演劇ユニット「ピンク・リバティ」の代表をつとめ、劇作家・演出家として活躍する山西竜矢が初めて映画監督に挑み作り上げたオリジナル長編作品「彼女来来」。

　ある日突然恋人が別人に入れ替わるという不条理かつ不可思議な現象が見舞われた男・紀夫の恋愛の行方を描く本作においてのキーパーソン、マリを演じた注目の新進女優、天野はなに訊くインタビューの後編へ。

　長く恋人関係にあった茉莉と入れ替わるように突如現れ、主人公の紀夫を苛立たせ、その心をかき乱すマリ。

　なにか得体の知れない怪しさを漂わせながらも、彼女はなぜか人を惹きつけてやまない。

　そんなつかみどころのない難役をいかにして演じ切ったかを中心に前回のインタビューでは訊いた。

クラシック・バレエから演劇の世界へ

　後編では、今後の飛躍が大いに期待される彼女に、この道に進むきっかけや今後の目標について訊く。

　俳優の道に進んだきっかけをこう語る。

「高校生までずっとクラシック・バレエをやっていました。

　ただ、高校の卒業が迫ったとき、バレエのプロになることはあまり考えていなかった。

　なにか別のことをやりたい気持ちがありました。

　その中で、大学でじゃあ何を学びたいかとなったとき、バレエをしていて舞台というものはすごく好きだったんですね。

　そこで舞台に関することを学べる場所はないかと探し始めて、目にとまったのが、明治大学文学部文学科演劇学科でした。

　実技はなく、学問として演劇を学べるということで、わたしは希望したんですけど。

　実際に入学したら、みんなが演劇をやっていて、なんだか楽しそう。『ああ、私もやってみたい！』と思って、興味を抱きました。

　だから、演劇をちゃんと観にいくようになったのは大学生になってから。実際に演じる側になってお芝居に触れたのも大学に入ってからでした」

　そこで舞台の魅力を知ったという。

「同い年の学生たちが自分たちで公演をうつとなると、制作から裏方までなにからなにまでやらないといけない。

　ひとつの舞台公演を作り上げるために、スタッフを集めて、キャストを集めて、稽古をして、美術とかも自分たちの手で作って、ちゃんと宣伝もしてチケットも売る。

　そこで『こうやってひとつの舞台ってできていくんだ』と実感しました。

　それから劇場に通うようになって、さまざまな舞台をみて、いつも『自分がどうすればこういうところに出られるんだろう』と考えていました。

　学生でしたから、すごい自分からは遠い場所のような気がして、遠くから憧れのような眼差しで見ていたと思います」

舞台「散歩する侵略者」立花あきら役は絶対に手にしたかった

　俳優として本格的にやっていくことを心に決めたのは2017年の劇団「イキウメ」の舞台「散歩する侵略者」への出演が決まったことだった。

「演じた立花あきらは、『絶対にやりたい』と思った役だったんです。

　どうにかして手にしたい役でした。

　だから、退路を断つぐらいの意気込みで、ほんとうにオーディションに受からなかったら、俳優はあきらめて就活しようと思っていました。

　それでなんとか合格して、立花あきらを演じることができた。その喜びとうれしさだけで突っ走って、気づいたら数年たっていまここにいる感じです（笑）」

　オーディション合格の日はいまも鮮明に覚えているという。

「ほんとうにうれしくて。『合格です』と伝えられた後、いてもたってもいられなくて、家まで走って帰ったことを覚えています（笑）。

　それぐらいやりたい役でしたし、振り返ると、『落ちたら就職する』と心に決めたものの、たぶんお芝居を続けたかったんだと思います。

　だから、そのとき、それだけ喜びが爆発したのかなと思います」

役を演じることをつきつめると、ひとりの人としていかに

きちんと立てるかが大切な気がする

　現在は舞台に限らず、ドラマや映画にも出演し、俳優としての幅を広げる。

　今後の飛躍が期待されるが、現状を本人はどう受け止め、今後をどう見据えているのだろうか？

「まだまだ未熟で毎日勉強することばかりです。

　俳優のみなさんやはりそれぞれその人にしかできないことをもっていて芝居に出す。

　どなたをみても、『あっ、すごいな、わたしはこんなこと思いつかない」と思うことが共演していて多々あります。

　なので、自分はこの仕事に向いてないかもとか弱気になるときがあるし、すごく楽しくて、すごく好きなことなんですけど、手放しで『楽しいです』『好きです』『エンジョイしてます』っていう感じではないです。

　悩みが尽きないです。

　ただ、最近思うのは、役を演じることをつきつめると、ひとりの人としていかにきちんと立てるかのような気がするんです。

　ひとりの役者としていっぱい芝居をみたり、映画をみたりして刺激を受けて、見聞を広めることはもちろん大切。

　でも、演じることだけに頭でっかちになってしまうと、むしろ自分の視野を狭めてしまうのではないか。

　自分がこの現実の社会をきちんと生きることで見えてくるもの、感じるものも同じように重要な気がするんです。

　普段の生活に役や表現につながるヒントがいっぱいかくれているし、どんな役を演じてもどこか自分の生き方や姿勢が出てくると思うんです。

　なので、いまはお芝居や映画のことを考えながらも、人として豊かな毎日をちゃんと過ごすことを心がけています。

　とはいえ、お芝居に正解はないし、自分が見つけていないことがたくさんあるはず。これからもさまざまなことを学んで、いろいろな役にチャレンジしていきたいです」

「彼女来来」

監督： 山西竜矢

出演：前原滉　天野はな　奈緒ほか

公式サイト http://sherairai.com

新宿武蔵野館ほかにて全国公開中

場面写真およびポスタービジュアルは（C）「彼女来来」製作委員会