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結婚・出産を迫られる独身ヒロインに男性から「共感」の声多数!「地方で生きる人たちにもっと届けたい」

水上賢治映画ライター
(C)「Eggs 選ばれたい私たち」製作委員会

 まだ日本ではあまりなじみのない、子どものいない夫婦に卵子を提供するエッグドナー(卵子提供者)に志願した独身主義の純子を通して、現代を生きる女性の心模様を映し出す映画「Eggs 選ばれたい私たち」。

 東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会で起きた騒動をはじめ、女性蔑視発言が後を絶たない現在の日本に一石を投じ、現代女性のリアルな声を届ける本作については、これまで川崎僚監督(前編後編)、主演の寺坂光恵(前編・後編)と 川合空(前編後編)のインタビューを届けた。

 そして、今年4月から公開がスタートし、これまで東京・大阪・京都と上映されてきたが、作品には多くの関心が寄せられ、多くの声が届いている。

 新たに始まった名古屋シネマスコーレでの公開に合わせ、これまでの反響を改めて川崎僚監督に訊いたインタビューの後編へ入る。

 前回のインタビューでは主に作品に寄せられた反響の声について訊いた。

自身の体験を語るのは伊丹十三監督の影響かも

 それだけ多くの声が届いたのは、川崎監督が実体験をもとに身をもって女性が出産や結婚について直面する現実問題をひとつの覚悟をもって訴えかけたところが大きい気がする。このあたりは、どのようなに考えているだろう?

「映画作家によっては自身の体験を切り売りするようなことをよしとしない人もいる。

 ただ、わたしは伊丹十三監督が好きなんです。伊丹監督は実体験をもとにした映画をたくさん発表している。

 ヤクザと対峙する女性弁護士を描いた『ミンボーの女』を公開したときは、暴力団の襲撃を受けた。

 でも、それに屈しないどころか、そのときの身辺警護の体験をのちに『マルタイの女』という映画に結実させている。

 伊丹監督の作品を見ていると、実体験だからこその説得力があっておもしろい。

 自身の体験を映画にすることにあまりためらいがないのは、伊丹作品への憧れがあるからかもしれません。

 あと、わたしが映画の力ですごいなと思うのは、主人公ならば主人公の感情がしっかりと伝わってくることで他人事でなくなるというか。

 その人物に感情移入したり、その気持ちを共有することで自分の身に置き換えて考えることができる。

 『Eggs 選ばれたい私たち』にしても、男性がこれだけきてくれたり、女性の気持ちや生理のつらさや出産しないことに対する後ろめたさに理解を示してくれる声が集まったのは、純子に感情移入するところがあったからこそ。

 だから、そこに嘘があってはいけないというか。映画自体はフィクションですけど、その人物に込めた気持ちや感情に嘘があってはならないと思うんです。

 偽らざる自分や周りの友人たちの本心や本音をそこに丁寧にすくいとってしっかりと根付かせて封じ込めないといけない。

 『Eggs 選ばれたい私たち』に関しても、わたしと周りの友人たちのことを描いた。そして、まず友人たちに届けたいと思いました。そこが基本にあります。

 そうでなければ、人には届かないと思うんです。

 ですから、自分の思いを包み隠さず明かすことに対して抵抗感はなかったです」

『Eggs 選ばれたい私たち』 川崎僚監督 筆者撮影
『Eggs 選ばれたい私たち』 川崎僚監督 筆者撮影

ネットによって意識が共有できて、なにか物事が解消される方向にいく

循環みたいなものが出始めている気がする

 作品に関するネット上で飛び交う話をみていて、こういうことも思ったという。

「ネットによって、誰もが自分のことを発信できる時代に入っている。

 そのことで意識が共有できて、なにか物事が解消される方向にいく循環みたいなものが出始めている気がするんです。

 たとえば、自分がある悩みを抱えていて、昔はそんなことで悩むのは『自分だけではないか』と『自分だけが変なんじゃないか』と思って、余計に誰にも打ち明けられないでいたような状況があった。

