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「おじカワ」の演技も話題を集めた桐山漣。シリアスもコメディもハマる彼の目指す先は?

水上賢治映画ライター
「海の底からモナムール」で主演を務めた桐山漣 筆者撮影

今一番振れ幅のある俳優になりつつある桐山漣 

 まずは、桐山漣(※漣はさんずいに連が正式表記)のこれまでの出演作品を検索してみてほしい。2006年のデビューからほぼ途切れることなく、映画、テレビドラマ、舞台など、すでに数えきれない作品に出演してきたことに驚くことだろう。

 その間、役者としての地力を着実に強化してきた彼は、いま独自のポジションを築きつつある。キリっとした美形の役はもとより、嫌味なヒール役も似合う。シリアスな演技もできれば、コメディ作品にもピタッとはまる。今一番振れ幅のある俳優になりつつあるといっていい。

 フランスのロナン・ジル監督が手掛けた映画『海の底からモナムール』は、新作ではあるが2017年度の作品。撮影から数えると約5年を経ての劇場公開となる。今公開される心境をこう明かす。

「確かにうれしいんですけど、僕個人はなかなか直視できないというか。この作品に限らず、自分の出演した過去の作品ってほとんど見返さない。シーズン2が始まるとか、どうしても見返す必要がある場合は見ますけど、そういう理由がない限りは自分の過去の作品を目にすることはほとんどない。

 今回だったら、撮影から5年も経ってるので、その間自分の演技も変わっている。だから、見返すと、今だったらこういうふうにするとか反省点をいくつも見つけちゃって、もう嫌になるんです。そっと目を閉じたくなってしまう(苦笑)。

「海の底からモナムール」より
「海の底からモナムール」より

 たぶんほかの役者さんも、そのとき、そのときに全精力を注いで役を生み出している。それをどんどん積み重ねて、自分をその都度、更新しているところがあるから、そこに過去のものがパッと突然入ってきたりすると『いや、いや、いや』というところはあると思う。

 映画祭での上映のみで終わってお蔵入りしてしまうのではないかと本気で思っていましたから、今回公開の運びとなったことがすごくうれしいのは確か。

 でも一方で、ちょっと自分としては恥ずかしい。『いま、あのときの自分を見られてしまうのか』と(笑)

従来の日本のホラーとは違う、これは愛の物語

 ただ、いまはもっとできたのではないかという歯がゆさはあったりするけど、当時の自分たちで精いっぱいやった作品。そこに悔いは特にない。ですので、新作映画として、ひとりでも多くの方に見ていただけたらうれしいです」

 本作は、桐山演じるタクマが、高校卒業以来、10年ぶりに生まれ育った島に戻り、10年前にイジメで崖から飛び降り、幽霊となり海底をさ迷う元同級生のミユキに遭遇してしまう物語。ホラーにもラブストーリーにも受けとめられる不思議な物語が展開していく。

「脚本を読んだときは、ホラーと思ったんですけど、監督の中では愛の物語でもあるということで、そう受けとめました。

 確かに現場に入ったらそのことは感じて、いわゆる従来の日本のホラーとは違う。清水(くるみ)さんが演じたミユキがそもそも幽霊のルックスじゃない。僕はやはりたとえば貞子とかの容姿をイメージしていたんですけど、セーラー服を着た人間の姿で、逆にびっくりしました(笑)

 あと、監督がフランス映画らしさというか恋愛の描写をすごく大事にしていて。ミユキは何度も『私を愛して』と言うんです。『あなたを愛している』ならわかるんですけど。

 その愛の伝え方や従来の日本のホラーとは違うテイストが合わさったとき、どんな世界が広がるのかなと楽しみでしたね」

桐山漣 筆者撮影 ヘアメイク:江夏智也(raftel)スタイリスト:吉田ナオキ 衣装協力:WYM LIDNM、REV、GARNI、NUG
桐山漣 筆者撮影 ヘアメイク:江夏智也(raftel)スタイリスト:吉田ナオキ 衣装協力:WYM LIDNM、REV、GARNI、NUG

タクマのような高校生の男子はけっこういるんじゃないか

 演じたタクマ役をこう紐解く。

現代の若者像に近いような気がしました。自分が思ってることを素直に伝えることが苦手。でも、周囲とはどうにかうまく折り合いがつけられる

 だから、いじめられっ子のミユキとも、ほかの子とも分け隔てなく付き合える。いい意味で言うと、誰とでも付き合えるタイプ。悪く言うと、誰にでもいい顔をする。

 5年前の作品ですけど、むしろいまこういう高校生の男子、けっこういるんじゃないかなと。今っぽい男の子だと思います

桐山漣 筆者撮影 
桐山漣 筆者撮影 

 ミユキが身を投げた一件から、島に近づかないできたが戻ってきたタクマと、いじめられっ子の自分に唯一優しくしてくれた彼にただただ愛されたいという一心で、17歳のままの姿でゴーストとなって海底でずっと待っていたミユキ。この二人の関係はこう感じていたという。

