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男を翻弄する危ういヒロインを演じた杉野希妃。心臓を射抜かれた監督と念願のタッグを組んで

水上賢治映画ライター
「愛のまなざしを」でヒロインを演じ、プロデューサーも務める杉野希妃 筆者撮影

 この男女の関係を、どう受けとめればいいのか?

 ある意味、社会通念としてある愛情の在り様を根本から覆す、男女のヒリヒリするような愛の行方が描かれるのが万田邦敏監督の「愛のまなざしを」だ。

 その劇中で、もはやファム・ファタールのひと言では片付けたくない。

 こちらが距離を縮めたいと思うと、遠ざかり、こちらが距離を置きたいと思うと、まとわりついてくる。

 そんなヒロイン・綾子を演じ、鮮烈な印象を残すのが杉野希妃。

 仲村トオルが演じる主人公・貴志を翻弄する彼女を演じる一方で、プロデューサーも務めた彼女に訊く。(全三回)

万田監督作品は、ど真ん中のストライクの映画だったんです

 作品についての話に入る前にまずは万田監督の話から。

 聞くと、杉野が万田監督作品に出合ったのは2008年の映画「接吻」とのこと。衝撃的な出合いだったと明かす。

「心臓を射抜かれたと言いますか。

 ど真ん中のストライクの映画だったんですよ(笑)。

 ただ、見終わってすぐには、なにがわたしの心をこんなにえぐってくるのか、なにがここまでわたしの心を揺さぶるのかはわからなかった。

 振り返ると、わたしは増村保造監督や溝口健二監督、ヨーロッパ映画でいうと、自我の強い女性が出てくる映画に心を強く惹かれるところがありました。

 自分自身が規律の厳しい家庭、厳しい学校で育ったことも影響してか、抑圧された中で、自我をどうやって見出すのかが、10代、20代のわたしにとって大きなテーマでした。

 そういう中で、ヒロインたちが圧倒的な自我で他者を圧倒していく。そこに彼女たちがなにか生きる術を見出していく。

 当時のわたしには、その姿がものすごく格好良く映ったんだと思うんです。

 『接吻』の小池栄子さんが演じた京子もまさにそういうヒロインでした。

 京子は一家殺人事件を起こし死刑判決の下った坂口に感情移入して、彼が自分と同じ孤独の中にいるのではないかと思い、どんどん接近して、獄中結婚までする。

 危ういですよね。傍から見たら常軌を逸しているとしか思えない。また坂口にいれあげて依存しているようにも映る。

 でも、京子は違う。坂口を愛することにも彼女には揺るぎない自我がある。

 だから、周りからなんと言われようと、気にしない。

 そういう彼女の強靭な意志を前にしたとき、死刑囚を愛するということにものすごい真実味を感じたんです。

 京子の切実さと本気が伝わってきた。

 すごい作品を撮る人がいるなと思いました。

「愛のまなざしを」より
「愛のまなざしを」より

 それで万田監督のフィルモグラフィーをさかのぼって『UNloved』をみたら、これまたものすごい自我をもった女性の物語で。

 『接吻』の京子までの狂気はないけれども、森口瑤子さんが演じられた光子は、自分の中に確固たる幸せが強固にあって、他者にまったく影響されない。

 他者からみると、彼女は不幸にみえるかもしれない。

 けれども、光子の中では、『これはわたしにとっては幸せである』としていて、それを押し通していく。頑として譲らない。

 そして、最後には男性を屈服させてしまう。

 もうほとんどホラー映画の世界ですけど、わたしの目には彼女のその生き方であったり選択が格好良く映った。

 もちろん、わたしが現実でそうなりたい、そういうことをしたいわけではありません(笑)。

 でも、やり方は違うかもしれないけれど、この社会での女性の在り方として、彼女たちのようにわたしも突き抜けた末に何かの確信を得たいなと思いました。

 一見すると、なかなか理解しがたい女性だと思うんですけど、京子にしても、光子にしても、わたしはある種のシンパシーを抱きました。

 そういうある種、異質な物語を描いている一方で、映像は厳格で緻密。

 『UNloved』の湖のシーンのカット割りなどは、その不自然さが逆に凄みに転化していた。『この監督はなんなんだろう!』と思いました。そしてこの二作品とも、脚本を万田監督の奥様の珠実さんが書かれていることを知り、さらに驚きました。

 それで、『いつかご一緒にお仕事をできたら』と密かに願っていました」

「いつか監督とお仕事がしたいです」と自分の気持ちをお伝えしました

 万田監督との出会いは2013年に訪れる。

「わたしがMCを務めていた映画紹介番組にゲストとして出演してくださって、初めてお会いしました。

 そのとき、『いつか監督とお仕事がしたいです』と自分の気持ちをお伝えしました。

 ただ、当時のわたしのキャリアからすると、万田監督とご一緒するのは恐れ多いといいますか。

 女優としても、プロデューサーとしてもまだまだで、ご相談するにはまだ機は熟していないなと。

 なので、そのときは気持ちだけお伝えして終わりました」

 その後の再会から、今回の企画は動き始める。

「2017年の富川(プチョン)国際ファンタスティック映画祭に、わたしは審査員と『雪女』の上映で、万田監督は『SYNCHRONIZER』の上映で参加していて。

 閉会式のときに、万田監督に声をかけられたんです。わたしのことを覚えていてくださって。

 そのとき、あらためて『ご一緒にお仕事がしたい』とお伝えしたら、『一緒にやりましょう』となりました」

 動き始めたとき、杉野は万田監督にこう提案したという。

「はじめは別の企画を考えていたんですけど、条件的に厳しくて、さあどうするかとなったときに切り出しました。

 『万田監督と(万田)珠実さんの新作を久しくみていない。ぜひ、お二人の作品をみたいです』と。

 珠実さんに脚本をお願いしたいわたしの希望をお伝えしました」

(※第二回に続く)

「愛のまなざしを」ポスタービジュアル
「愛のまなざしを」ポスタービジュアル

「愛のまなざしを」

監督:万田邦敏

脚本:万田珠実 万田邦敏

出演:仲村トオル 杉野希妃 斎藤工 中村ゆり 藤原大祐

公式HP:aimana-movie.com

全国順次公開中

筆者撮影以外の写真はすべて(c) Love Mooning Film Partners

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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