Yahoo!ニュース

四兄妹、末っ子の健気な妹役を、大柄なわたしが演じていいの?「最後は開き直りました(笑)」

水上賢治映画ライター
「北風アウトサイダー」でミョンヒを演じた櫂作真帆  筆者撮影

 俳優で劇団主宰者でもある崔哲浩が、自身の体験を基に、ある在日コリアン家族の山あり谷ありの歩みを描いた映画「北風アウトサイダー」。

 本作は、確かに在日コリアンに対する偏見や差別といったセンシティブな内容が含まれている。

 ひとつの社会派ドラマにもとらえられないことはない。

 ただ、それ以上に伝わってくるのは、崔監督の映画に対する情熱にほかならない。

 「出し惜しみは一切なし。初監督で自分のやりたいこと、描きたいことはすべて作品に注ぎこんだ!」といった監督の思いのたけが作品にあふれている。

 そして、その監督の思いに応えた俳優たちがそれぞれの役で大きな存在感を放つ。

 本作についてはすでに崔監督のインタビューを4回(第一回第二回第三回第四回)にわたって届けた。

 続いて登場いただくのは、出演者のひとり、櫂作真帆。

 「北風アウトサイダー」においてストーリーテラーでありキーパーソンといっていミョンヒを演じた彼女に訊く。(全四回)

真逆の役ですけど、

崔監督がそう言ってくれているから、いいんだと、開き直りました(笑)

 前回(第一回)は、ミョンヒ役での出演が決定するまでの経緯を訊いた。

 その中で、実はミョンヒ役は「自分ではないのでは」と思ったと明かした櫂作。そのような役を演じるにあたってまず考えたことはなんだったのだろうか?

「前回も言いましたけど、崔監督がわたしに『ミョンヒ役を』と言ってくださっている。

 だから、崔さんがそう言ってくれるなら、無理にわたしのイメージするミョンヒに合わせる必要はないなと思ったんです。

 わたしの中ではミョンヒは末っ子の妹で小柄でけなげな女の子といったイメージ。

 でも、わたしは背も高いし、ルックスもちょっと冷たそうに見られることが多い。

 真逆ですけど、崔さんがそう言ってくれているから、いいんだと、開き直りました(笑)。

 そこで、最初に自分がミョンヒに抱いたイメージは一度すべて捨ててしまいました。

 すべて一度リセットして、脚本を読んで、ミョンヒの内面を探っていきました」

ミョンヒは自分のことは置いといて、常に家族のことを考えて動く人

 ミョンヒはキム一家のまとめ役ともいえる存在。

 オモニが一生懸命守ってきた食堂を引き継ぎ、しっかり者で周囲からの信頼も厚い。

「ミョンヒは家族想いの人。

 自分のことは置いといて、常に家族のことを考えて動く。

 そして、キム一家の戻る場所であるオモニの食堂を誰よりも大事に思っている。

 実際はなかなか許せないんですけど、行方知れずの兄のヨンギが戻ってくる場所としてオモニの意志を継いで店をほんとうに大切に思っている。

 そのことを一番大事にして演じていくのがいいんだろうなと思いました。

 役作りとしては、やはりオモニの韓国料理店を引き継いでいるので、それはきちんとみせたい。

 そこで、ほかの共演者といっしょに実際に韓国料理を作ってみたり、ちょっと食べてみたりとかして食堂を切り盛りしている人にみえるよう努力しました」

「北風アウトサイダー」でミョンヒを演じた櫂作真帆  筆者撮影
「北風アウトサイダー」でミョンヒを演じた櫂作真帆  筆者撮影

気づいたらミョンヒになっていたような感覚でした

 シーンをひとつひとつ積み重ねるたびに、ミョンヒを理解して近づいていったような感覚が今も残るという。

「撮影が7カ月ぐらいかけての長丁場だったこともあるかもしれないのですが、一気にミョンヒになって演じたというより、着実に一歩一歩、彼女に近づいていって。

 気づいたらミョンヒになっていたような感覚でしたかね。

 長く役に携わることでいろいろと思いを巡らす。すると新たな発見があって、それを役に反映させられる。

 また、食堂も過ごす時間が長くなればなるほどやはり体がその場になじむし、自分の中でも愛着がわいて、愛おしい場所になっていく。

 そういうことがいろいろと積み重なって、気づけばミョンヒになっていたかなと思います。

 こういうふうな感覚をもったのはほかの出演者でもいらっしゃるんじゃないかと思います。

 もう撮影の後半とかは、役としてはもとより役者としても共演者同士の関係性が深まって、揺るぎないぐらいの信頼関係が生まれた。

 だから、みんな、『こういうシーンだったら、自分の役はこういう感じのことを言うよね』と考えて。

 実際に言っても、みんなきちんとうけとめるような感じになっていた。

 たとえば、クライマックスの結婚式のシーンは、脚本上はあんな感じではなかった。

 自然とみんな和気あいあいの雰囲気になって、冷やかしの言葉が飛ぶようになっていたんですよね。

 ですから、ほんとうにひとつひとつの積み重ねで共演者とともに同じ時間を過ごしながらミョンヒになっていた感覚があります」

「北風アウトサイダー」より
「北風アウトサイダー」より

まだミョンヒの感覚がわたしの中に残っている

 それだけ長い時間をともにした役をいまどう思うだろうか?

「わたし、崔さんからはじめに2週間で終わると言われていたんですよ(苦笑)。

 だから、これが終わったときに、自分の中で、どんなことが甦るのか、どんな気持ちになるのかなって思っていたんです。

 でも、実は、まだ終わった感じがしないんですよ。終わりが実感できていない。

 まだミョンヒの感覚がわたしの中に残っている。

 あと、2月から公開が始まったので、まだ始まったばかりという感覚があるんです。

 なので、終わったと実感するのは、まだ先になるのかなと思っています」

(※第三回に続く)

【「北風アウトサイダー」崔哲浩監督連載第一回はこちら】

【「北風アウトサイダー」崔哲浩監督連載第二回はこちら】

【「北風アウトサイダー」崔哲浩監督連載第三回はこちら】

【「北風アウトサイダー」崔哲浩監督連載第四回はこちら】

【「北風アウトサイダー」櫂作真帆連載第一回はこちら】

「北風アウトサイダー」ポスタービジュアル
「北風アウトサイダー」ポスタービジュアル

「北風アウトサイダー」

監督・脚本・プロデューサー:崔哲浩

出演:崔哲浩 櫂作真帆 伊藤航 上田和光

永倉大輔 松浦健城 竜崎祐優識 並樹史朗 岡崎二朗

全国順次公開中

<東京都写真美術館ホールでの上映決定!>

4/5(火) 18:00~

4/6(水)〜4/10(日) 13:00~、18:00~

4/12(火)〜4/14(木) 13:00~、18:00~

ポスタービジュアルおよび場面写真は(C)2021ワールドムービーアソシエーション

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

水上賢治の最近の記事