営業成績トップからシュレッダー係に追いやられたひとりの社員を通し、CMでのおなじみの引越会社のブラックすぎる実態を暴き出した土屋トカチ監督の衝撃のドキュメンタリー映画「アリ地獄天国」。

 2019年の年末から公開がスタートした同作は、新型コロナウィルスの感染拡大による1回目の緊急事態宣言での映画館閉鎖の影響を大きく受けながらも、地道に公開が続き、その間、国内外の映画祭で数々の賞を受賞。昨秋から東京での劇場公開やアンコール上映が相次ぎ、働く環境が今まで以上に見直されているコロナ禍で「アリ地獄天国」がさらに注目を集めていることを昨年11月の土屋監督のインタビューでお伝えした。

 以後も同作は、全国の劇場を行脚中。2月以降も全国の劇場での公開が続々と決まっている。

 こうした反響の声が続く中、今度は、特別に1日だけのオンライン配信上映イベントの実施が決定!開催直前、土屋監督に話を訊いた。

 はじめに、初公開から1年以上、まだロードショー公開は継続中。このロングラン上映をどう受け止めているのだろうか?

「正直なことを申しますと、興行的な成功でのロングランではありません。

 コロナ禍の影響を受け、関心を持っていただき上映を決めていただいていた劇場側の予定が大幅にズレ込んでしまったため、公開が続いているところがあります。

ただ、その間、観客の方からの、熱烈な感想が多く寄せられています。このことが何よりも嬉しいし、とても励まされます」

まだまだ劇場公開続く最中の本日(1月30日)、オンライン配信上映会の実施に至った理由

 全国各地での公開が続く中、今回、1回とはいえ、オンライン配信上映に至った理由をこう明かす。

「コロナ禍の影響で、オンライン配信はやむなく世界的に広がったところがあります。その中で、本作『アリ地獄天国』は、昨年6月ドイツで開催された世界最大の日本映画祭、第20回ニッポンコネクションで、急きょ設けられた第1回ニッポンオンライン賞(いわゆる観客賞)を受賞しました。

 国内でも、昨年11月に開催された福井映画祭14THにて長編部門観客賞(グランプリ)を受賞。福井映画祭で長編部門でドキュメンタリー映画が観客賞を受賞したのは本作が初とのことですが、そのとき劇場でご覧いただいた観客の方から『自分自身の労働環境を問われる映画なので、オンライン配信向きかと思います』といった感想を多くいただきました

 で、実は、昨年、アメリカ、ニューヨークにあるジャパン・シネマ・ソサエテイで、『アリ地獄天国/An Ant Strikes Back』の英語字幕版をオンライン配信していて。日本国を除くすべての国では、オンライン配信で見ていただく機会をもちました。

 こうした経緯があって、今回、日本でのオンライン配信を思いたちました。

「アリ地獄天国」より
「アリ地獄天国」より

 また、全国にはミニシアターが存在しない市町村もあります。今はコロナ禍のため、外出が不安な方も多くいらっしゃいます。本作は主人公が、自身の労働環境のひどさに気づき、状況を変えていく物語ですので、劇場で観る以外の手段を作り手側が積極的に提案していくことも必要と感じていて、これもまた今回のオンライン配信イベントを組んだ大きな理由です

今はミニシアターが補償なき営業時間短縮が求められているため、長くトークイベントに時間を割くのが困難なとき。そういうときだからこその試みに

 もうひとつこういう思いもあったという。

「これまで、ミニシアターでの上映に際し、トークイベントを劇場から生中継してきたのですが、今はミニシアターが補償なき営業時間短縮が求められているため、長くトークイベントに時間を割いていただくのが困難になっている現状があります

 でも、オンライン配信なら、ネット環境とこちらが準備することで問題なくイベントに取り組める。それで、今回のトークイベント付きのオンライン配信をやってみようとということになりました。もちろん、上映日程がかぶってしまって、ご迷惑をおかけしてしまうミニシアター様には事前に了承をいただいております」