 でも、いまはネットで問うことで、自分だけじゃなくてほかにも同じような悩みを抱えている人がいることがわかる。それでひとつ安心して、そのことが起点となって社会がかわっていくことが増えていると思うんです。

 たとえば被災グッズとして生理用品が常備される流れがあったり、今回のコロナ禍で生理用品が買えないほどの女性の困窮が問題になったりというのは、ひとりが声をあげることで同じようなことを感じていた人がほかにもたくさんいて、それが社会に知られることで表面化して議題としてのぼり、解決の方法が模索されたところがあると思うんです。

 わたしたち個人が思っていることを素直にいうことができる環境が少しずつ整ってきているのではないかと思います。

 『Eggs 選ばれたい私たち』は、そのネットのいいところ、悩みを共有できるところにも寄与できたのではないかと思っていて。いままであまり言えなかった結婚や出産に関しての本心を吐露できる作品にもなったのではないかという手ごたえがあります」

 その作品に対する反響を示すようにこういうこともあったという。

「実は、協力してくださった卵子提供支援団体の方からうかがったんですけど、この作品が公開されて以降、問い合わせが増えたそうです。

 『こんなに問い合わせがきたのは初めて』というぐらいきたそうで。この作品がエッグドナーを知るきっかけに少しでも寄与できて、誰かの人生の選択肢を増やすきっかけになれたならうれしいですね」

『Eggs 選ばれたい私たち』より
『Eggs 選ばれたい私たち』より

『ミッドナイト・スワン』の内田英治監督に勇気づけられました

 ロードショーが続く中で、こんなことを感じている。

「たぶん、わたしが生まれる前からここに登場する純子のようなことを思っていた女性はいっぱいいたと思います。

 昔からあった女性にとって切実な問題だったのに、表面化していなかった。

 女性に関する問題への気運が高まっているいま、届けられてほんとうによかったなと思っています。

 あと、内田英治監督がアフタートークでいらっしゃってくれたときがあったんです。

 それでアカデミー賞を受賞した『ミッドナイト・スワン』との共通点を語ってくださった。

 確かに、LGBTQのこと、母になるということなど、共通点があって、内田監督が『こういう映画を撮り続けてほしい』とエールを送ってくださった。

 男性の監督からこう言っていただけたのは、心強かったですし、自信もつきました。

 その一方で、ちょっと反省もしたといいますか。

 前回お話しましたけど、わたしはどこかで女性しか興味をもってくれないし、劇場にきてくれないと思っていた。

 男性にあまり期待していなかったわけです。『どうせ男性はわかってくれないだろう』と。わかってもらいたいから男性に来てほしいと思いつつも、現実としては難しいだろうなと思っていた。

 でも、実際は違って、内田監督をはじめ共感を寄せてくれる男性が多数いた。理解を示してくれる男性が大勢いた。男性のみなさん『ごめんなさい』という気持ちで。反省しました(笑)」

地方で生きる人たちにもっと届けたい

 これからさらに多くの人に届けることを目指す。

「わたしは大分出身で、大学から東京に出てきましたけど、この映画で描かれているようにここまで生きづらさを感じたわけです。

 でも、もし大分にそのままいて結婚もしていない、子どももいないとなったら、その比じゃないぐらい、生きづらかったろうと想像できる。

 東京はまだ紛れられる。でも、地方では逃げ場がほとんどないと思うんです。

 ですから、地方で生きる人たちにもっと届けたい。

 この作品で描かれていること、主人公の純子に出会ってもらえれば、少しは心が軽くなるのではないかと。同じような悩みを抱えているのは自分だけではないと、作品が寄り添えるのではないかと思うんです。

 そのためにも、どうにかして地方での公開機会を増やしていって、最終的には配信も視野に入れて、より多くの人に届けられればと思っています」

『Eggs 選ばれたい私たち』より
『Eggs 選ばれたい私たち』より

「Eggs 選ばれたい私たち」

監督・脚本:川崎僚

出演:寺坂光恵 ​川合空 三坂知絵子ほか

6月25日(金)までシネマスコーレにて公開

詳しくは、こちら

場面写真はすべて(C)「Eggs 選ばれたい私たち」製作委員会

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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