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新型コロナ5類移行で元の生活にどう戻すか? アンケートで見る、悩める介護施設の今

宮下公美子介護福祉ライター/社会福祉士+公認心理師+臨床心理士
元通りの生活を取り戻したいと考える介護施設は多い。しかしそれは決して簡単ではない(写真:イメージマート)

介護施設職員のPCR検査は「当面」継続だが…

2023年5月8日、新型コロナウイルス感染症は感染症法上の位置づけが、2類から季節性インフルエンザ(以下、インフルエンザ)と同等の5類に変更になった。

これに伴い、介護施設ではどう対応を変えるのか。5月6日~12日にアンケート調査を実施した。突然の依頼に快くご協力くださった介護施設の皆様には御礼を申し上げたい。

この結果について紹介する前に、5類移行で何が変わるのかを見ておこう。

主な変更点は下図の通りだ。

厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行後の対応について」より引用
厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行後の対応について」より引用

医療費は通常診療同様、1~3割が自己負担となった(2023年9月末までは外来・入院とも一部助成あり)。一般のPCR検査等の公費支援もなくなり、入院先の調整は原則として医療機関同士で行い、保健所が関与することもなくなった。入院や外来医療費について、詳しくは下表の通りだ。

厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行後の対応について」より引用
厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行後の対応について」より引用

介護施設については上表にもあるとおり、陽性者が出た場合、クラスター対策として他の職員へのPCR検査等が行政検査として継続される。新型コロナ感染対策によるかかり増し経費や、感染した入所者の施設内療養に対する最大30万円の補助金なども、当面継続となった。「当面」とはいつまでなのか。

自治体によって、全職員対象のPCR検査、抗原検査が継続されるところもある。たとえば愛知県。6月までは感染状況等に応じて、月ごとに検査実施の有無・検査頻度を設定。ひとまず5月末までおおむね2週間に1回のPCR検査を実施する。6月の検査方針については、5月下旬に決定するという(詳しくはこちら)。

しかし、愛知県も7月以降の実施は未定だ。

まだ「自由に面会」とはいかない状況

こうした状況のもと、介護施設は対応をどう変えているのか。

まず、家族等との面会体制について。

これまでは多くの施設が面会を制限し、パソコンやタブレットを使用したオンライン面会や、面接室でのアクリルボード越しでの面会などで対応していた。

筆者自身、専門職後見人として、被後見人とアクリルボード越しや玄関のガラス戸越しの面会を経験した。重い認知症がある被後見人とは会話が成立しないだけでなく、目線も合わなかった。

間近で声をかけ、肩に触れるなどのボディタッチができれば、意識を向けてもらえたかもしれない。そうできないことがもどかしかった。もちろん、それでもまったく会えないよりはずっといい。

しかし面会者の「会いたい」思いは満たされにくく、かつ、触れあうことによる刺激を入居者に十分に与えるのは難しいと感じた。

この被後見人は、新型コロナで直接会えなかった3年余りの間に、心身機能がかなり低下した。

それは、加齢と認知症の進行によるものだ。しかし、生活フロアでの面会がかなわず、少しずつ機能が衰えていく様子を感じることができなかったため、少なからずショックを受けた。久しぶりに会ったとき、ガックリと衰えたように感じられたからだ。

専門職後見人の筆者ですらそう感じたのだ。家族はもっと切ない思いをしていたことだろう。そして施設職員の側も、「会ってほしいのに会わせられない」状況に心を痛めていた。

だからこそ、「感染状況から判断して対面とオンラインで対応。対面は相談室でアクリルボードを使用し、15分間2名までに限定」(特別養護老人ホームすえなが/神奈川県川崎市)など、どの施設も感染予防に努めながら、少しでも会える機会を設けていた。

にもかかわらず、「施設がブラックボックス化した」と表現した報道があったのは、非常に残念なことだ(詳しくは「TBS報道特集、介護施設「ブラックボックス化で不信感」の報道で、介護業界はますます追い詰められる」をご覧いただきたい)。