 今回のイベントは、見た人々の働き方について考える機会になり、雇止めや不当解雇といったことが急速に進む現在のコロナ禍においても身につまされ、考えさせることが多々含まれている「アリ地獄天国」が持つ社会へのメッセージを届けつつも、この場限りの楽しいイベントにしたいという。

コロナ禍のため、職を失った人が国内で8万人を超えたと報道されています。実際にはもっと多いでしょう。コロナを理由に解雇を迫られた事例も後を絶たない。これからさらにこうした報道は増えるでしょうし、アルバイトの職を失い、困窮状態にある学生も増えています。こんなときだからこそ、本作は観てもらいたいんです

 しかし、私だけで話すと、そのような直接的なメッセージのみに終始してしまいそうになります。また、本作を作った大きな要因でもある自死してしまった友人のことを思い出して泣いてしまって取り乱してしまうかもしれない。

 ということで、村上浩康監督とのトークイベントでより楽しいものにできるのではないかと思い、今回のトークイベントを企画しました。

 実は、村上監督とは『猿蟹合戦』なるトークユニットを昨年11月頃から組んでいます。互いに猿と蟹の被り物で、まず出落ちする(苦笑)。以降は、真面目に映画話をするイベントです。

 この間、首都圏を中心に開催してきましたが、オンライン配信では初披露。今回はチャットで質問も受け付けます。参加して楽しんでいただきたいです」

 村上浩康監督は、2019年に『東京干潟』『蟹の惑星』を公開。『東京干潟』が、門真国際映画祭2019ドキュメンタリー部門最優秀作品賞、新藤兼人賞2019金賞、グリーンイメージ国際映画祭グリーンイメージ賞などを受賞。『蟹の惑星』が、令和2年度文化記録映画優秀賞、座・高円寺ドキュメンタリ―フェスティバル大賞、新藤兼人賞2019金賞、グリーンイメージ国際映画祭グリーンイメージ賞などを受賞しているドキュメンタリー作家だ。

「村上監督とは、彼の前作『流 ながれ』が発表された2012年ごろに友人を介して知り合いました。2019年の山形国際ドキュメンタリー映画祭に、彼は『東京干潟』で、私は本作で日本プログラムで選ばれたことを機に、再会しました。山形のホテルでは、部屋が隣だったので毎晩一緒に飲んでましたね。そのころから、兄貴として慕わせてもらっています(笑)。

土屋トカチ監督(左)と村上浩康監督(右) 提供:土屋トカチ監督
土屋トカチ監督(左)と村上浩康監督(右) 提供:土屋トカチ監督

 僕にとって村上監督は、絶対に負けたくない良きライバルであります。村上監督と私は、制作する作品のタイプがまったく違うのですが、彼の作風から学ぶことが私にはとても多いです。また、彼の映画評も独自のものがあり、そこにも惹かれます。

 とはいえ、二人で話すときは観客に楽しんでもらえることをモットーにしております。ぜひ、アクセスして楽しんでいただければと思います」

 コロナ禍で労働環境の悪化が伝えられ、雇止めや休業手当の未払いなど、さまざまな問題が浮上する中、「アリ地獄天国」はいま苦境にいる人にきっといろいろな気づきを与えてくれるはず。そういう意味で、働く人の味方になってくれる映画といっていい。まだ未見の人はぜひこの機会に目撃してほしい。

<映画「アリ地獄天国」スペシャルトーク付きオンライン上映会 Vol.3>

オンライン配信サイト にて

https://streaming.zaiko.io/_item/335198

【スケジュール】

1月30日(土)

14:00~本編オンライン上映開始

15:40 本編終了、トーク開始

16:30 トーク終了予定

【チケット代】1800円 (購入手数料275円が別途かかります)

アーカイブは、2/2(火)の23:59まで視聴可能

場面写真はすべて(C)映像グループ ローポジション