「一見するとタクマは誰にでもいい顔をするタイプなので、いじめられていたミユキにもいい顔をしてただけにも見える。だから、一方的なミユキの片思いにも映る。

 でも、僕は演じていて、けっこうタクマにとってミユキって気になる存在だったんじゃないかなと思いました。イジメとか目の当たりにすると、今の自分だったら制することができるけど、高校生ぐらいだと学校の世界がすべてだから、なかなか立ち上がれない。でも、誰もいないところではふつうに話しかけて、写真を撮らせてと言ったりしている。

 それを考えるとタクマの視野には完全に入っていた気がする。それがミユキへの恋愛感情かは定かじゃないけど、気になる存在ではあったんじゃないかなと思います」

 結末なので明かせないが、二人の関係の結末に関してはこう語る。

「自分が高校生のときどうだったかと思い返してみると、やっぱり周りの目ってすごく気にはしてたなと。

 だから、たぶんこのぐらいのころの高校生って好意を抱いてくれる子にアプローチされても、それを100%受けとめることはできない。たとえその子に自分が好意を抱いていても、ちょっと周りの目が気になって。

 そういう思いがタクマにもあったんじゃないかなと僕は感じていて。彼は受けとめることができなかったことが、ミユキをあらぬ方向に向かわせてしまったのではないかと考えていて、そのことがずっと引っかかっていて悔いていた。

 だから、あの最後はタクマのミユキへのひとつの想いだったのかなと思って演じていました」

海の底からモナムール」より
海の底からモナムール」より

かっこいいよりもおもしろいヤツと思われたいところはあります

 話は変わるが、「いいね!光源氏くん」、「おじさんはカワイイものがお好き。」など、桐山はここにきてコメディ作品への出演が相次ぐ。それは、いま演出家たちが、桐山漣という俳優のクールなイメージの裏にあるユニークな一面を引き出そうとしているように映る。実際、桐山は、二枚目も行き過ぎると滑稽にみえてくるという役柄を紙一重のバランスで体現。新たな境地を切り開いた演技を見せてくれている。

「いままでの自分のイメージにないタイプの役をいただけることはありがたいことです。

 僕としてはコメディのお話がいただけたのは光栄で。何というか、かっこいいよりもおもしろいヤツと思われたいところはあります。小学生とか、やはりかっこいいヤツよりもおもしろいヤツのほうが断然人気者じゃないですか(笑)。

 僕は、たいしておもしろい人間じゃないんですよ。だから、映画やドラマの中でだけでも、他人からおもしろい人間と思われる人物になれることは素直にうれしいです。

桐山漣 筆者撮影
桐山漣 筆者撮影

 演じる時に関しては、コメディなんだということは意識しないようにしていました。『いいね!光源氏くん』の中将役も、『おじさんはカワイイものがお好き。』の鳴戸渡役も、どちらも漫画原作でそこでひとつたちあがっているキャラクターがある。そのことを踏まえながら、ちゃんとした人間でありたいというのが僕の中ではテーマで。生きていれば怒ったり、泣いたり、笑ったり、悲しんだり、喜んだりもする。そういう人間の喜怒哀楽をきちんとキャラクターの中に落とし込み、ひとりの人間にして、生々しくリアルに届けられればという自分なりの思いがあって

 たとえば真面目な人間を愚直なくらいバカ真面目に演じたときに、笑いって生まれたりしますよね。僕の場合は本や設定にも助けられましたし、作品や周りにも恵まれました。感謝しています」

日本のドラマ映画界に欠かせない俳優になれれば

 その上で、今後をこう見据える。

いまありがたいことに、いろいろなタイプの役を演じる機会を得ている。この振れ幅をさらに広げていくことと、30代のうちにこのポジションはきちんと確立させておきたいです。そして、コメディだけでなく日本のドラマ映画界に欠かせない俳優になれればと思っています

桐山漣 筆者撮影
桐山漣 筆者撮影

「海の底からモナムール」より
「海の底からモナムール」より

「海の底からモナムール」

監督・脚本:ロナン・ジル

出演:桐山漣 清水くるみ

三津谷葉子 前野朋哉 杉野希妃

場面写真はすべて(c) Besoin d’Amour Film Partners

※桐山漣の漣はさんずいに連が正式表記

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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