを許している、もしかしたら戻った時点ですでに許しているのかもしれない。

 わたし自身はミョンヒがどこでヨンギを許したのか判断がつかなかったんですよ。自然とそうなっていた。

 正直なことをいうと、ヨンギに店を手伝わせる場面で、ミョンヒの気持ちとしては受け入れてますけど、わたし自身の気持ちとしてはヨンギを受け入れてない。まだ怒りが収まってなかったです(笑)」

途中からミョンヒとしてほかの登場人物とも接していたような感覚がある

 ミョンヒは家族から親戚、お店のお客さんまで常に気を配って目を配り、なにかあれば手を差しのべる。

 話を聞いていると、櫂作自身もまたミョンヒという役を通して、一家の物語と登場人物ひとりひとりに視線を注ぎ、みわたしていたのかもしれない。

「そういう役回りだったこともあるんですけど、どの役者さんも役に似ているところがあって。

 途中から、役とその人自身の境目みたいなのがなくなっていた。

 そして、各人が集まると役云々ではなくて、もう大家族のようになっていたんですよね。

 で、わたしはしっかりものでお店を切り盛りして、一家のまとめ役のミョンヒを演じていましたから、自然と全体をみることになる。

 だから、ミョンヒはもちろん演じていて愛着がありますけど、途中からミョンヒとしてほかの登場人物とも接していたような感覚があるので、兄弟はもとよりお店にやってくるお客さんまでみんな愛しく感じるところがあります」

(※第四回に続く)

【「北風アウトサイダー」崔哲浩監督連載第一回はこちら】

【「北風アウトサイダー」崔哲浩監督連載第二回はこちら】

【「北風アウトサイダー」崔哲浩監督連載第三回はこちら】

【「北風アウトサイダー」崔哲浩監督連載第四回はこちら】

【「北風アウトサイダー」櫂作真帆連載第一回はこちら】

【「北風アウトサイダー」櫂作真帆連載第二回はこちら】

「北風アウトサイダー」

監督・脚本・プロデューサー:崔哲浩

出演:崔哲浩 櫂作真帆 伊藤航 上田和光

永倉大輔 松浦健城 竜崎祐優識 並樹史朗 岡崎二朗

全国順次公開中

ポスタービジュアルおよび場面写真は(C)2021ワールドムービーアソシエーション

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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