5類移行後は、アンケートに回答してくれたすべての施設が、面会についての制限を緩和した。とはいえ、面会に「制限なし」とした施設は多くない。

2023年4月、「新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード」で示された「新型コロナウイルス感染症のこれまでの疫学と今後想定される伝播動態 」では、「国内では自然感染によって免疫を獲得した人の割合が低く、特に高齢者においては3割程度にとどまる。感染拡大が起こった場合には、重症化することの多い高齢感染者にも波及する可能性がある」との指摘があった。

であれば、やはり介護施設ではすぐに「元通り」とせず、「看取り期間は居室内での面会、それ以外はフロアの面接室での面会のほか、感染状況やご家族の希望に応じてオンライン面会や施設入り口でのガラス越し面会も併用」(クロスハート栄・横浜/神奈川県横浜市)など、状況に応じた対応をするのはやむを得ないことだろう。

入居者の家族は、この点を理解しておく必要がある。

5類移行後は、家族等の面会についての制限をアンケートに回答したすべての施設が緩和した(グラフは筆者作成)
5類移行後は、家族等の面会についての制限をアンケートに回答したすべての施設が緩和した(グラフは筆者作成)

楽しみ、刺激のない日々からの解放

制限されたのは面会だけではない。入居者の行動にも多くの場合、制限がかかった。外出や外泊を控えることを求め、ボランティアの受け入れを中止していた施設・法人も多かった。

面会も外出も制限され、ボランティアの訪問もない日々は、入居者にとって楽しみも刺激も乏しかっただろう。その影響から、「コロナ禍のこの3年で、入居者の心身機能は目に見えて低下した」という声をあちこちで聞いた。

入居者の行動制限もボランティア受け入れも、5類移行で多くの施設・法人が緩和している。ようやく、入居者にとって様々な楽しみが戻ってくることになる。少しずつでも、元気を取り戻していけるといいのだが。

ボランティア受け入れも中止していた施設・法人は多く、新型コロナ禍により入居者にとっては楽しみが少ない3年だった(グラフは筆者作成)
ボランティア受け入れも中止していた施設・法人は多く、新型コロナ禍により入居者にとっては楽しみが少ない3年だった(グラフは筆者作成)

外食、宴会、旅行など職員への行動制限も緩和

では、介護職員はどうか

新型コロナの感染が続いたこの3年余り、職員はずっと感染予防に努め、感染を招く行動を控えてきた。施設・法人としても、宴会や外食、旅行などを控えるよう指示していたところが多い。

一方、少ないながらも、特に制限を設けていなかった施設・法人もある。特に制限をしなくても、「マスクもワクチンも自由だが、ほぼ100%の職員が自主的に行動を制限していた」(つばさグループ(株)オールプロジェクト/千葉県君津市)という。

外出や外泊、面会を制限している施設・法人では、感染の発生はショートステイ(入所ではなく短期間の宿泊利用)以外、職員がウイルスを持ち込んだと推定される。そして、もし持ち込んでしまえば、重症者や死者が出る可能性もある。

それを承知しているから、多くの介護職員は要介護高齢者を守るために自主的に行動を制限してきたのである。職員の行動制限をしていなかった施設・法人も、感染はあったが、大規模クラスターには発展しなかったという。

ちなみに、アンケートに回答してくれた施設・法人で、この3年あまり、感染が一度も発生しなかったところは1つもない。どれだけ感染予防に努めても、見えないウイルスの侵入を阻むのは難しいことがよくわかる。

5類移行により、多くの法人・施設が、職員の行動制限をなくした。

介護の現場は、果たして少しはホッとできる時間を持てるだろうか。

5類移行で職員への行動制限をなくした施設・法人が圧倒的に多い(グラフは筆者作成)
5類移行で職員への行動制限をなくした施設・法人が圧倒的に多い(グラフは筆者作成)

