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都会派のイメージを覆す荒ぶる猟師役に。「実はアメリカ海軍の訓練をかいくぐってきた経験もあるんです」

水上賢治映画ライター
「リング・ワンダリング」に出演した長谷川初範  筆者撮影

 おそらくあまりイメージにはない役柄で観た方はびっくりするかもしれない。

 それぐらい、いわゆるパブリック・イメージと違う姿を見せてくれるのが、金子雅和監督作品「リング・ワンダリング」に出演する長谷川初範だ。

 デビューから40年を優に超える彼は、都会の洗練された男性を演じてきた俳優のひとりといっていい。

 愛称の「ショパン」を象徴するピアニストをはじめ、スマートな役柄がやはり思い浮かぶのではないだろうか?

 だが、「リング・ワンダリング」では、猛者といえる荒々しい猟師役でまったく別の顔を見せる。

 しかも、本人は「これが本来の自分かもしれない」と明かす。その真意とは?

 出演の経緯からこの役についてまでを長谷川に訊く。(全三回)

自分でも自分の顔に思えないぐらい、びっくりしました

 インタビューの第二回は前回に引き続き、猟師といういままでのイメージにない役のオファーをどう受け止めたのか、という話から。

 金子監督に「普段の自分を見透かされたのか」と驚いたという話が出たが、出来上がった「アルビノの木」の自身を見てまた驚いたことを明かす。

「いままでのイメージにない役ではあったんですけど、役作りに関しては戸惑いはなかったんですよ。

 山の男にならないといけないと思ったので、撮影の直前、1週間ぐらい前に山に入って、井戸水で自炊したり、薪を割ったりして準備をしました。

 でも、普段好きでやっていることなので戸惑うことはないわけです。

 で、山の中でしばらく時を過ごして、そのまま撮影に臨んだんです。普段の僕のままで臨んだようなところがある。

 そうしたら、えらく迫力のある姿に映っているんですよ。ふだん、動物と命のやりとりをしている山の猟師の顔になっている。

 自分でも自分の顔に思えないぐらい、びっくりしました。

 そこで、また金子監督に『見抜かれたか』と思いました。

「リング・ワンダリング」より
「リング・ワンダリング」より

 今回の『リング・ワンダリング』もそうなんですけど、金子監督は、僕が都会の中では隠している、でも、『実はこっちが本来の長谷川さんですよね』という本性を突いてくるといいますか。

 その僕がふだんは見せていない本性を投影したような役を宛ててきてくださって、ほんとうに金子監督には驚かされました。

 自分の中に眠っていたワイルドな面を呼び覚まされたようなところがある。

 僕は、北海道出身で。住んでいたところは町の中だったんですけど、すぐそばに海と山が広がっていた。

 で、山の中に秘密基地みたいなものを作って自然の中で遊んでいたんですよ。

 親戚には漁師が多くて、当時は、ロシアが機関銃を構えて監視している海に出ていっていた。

 危険と隣り合わせの漁をしている人たちをこの目で見て育ってきたんです。

「リング・ワンダリング」より
「リング・ワンダリング」より

これまであまり求められてこなかったけど、実は自分の本性に

根差した役に俳優として40年以上キャリアを経ていまめぐりあった

 それと、子どものころから剣道や居合など、武道を学んでいた。

 その流れでレスリングをはじめて。アメリカの高校で、アメリカの学生とレスリングの試合をして回っていた。

 いまから50年ぐらい前になりますから、まだまだ日本人に対して、差別や偏見があるころで。いじめのいいターゲットになるわけですよ。

 負けたらやられっぱなしになりますから、僕もなめられないように対抗するわけです。

 あと、レスリングのコーチがネイビー、海軍の軍人だったんですよ。だから、海軍の訓練を受けさせられる。これがほんとうに厳しい。

 さんざんトレーニングをして最後に、天井からぶらさがった1本のロープを手の力だけで登らされたりする。

 しかも、へこたれた顔や少しでも止まったりすると容赦なく罵声が飛んでくる。『へなちょこめー』とか、『いいから上にいけ!』とか。

 アメリカという国の洗礼と、海軍のトレーニングというサバイバルをかいくぐってきた経験がある。

 だから、荒ぶる魂じゃないですけど、そういう野性的なところが僕の中にはもともとあるんですよ。

 それが、『アルビノの木』、今回の『リング・ワンダリング』で金子監督の手によって、全開にされた感覚があって。

 僕のほうが実はいま驚いています。『僕って、こんな感じの人間であり役者でしたっけ?』と(笑)。

 今回の撮影も振り返ってみると、あの毛皮をきると、精気が満ちてくるというかな。

 生命がみなぎってくるのが自分でもわかるんですよ。

 毛皮をきて飛び跳ねた現場写真があるんですけど、ものすごく活き活きしている(笑)。

 そういう意味で、これまであまり求められてこなかったけど、実は自分の本性に根差した役に俳優として40年以上キャリアを経ていまめぐりあったというかな。

 僕の本性に迫って、それを作品に生かしてくれる監督に出会ったと思っています」

(※第三回に続く)

【「リング・ワンダリング」長谷川初範インタビュー第一回はこちら】

「リング・ワンダリング」ポスタービジュアル
「リング・ワンダリング」ポスタービジュアル

「リング・ワンダリング」

監督・脚本:金子雅和

出演:笠松将 阿部純子

安田顕 片岡礼子 品川徹 長谷川初範 田中要次

公式サイト:https://ringwandering.com/

渋谷 シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開中

ポスタービジュアルおよび場面写真は(C)2021 リング・ワンダリング製作委員会

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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