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魔法の「水」で全身整形!理想の美貌とプロポーションを手に入れたヒロインに待ち受ける運命とは?

水上賢治映画ライター
「整形水」より

 韓国発の長編アニメーション『整形水』は、単なるサイコスリラーと片付けられない、現代社会の歪みを辛辣に容赦なく映し出す1作だ。

 タイトルの「整形水」は、顔を浸しただけで、自分の望む美しい容姿になれる奇跡の水。作品は、この水を手にし、美にとり憑かれた女性の成れの果てを描く。

 この作品で描こうとしたこととは?

 手掛けた韓国のチョ・ギョンフン監督に訊くインタビューの第二回に入る。(全三回)。

テレビショッピングは、美を求める人々が交差する場所

 ここからは作品世界について訊く。映画の冒頭で描かれるのは、健康サプリのテレビショッピングの舞台裏。

 ある意味、美を求める人々の欲望が渦巻くこの場面は、本作の根底にある外見至上主義の社会というテーマを浮かび上がらせる。

「おそらく日本でもテレビショッピングはすごく普及していると思うのですが、韓国も同様です。

 ビューティー系に関連する商品も多いですし、あと、健康食品やダイエット食品がとても多い。

 映画で描かれているように、大抵の場合、その商品を売るために、とてもかわいいきれいない女優さんが出てきて、こんなにきれいになれますよというメッセージが打ち出されます。

 それを、ある意味、大げさだけどドラマチックな演出でみせることで、視聴者の購買意欲をかきたてて、商品を一つでも多く売ろうとする。

 一方、視聴者も、きれいな女優さんが出てくると、ほんとうにああなれるのではないかと期待して、欲望が高まってつい買いたくなってしまう。

 前提として、大抵の人は、ダイエットに失敗してしまいます(苦笑)。今度こそと思っても、うまくいかないことの繰り返し。じゃあ、運動ではなく、食事でと考えてダイエット食品を試してみる。ところが、うまくいかない。

 そんな効果がないじゃないかと思うわけですけど、テレビショッピングで美しい人が出てきて『痩せました』とか言われると、じゃあとつい買ってしまう。

 テレビショッピングは、こういう美を求める人々が交差する場所といっていいかもしれません。

 そこからは確かに『外見至上主義の社会』という本作の根底にあるテーマが浮かび上がりますね」

「整形水」より
「整形水」より

外見至上主義というのは、人間の宿命なのではないか

 こうしてはじまる物語は、自分の容姿に大きなコンプレックスを抱える主人公のイェジが「整形水」なる魔法の美容液を入手。自分の望むパーフェクトな美貌へと変身した彼女を通し、美にとり憑かれた女性の心理を描く。

 その物語は、否応なく外見至上主義の社会を鋭く問う。

 そこには、ネット上での誹謗中傷、ハラスメントなど、いま大きな社会問題になっていることも含まれ、人間が求めてやまない美しさの意味を問う。

 このことについて監督はこう語る。

「外見至上主義というのは、人間の宿命なのではないでしょうか。

 程度の差はあるでしょうが見た目というのは誰もが気にしてしまうし、その評価が自分に大なり小なり影響を及ぼします。

 今回の作品は、韓国を舞台にしているわけですけど、思うんです。『この外見至上主義は韓国だけの問題なのかな?』と。

 おそらくほとんどの国で、外見至上主義はあるのではないでしょうか。

 もっと考察すると、これは今の時代の問題ではない。それこそ古代にも『美』の基準は存在した。

 こうしたことを合わせると、人間である以上、美に対する意識を持ったり、外見至上主義に走ってしまうのは仕方ないところがあります。

 人間の本質にそういった意識があると考えざるをえません。

 人間はまず相手と向き合ったときに、どうしてもまずは目に飛び込んでくる外見を判断基準にしてしまう。

 その中にひとつ『美』を感じる部分があって、そういった美が集まって、美に対する共通認識のようなものが社会に形成される。

 その美の基準がメディアによってどんどん広がっていき、そのことに人々は囚われてしまう

 こういうことがそれこそ古代から繰り返されているような気がします。これは人間が抜け出せないマトリックスのようなものではないかと思います。

 美を追い求めるというのは、悪いことではない。自分の中でとどめておくぶんには問題ない。

 本当の問題は、自分の中に美の基準を持って、それを相手に強要することだと思います。

 そして、自分の基準に合わない場合には、相手を差別したり、蔑んでしまったりする。それが社会全体に及び、バッシングや誹謗中傷が起きる。

 そういう社会は、やはり生きづらいですよね。

 重ねてになりますが美を求めることは悪いことではないと思います。

 でも、相手に強要すると差別や誹謗中傷が生じる可能性がある。そのことをわたし自身も含めひとりひとりが気をつけたいですね」

「整形水」より
「整形水」より

美の象徴として存在することを求められる

俳優からそういう動きがでることはいいこと

 最近になって、外見至上主義に対抗するように、ハリウッドで活躍する俳優が、自分の体や容姿の映像および画像を修正することを許さない動きが出てきている。

 このことはどう受け止めているだろうか?

「わたし個人としては、とてもいい流れだと思っています。

 ただ、大きな視点で考えると、意味があるのかはわからないというか。

 たとえばエイリアンが地球にやってきて、その俳優の修正した写真と、ありのままの写真をみたとする。でも、あまり違いがわからないと思うんです。

 それぐらいの程度のことに過ぎない。ただ、ある意味、美の象徴として存在することを求められる俳優からそういう動きがでることは、いいことだとわたしは思います。

 ありのままでいいというメッセージでもあると思うので」

(※第三回に続く)

「整形水」より
「整形水」より

「整形水」

監督:チョ・ギョンフン

東京シネマート新宿ほか全国順次公開中

写真はすべて(C)2020 SS Animent Inc. & Studio Animal &SBA. All rights reserved.

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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