「どこまで制限すべきか悩ましい」

新型コロナが5類に移行された今、施設・法人はどのような思いを抱いているだろうか

代表的なのは、「入居者や家族、職員にこれ以上制限をかけたくないと思う一方、コロナが発生すれば隔離対応等が必要になり、諸々の制限をどこまですべきか悩ましい」(前出のクロスハート栄・横浜)という声だ。

高齢者の重症化リスクを考えると、様子を見ながら平常化していくしかない。その判断、対応はとても難しいだろう。

一般に、2類から5類への移行を「やっと5類になった」と考える人もいれば、「感染力が下がったわけでもないのにインフルエンザ並みの扱いになるとは」と考える人もいる。受け止め方には、人によって温度差があるのはやむを得ない。

それだけに、介護施設では元の生活への回帰と感染予防を、どう折り合いをつけていくのかが非常に難しい。施設・法人と家族の意識の違いで、対応に苦慮することもある。

「5月から居室面会を再開し、家族にマスク着用や基本的な感染対策の徹底を文書等でもアナウンスしているが、受け止め方には個人差がある。口頭でお願いする場面もあり、しばらくは心配が続くだろう」(特別養護老人ホーム・美里ヒルズ/三重県津市)

施設・法人には気の休まらない日々が続く。

それでもこの状況を、前向きにとらえていく意識は大切だ。

「入居者の社会参加の機会を確保するために、家族には我が事として、感染予防に努めてほしい。今を家族の意識を変える機会ととらえている。家族には、入居者の充実した晩年を支えたいという私たちの思いに対するフォロワーとなってほしいと考えている」(社会福祉法人 悠/愛知県丹羽郡)

施設に任せておけばいいということでなく、共に入居者を支えていく意識を持ってもらう。この状況を逆手に取り、そのためのいい機会ととらえているということだ。

対外的な面だけではなく、職員教育についても、コロナ前とは異なる対応が必要だという回答もあった。

「これまでの制限を緩和し、コロナ前の対応に戻しているが、実はコロナ後に入職した職員も多い。そのため、普通の生活を取り戻していくことの意義を改めて教育し、実感できる機会を増やす必要性を感じている」(社会福祉法人協同福祉会/奈良県大和郡山市)

コロナ禍の弊害は、多岐にわたっていることを感じさせる回答だった。

また、今後の医療体制について懸念する声も多かった。

「過去、入居者が感染した際、医療機関に入院させてもらえない状況が続いた。今後も、感染した入居者が入院させてもらえない状況が続かないか、懸念される」(社会福祉法人愛知たいようの杜/愛知県長久手市)

冒頭でも触れたが、新型コロナが2類から5類になったことで、医療は通常診療体制に移行する。しかし、すぐにどこの医療機関でも新型コロナ陽性者の受け入れが可能になるわけではない。懸念はもっともなことだ。速やかな医療体制整備を求めたい。

厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行後の対応について」より引用
厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行後の対応について」より引用

感染予防、家族対応、感染時の医療……。5類になっても、介護施設にとって厳しい日々は続く。

それでも介護施設・法人は、人生の終盤を迎えた高齢者を思い、奮闘を続けることになる。その奮闘を、入居者の家族も、一般の方々も、どうか温かく見守り、応援してほしい。

介護福祉ライター/社会福祉士+公認心理師+臨床心理士

高齢者介護を中心に、認知症ケア、介護現場でのハラスメント、地域づくり等について取材する介護福祉ライター。できるだけ現場に近づき、現場目線からの情報発信をすることがモットー。取材や講演、研修講師としての活動をしつつ、社会福祉士として認知症がある高齢者の成年後見人、公認心理師・臨床心理士としてクリニックの心理士、また、自治体の介護保険運営協議会委員も務める。著書として、『介護職員を利用者・家族によるハラスメントから守る本』(日本法令)、『多職種連携から統合へ向かう地域包括ケア』(メディカ出版)、分担執筆として『医療・介護・福祉の地域ネットワークづくり事例集』(素朴社)など。

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