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デス・ロードとなった監督との話し合い。深い関わりで、自分のすべてをぶつけられる作品に!

水上賢治映画ライター
「誰かの花」で主演を務めたカトウシンスケ  筆者撮影

 こういういい方は、ご本人に失礼に当たるかもしれないが、いまもっとも顔が定まっているようで定まっていない俳優といっていいかもしれない。

 それぐらい、いろいろな顔をみせてくれているのが、カトウシンスケだ。

 チンピラやアウトサイダーのような不良性を帯びた人間も似あえば、誠実な人間を演じても無理がない。

 そして、どの役も一度みたら忘れられない強烈なインパクトを放つ一方で、どこかキャラクター化しない匿名性を保つ。

 横浜の老舗映画館「横浜シネマ・ジャック&ベティ」の30周年の企画作品として届けられた奥田裕介監督の長編第二作「誰かの花」でも、カトウは間違いなく主人公として物語の中心にどっしりと根差しながら、どこかほかの登場人物たちと同等に並んでいるように映る。

 日本映画界に欠かせない俳優になりつつある彼に訊く。(全五回)

奥田監督はとても誠実で、相手の気持ちを大切にしてくれる

 まずは主演映画「誰かの花」の奥田監督との出会いをこう振り返る。

「奥田監督との出会いは、あるお誘いからで。

 奥田監督の前作『世界を変えなかった不確かな罪』が新宿のK's cinemaで上映してたときに、同作のプロデューサーで、今回の『誰かの花』のプロデューサーでもある飯塚(冬酒)さんから、『新たな映画作家の作品なのでよかったらみにきてください』とお誘いいただいたんです。

 お言葉に甘えて観にいったときに、飯塚さんを介して、奥田監督をご紹介いただいて、そのときに『初めまして』とご挨拶して知り合いました。

 その後、何度か食事をご一緒して、お互いの様子を知れた上で、オファーを頂いたという感じです。

 奥田監督の印象はほどよい距離感のある人というか。

 作品を見てもらえれば一目瞭然なんですけど、とても誠実で、相手の気持ちを大切にしてくれる。

 僕のように口から出たことをペラペラしゃべるのではなくて(笑)、ものすごくひとつひとつの物事をきちんと吟味して考えて発言をする。

 すべてにおいて丁寧。その律義なところや他者への配慮や思いを寄せるところとか、明らかに作品に現れている。

 すごく細やかな人だなと思いました」

脚本の第一印象は奥田監督の人間性が出ているなと

 こうして出会った奥田監督から送られてきた今回の「誰かの花」の脚本の感想をこう語る。

「まず、さきほど話したように奥田さんの人間性が出ている脚本だと思いました。

 なにか白黒つけるわけじゃないんですよね。人間の良心や善意、罪といったことが(物語の)根底ににみえますけど、誰が悪いとかジャッジメントせず、人間そのものを多面的に見つめていく。

 僕の演じる孝秋だけみても、良心と悪心の間で絶えず気持ちが揺れ動く。

 ですから、脚本を読み終えたときは『おお!』と思って、これはぜひやれるなら僕にとってすごく幸福なことだと思いました」

いい意味で、むちゃができると思ってワクワクしました

 そこから監督とかなり密なディスカッションを重ねていったという。

「最初の脚本、第一稿の時点でかなり純度の高い脚本だと思いました。

 好みの問題もあるとは思うんですけど、まず説明的なことはほんとうに最小限に抑えられてる。

 あと予測ができないことが起きるわけですけど、それも、孝秋をはじめ登場した人物が実際に動いたことで、そういう事態を招いてしまう。

 つまり物語の都合とか、設定の都合とかに流れていないからまったく無理がない。

 セリフに関しても、奥田裕介という映画作家が、この人物にこういうことを言わせたいというものにはしていない。

 あくまでその人物がどういう人間かということをもとにした言葉になっている。

 それから、いい意味で役者をその気にさせるというか。

 『ここはこういう表現の挑戦ができるのではないか』と思えるところが、随所に潜んでいる。

 そういうことも含めて、純度の高い脚本だなと思いました。

 ただ、差し出がましいんですけど、僕もいろいろと思うところがありました。

 で、奥田監督からどういう感想をもったのか聞かせてほしいと連絡をいただいて。『じゃあ、実際に会って話しましょうか』となりました。

 それで、お茶でもしながら1時間ぐらい話そうかみたいな感じだったんですけど、はじめたら『このシーンはこうですよね』とか、『ここはどういうことですか』とか話が止まらなくなって、結局5時間ぐらい話していた。

 ここからデス・ロードの始まりで(笑)。

 奥田監督が『じゃあ、カトウさんの疑問点とか考えたこととかちょっとまとめて、書き直してみます』ということになって。

 1~2週間後に反映された脚本ができて、また二人で話し合う。

 この繰り返しが、かれこれ1年はいかなかったかと思うんですけど、半年以上は続きました。毎回5時間とは言わずとも4時間半くらいはかかりました。

 いま振り返っても有意義な時間で、そこから孝秋にバックできたことも多々あったし、作品にとって大きな財産となりました。ただ、作業としてはめちゃくちゃ大変でした(笑)。

 でも、そのことで僕も脚本と孝秋役にとことん向き合うことができて、奥田監督と対話を重ねること奥田監督の目指すところを共有することができた。

 最初から純度の高い脚本でしたけど、ノイズを減らし、磨きをかけていけたのではないかと思いました。ダイヤモンドみたいに。ある瞬間、輝きがギラっと増したのを覚えています。

 ここまで脚本に深く関わると、やはり思い入れも強くなる。

 最後は、ほんとうにこの脚本に出合って幸福を感じたというか。

 これまでのキャリアで少なからず培ってきたもの、それはこびりついてしまったものを含めて、僕にはある。

 そういうものすべてを、この役だったら注ぎ込めると思いました。

 役者としての自分、ひとりの人間としての自分のすべてを、この作品だったらぶつけられると思いました。

 いい意味で、むちゃができると思ってワクワクしました」

(※第二回に続く)

「誰かの花」で主演を務めたカトウシンスケ  筆者撮影
「誰かの花」で主演を務めたカトウシンスケ  筆者撮影

「誰かの花」

監督:奥田裕介

出演:カトウシンスケ、吉行和子、高橋長英、和田光沙、村上穂乃佳、

篠原篤、太田琉星

渋谷・ユーロスペース、横浜シネマ・ジャック&ベティほか全国順次公開中

公式サイト → http://g-film.net/somebody/

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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