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「誰もが」に障がい者やLGBTが入っていないことが多々ある。ここは誰もが平等に楽しめる場所

水上賢治映画ライター
「colors」の代表、石川悧々さん 筆者撮影

 東京都大田区にある、バリアフリー社会人サークル・colorsを500日間にわたって撮影したドキュメンタリー映画「ラプソディ オブ colors」。

 障がいのあるないにかかわらず、さまざまな人が集い、言いたいことを言い合い、表現するユニークな場所になっているこの場を撮影し続けた本作については先に佐藤隆之監督のインタビュー(前編後編)を届けた。

 それに続き、今度は「colors」の発起人である代表の石川悧々さんのインタビューを届ける。(全2回)

 佐藤監督のインタビューでも触れているように、石川さんは頚椎損傷と脳の血種による障がい者。

「colors」の代表を務める一方で、現在はDET(障害平等研修)の認定ファシリテーターとしても活躍している。

 つまり障がい者であり、障がいの理解啓発活動や支援に携わる存在でもある。

 はじめに、「colors」という場を作り上げたのはどういうきっかけだったのか?

もともと、こういう場所を作ろうと思って作ったわけじゃないんです

 ちなみに、「ラプソディ オブ colors」に記録されている、かつての「colors」(※現在は別の場所に移転)があったのは古い3階建てのシェアハウス&イベントスペース「トランジット・ヤード」内。

 ここは1階がイベントスペース「Transit Cafe Colors」となり、colorsとNPO法人「風雷社中」が協働運営し、定期的にイベントを行い、障がいのあるないにかかわらず、さまざまな人が集う場になっていた。

 2階にはカメラマンやヘルパーさんらがルームシェアしており、3階には重度知的障がいのあるげんちゃんが1人暮らしをしていた。

「もともと、こういう場所を作ろうと思って作ったわけじゃないんです。

 まずはじめにあったのは、げんちゃんの1人暮らしができないかということ。

 『風雷社中』が、彼のヘルパーをしていて。24時間介助者をつけての一人暮らしができるよう動いていた。

 なぜ、そういうことをしようと動いていたかと言うと、たとえば、諸事情があってめんどうをみることが困難になった親が知的障がいの人を施設に預けようとする。

 すると、いまの現状だと、北海道や秋田といった遠い施設になってしまうことが珍しくない。

 たとえば両親が高齢だと、施設に預けたら最後、もう一生死ぬまで会えないみたいなのことがあったりするんですね。

 そういうことがあって結果的に施設に閉じ込めてしまうこともあるから、げんちゃんの両親はなんとか息子に一人暮らしをさせたい意思があった。

 でも、事情を話しても、理解が得られなくて、障害者に部屋を貸してくれる大家さんがみつからない。

 そんなときに、たまたま映画に登場する3階建ての一軒家が空くことになり、借りられることで話しがまとまった。

 げんちゃんが一人暮らしをするのは3階のスペースで十分。

 ということは1階と2階が空く。じゃあ、どうするとなって、はじめに2階は、居住スペースとして貸し出そうということで話しがまとまった。

 それで残りの1階は店舗にしようと決まったんですけど、予算はゼロだし、やり手がいなかったんですね。それで仕方なく『じゃあ、わたしがなんかやります』と。私自身は自分で何かやりたいなんて気持ちは全くなかったですけど、空けとくわけにも行かず、仕方なく(笑)。

 当初は、シンプルに安い値段のカフェにしたんですけど、朝から晩まで居続ける人や、お金を払わない自称関係者たちで溢れかえってしまって、そんな非常識な人たちの相手をボランティアでしなければならないので疲れてしまった。

 それで、じゃあイベントを開いて、そのときだけ開けるフリースペースにしようと思ってはじまったのが『colors』という場でした」

「ラプソディ オブ colors」より
「ラプソディ オブ colors」より

誰もが平等に遊べる場所を作りたかった

 最初は、障がい者と健常者が集まるスペースにしようとか 障がい者と健常者の架け橋になる場所にしようとか、そういった意識はまったくなかったという。

「障がい者とか、健常者とか、そもそも誰かに向けて開こうとか考えていませんでした。

 なんか、気づいたら、いろいろな人が集まる場所になっていたんですよ。

 なぜ、そうなったかというと、それはたぶん、わたしが代表だからということはあると思います。

 『colors』が障がい者が始めた社会人サークルであることや、自分がシングルマザーということは公表していましたし、本業ではDET(障害平等研修)の認定ファシリテーターをしている。

 だから、『あの人がやっているから障がい者がいっても大丈夫なんじゃないか?』みたいな感じで障害のある人々が顔を出すようになったり、障がい者支援をする人が集まってきたりして。

 そこから今度は、地元の人が『なんだか面白そうなことをやっている』と入ってくるようになっていった。

 最初は、やっぱり福祉っぽい集まりになっちゃったんですよね。関係者以外お断りではぜんぜんなかったですけど、結果としてはそんな感じでした。

 それは、わたしは閉鎖的に感じて、面白いとは思えませんでした。

『障害者のためのイベントです』というと、『障害者を応援してあげるために行こう。障害者をお手伝いしよう』という人が来ることが多く、それでは参加者が平等な関係にはなれない。誰もが平等に遊べる場所を作りたかったんです

