アラサー女性の自己革命から浮かぶ現代社会の生きづらさ。<フランス映画祭2019>より(3)
今年6月に開催された<フランス映画祭2019 横浜>から、日本未配給作品の監督との対話をまとめた全5回のインタビュー集。3回目は、アラサーでアイデンティティの揺らぎに直面した女性の自己革命を描いた『マイ・レボリューション』のジュディス・デイビス監督のインタビューを届ける。
世の中にどこか警鐘を鳴らす作品を今回は舞台ではなく、映画で
1982年生まれのジュディス監督は父が映画プロデューサーで、自身は20代から俳優として映画やテレビで活躍。ロジャー・ミッシェル監督の『ウィークエンドはパリで』などの出演作を持つ。初監督作品となった本作は、自身が友人らと立ち上げた劇団<L‘Avantage du doute>から生まれた。
「一緒に劇団を立ち上げた芝居仲間がいるのですが、今回の作品は彼らと作り上げたものです。主要登場人物を演じた私を含めて5人がそうで、彼らとはかれこれ10年以上、一緒に芝居を作っています。
この劇団の創作のコンセプトがユニークなスタイルで。あえて、リーダーを作らない。みんなで意見を持ち寄って、脚本を書いて、演出をして演じる。こんなスタイルでずっと社会的なこと、政治に関することなどを主なテーマに、世の中にどこか警鐘を鳴らすような芝居を作り続けてきました。今回の物語も実はそういった中から生まれたものになります」
では、なぜ今回は舞台ではなく、映画になったのだろう?
「今回の物語の中にあるテーマ、政治への関心、親の影響がもたらす価値観、労働者問題、現代における人間性の喪失といったことを、さまざまな視点からきりとって見られるような形にしたいと思いました。なおかつ、それをもっと広く、幅広い人に届けてみたい。そう考えたとき、やはり映画という表現がベストではないかと思ったのです。舞台はいろいろな意味で、その場限りというところがありますから」
物語の主人公、アンジェラは30代の都市開発プランナー。共産党主義者の両親に育てられた彼女は、資本主義社会でことあるごとに経済優先な現状にふんまんやるかたない。活動家だったが歳をとってどこか丸くなった父、中産階級の会社員に収まっている姉、政治思想などなく現実に特に不満も希望も抱いていない彼氏、その彼らの生き方にさえ時に噛みつく。
「自分が投影されている部分は確かにあるかもしれません(笑)。たとえば、今の社会に対する不満とかをわたしもアンジェラと同様に黙ってはいられないタイプ。自分の意見をきちんと主張するところとかも似ているといっていいわ。
アンジェラほど極端に突っ走るところはない。わたしは彼女よりもうちょっと柔軟性がある(笑)。でも、重なるところもいっぱいある。だから、わたし自身が演じることになりました。
当初は自分が演じることは考えていませんでした。監督と兼務するのはやはりハードだし、難しいと思ったから。でも、アンジェラという人物を深く作りこめば作りこむほど、『これは君が演じるべき』とほかの仲間からも言われて、演じることになったんです」
正論を言っても、それが必ずしも通らないのが現代社会の複雑なところ。それゆえ、アンジェラは、社会から周囲から家族からもどんどん孤立していく。多くの人間がそういったとき、現実を受け入れ、折り合いをつけていく。ただ、アンジェラはそこに抗う。
「長いものに巻かれることをよしとしない。自分の信じる道を進むこと、信念を貫くことの難しさを彼女は体現している。
人間というのはどうしてもマジョリティに入っていたほうが安心と感じるし、他人の目を気にして自分を出すことをしなかったりする。そういったところから気づかぬうちに、体制側にとりこまれていたりする。
彼女の行動や言動、存在は突飛に映るかもしれない。でも、それが波紋を呼ぶことで、さまざまなことを投げかける。社会のシステムや政治の在り方、家庭の在り方といったことに。
ある意味、社会をよりよくするにはどうすればいいか、他人の意識を目覚めさせようとしている人物といっていいかもしれない。まあ、でも、それが自分の私生活や恋愛よりも先に来てしまっているのはちょっと考えようだけど(笑)」
彼女の姿は孤高の戦士にも見えてくる。
「どこか周囲と歩調を合わせることが優先で、一歩でもそこからはみでると、排除されてしまう。そんな排他的な社会にいま世界のあちらこちらがなってきているような気がしてならない。アンジェラが孤高の戦士に見えるのは、それぐらい今の社会が寛容でなくなってきている証拠になっているんじゃないかしら」
フランスでも政治や社会に無関心ムードが高まりつつある
国に対して、不平不満があれば即行動で大規模なデモが起こることも珍しくないフランス。その中にあって、アンジェラのような政治にも社会にも物申す女性が孤立するのは意外な気もするが?
「フランスには、確かに権力者に対して一般市民が抵抗していく伝統がある。ただ、近年になって、この世の中に絶望してしまって行動を起こす気にもならない人がかなり増えた気がします。
メディアが抵抗するのはネガティブなものであるといった論調を前面に出す傾向が強いこともあるのか、ストが野蛮で愚行といったイメージになりつつある。
そういったいろいろな要因が重なって、なにか政治や社会に対して、あきらめムードのようなものがすごくある。やっても仕方ないといった感じの。
それではたしていいのか?このままでいいのか?この作品でひとつ問いかけたところはあります」
場面写真はすべて(C)Agat films _ Cie- Ex nihilo