 そうしたら、いつからか近所の人が来てくれるようになって。来てくれた人が『あそこおもしろかった』とまた知人に伝えてくれて、口コミで広がっていろいろな人が集まるようになっていってくれたんです。

 それでどんどん輪が勝手に広がっていってくれた。

 気づけば多様性のるつぼになってしまった感じです(笑)」

『誰もがウェルカム』の『誰もが』に

障害者やLGBTが入っていないことが多々あります

 あらゆる人に開かれた場所にしたいと思った背景にはこういう経験もあった。

「『誰もがウェルカムで楽しめる場所ですよ』とうたっているスペースやイベントっていっぱいある。

 でも、実際に行ってみると、『誰もがウェルカム』の『誰もが』に障害者やLGBTが入っていないことが多々あります。マイノリティも平等に楽しめる配慮がなされていないことが多い。

 たとえば、聴覚障害のある人でも楽しめるとうたったイベントが、いざ行ってみると、手話通訳しか付いていなかったりする。手話を使う聴覚障害者は全体の3割ほどだと言われています。

 身体に障がいがある人もOKといいながら、会場にスロープが整えられなかったりする。

 そういう経験をしていたので、『colors』はそんな立派な設備は整えられないですけど、不備はないようにして誰もが平等に楽しめる場所にしたいなと。

 そこはきちんと考えました。

 たとえば、colors の店内は、磁気ループというものを天井に這わせあり、その中にいれば補聴器を付けてる人でも健常者と同じように音楽や講演を楽しめますし、私が手話で説明したりUDトークで文字情報も出したり、と、とりあえず楽しめる最低限のケアはする。磁気ループ常設の個人店は、私はcolors の他には聞いたことがありません。

 そういう自分たちなりの工夫をしたことで、安心してあらゆる人がきてくれるようになったような気がする。

 あと、それなりに知られた歌手の方もライブを開いてくれて。すると、その人のファンも来るんですよ。

 当然ですけど、そのファンの方々は『colors』のことなんかぜんぜんしらない。

 だから、最初はびっくりするんですよ。『なんか耳の聞こえない人がいる』とか、『げんちゃんが後ろで踊ってた』とか言って。

 でも、そのうちなれて、『そういう人もいるのが当たり前なんだよね』とみんなの共通認識になっていく。

 そうやって、一緒に対等に平等にイベントで楽しむことによって、『ほんとに誰でも来れるよ』っていう、人の心の中の偏見を取り除く心のバリアフリーと、ユニバーサルデザインが自然とできていったかなといまは思います」

「ラプソディ オブ colors」より
「ラプソディ オブ colors」より

なぜかLGBTの人も。いろいろな人が来て、さまざまな出会いのある場所に

 ここまでいろいろな人が集まるようになるとは思っていなかったという。

「面白いのが、なぜかLGBTの人もけっこう多くくるようになったんですよ。なんか『colors』だったらカミングアウトしても別に嫌な感じはしないみたいで。

 訊くと『普通の集まりでカミングアウトすると、もう二度とこの店には行けないみたいな雰囲気になっちゃうことがけっこう多い』と。

 『でも、「colors」だったら大丈夫、カミングアウトしても誰もそれを大して驚かない』って (笑)。映画を観れば一目瞭然ですが、もっともっと個性の強い人たちもいっぱい来てますから。

 なんかそんな感じで、いろいろな人が来て、さまざまな出会いのある場所になっていきましたね」

その人自身でみんなにみてもらえる場所。それが「colors」

 今回の作品についてこう言葉を寄せる。

「ひとつだけ言うと、私が障がい者になったのは十数年前。

 身体障害が進んでいくほどに、だんだん歩けなくなってきちゃって、3年半ぐらい前から車いすに乗るようになりました。

 それで電動車椅子に座っていろいろと相手の方と応対するんですけど、名刺交換しただけで『あなたのことは理解してますから』とかって言うような人が増えたんですよ。

 それって、私のことは名前しか知らないんだけど、いわゆる『車いすユーザーはこういう人だ』と思っていて、そのことに対して自分は心得ているっていうことなんですね。

 つまり、車いすに乗りだしたら、私という人間を見て理解するんじゃなくて、もう、車いすで理解されるようになってしまった。

 人と人が向き合うって、そういうことじゃない。

 車いすに乗っている人ではなく、『石川』という個人をみてほしい。

 『colors』はまさにどんな障がいがある人でも、その障がいではなく、その人自身でみんなにみてもらえる場所。その人自身としてそこに存在できる。

 そういうことが映画から伝わってくるのではないかと思っています」

(※第二回に続く)

「ラプソディ オブ colors」より
「ラプソディ オブ colors」より

映画「ラプソディ オブ colors」

監督・撮影・編集:佐藤隆之

出演:石川悧々 中村和利 新井寿明 上田繁 Mayumi ほか

全国順次公開中

公式サイト:https://www.rhapsody-movie.com/

場面写真はすべて(C) office + studio T.P.S

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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