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新型コロナウイルス感染を何としても防ぐ! 高齢者介護施設・事業者の取り組みは?(2月27日追記あり)

宮下公美子介護福祉ライター/社会福祉士+公認心理師+臨床心理士
新型コロナウイルスの高齢者への感染は何としても防がなくてはならない。(写真:アフロ)

当初はインフルエンザの感染予防と同等で

東京都内の高齢者介護施設で送迎を担当していた職員が、新型コロナウイルスに感染したと報道された2月22日、介護施設、介護事業所を運営する10法人に、メールで新型コロナウイルス感染対策についての緊急調査を行った。

25日までのわずかな時間で回答を求めたにもかかわらず、実施している感染対策について、7法人が回答してくれた。忙しい中、短期間でご回答くださった法人の皆様にお礼を申し上げたい。

感染症対策は、職員の感染予防意識をいかに高めるかが肝になる。今の時期は、例年、インフルエンザの流行期ということもあり、(株)ニチイ学館(本社・東京都)、A法人(本社・東京都)など、職員に対して標準予防策(スタンダードプレコーション)を実行させている法人が多かった。

日本救急医学会によれば、標準予防策とは下記の通りである。

全ての患者・医療従事者に適応され、病原微生物の感染源確認の有無にかかわらず、血液、全ての体液、汗を除く分泌物、排泄物、傷のある皮膚、そして粘膜が感染原因になりうるという考えに基づいている。

標準的感染予防策は以下通りである。

  1. 手洗い:感染源となりうるものに触れた後、手袋を外した後、つぎの患者に接するとき、普通の石鹸を使っておこなう。
  2. 手袋:感染源となりうるものに触れるときや患者の粘膜や傷のある皮膚に触れるとき、清潔な手袋を着用する。使用後、もしくは非汚染物や他の患者に触れるときは、手袋を外し、手洗いする。
  3. マスク・ゴーグル・フェイスマスク:体液・体物質等が飛び散り、目・鼻・口を汚染する恐れのある場合に着用する。
  4. ガウン:衣服が汚染される恐れのある場合に着用する。汚染されたガウンはすぐに脱ぎ、手洗いをする。

(5,6は省略)

出典:日本救急医学会 医学用語 解説集 「スタンダードプレコーション」

この感染予防策を、対応の早い法人では、1月末から通常以上に徹底するという方針をとっていた。1月末時点では、日本国内の感染者は12名。多くの患者が中国・武漢市の滞在歴がある人で、症状も軽く、国民の多くが切迫した危機感を持っていない時期だった(*1)。

厚生労働省も、1月31日の事務連絡では「風邪やインフルエンザ同様に、まずは マスク着用を含む咳エチケットや手洗い、アルコール消毒等により、感染 経路を断つことが重要」と指示している。介護施設・事業者としては妥当な対応だろう。

▲手洗い、うがい、手指消毒、マスク着用は、感染症対策の基本(フリー画像)
▲手洗い、うがい、手指消毒、マスク着用は、感染症対策の基本(フリー画像)

刻々と変わる状況に応じて更新せざるを得ない対策

以降は次々と感染が広がり、2月25日現在、日本国内の感染者数は156人。どこで感染したかを特定できない感染者が増えている。

1月末から2月25日までの間に、厚生労働省は都道府県・市町村の介護保険担当課宛に、次々と社会福祉施設等における新型コロナウイルス対策についての事務連絡を発出している。

2月21日の事務連絡では、マスクや消毒用アルコール等の衛生用品が不足している場合は、都道府県に対して、介護保険担当部局等の備蓄を高齢者施設等に優先的に提供するよう要請している。

とにかく感染経路を遮断するために、行政も社会福祉施設等も万全を期してほしいということだ。

介護関係の各法人は、こうした事務連絡に従い、法人内の対策を決めている。感染状況が日々変化し、新型コロナウイルスの感染力や潜伏期間、感染力の高い時期等についての情報も不確定であることから、対策の策定は実に困難だ。

「刻々と変わる感染状況を見ながら、日々対応を検討しているのが現状で、現時点でお答えするのは難しい」と、筆者の質問に対し、対応策の一部のみを返信してくれた法人もあった。

マスク着用、正しくできている?

多くの法人でまず行っているのは、職員に関する感染症対策である。

具体的には下記のような内容だ。

(1)検温

出勤前に自宅で検温、出勤時に検温、出勤前も出勤時にも検温、などのパターン。24日付で厚生労働省から発出された事務連絡では、出勤前に検温し、発熱が認められた場合は出勤停止を徹底、とされたことから、今後はこれに準じていく法人が増えるだろう。

発熱については、厚生労働省の事務連絡にある37.5度以上とする法人が多いが、社会福祉法人しんまち元気村(群馬県高崎市。以下、しんまち元気村と表記)だけは、37.3度としている。その根拠を尋ねたところ、隣接する埼玉県の感染者の発症までの経過を確認。朝、37.3度、夕方37.5~6度で翌日に陽性反応が認められているため、リスクヘッジの観点から37.3度としたという。

法人としての対策を策定していく場合、何を根拠にその対策をとるかを明確にすることは大切だ。厚生労働省が指示しているから、というのもひとつの根拠になる。しかし、しんまち元気村のようにさらに情報を求めて、どのような対策がより望ましいかを独自に検討する能動的な姿勢が見られると、利用者にとっては心強い。

▲毎朝検温してから出勤、あるいは出勤したら検温。どの法人も、熱があったら自宅待機としている(フリー画像)
▲毎朝検温してから出勤、あるいは出勤したら検温。どの法人も、熱があったら自宅待機としている(フリー画像)

(2)手洗い・消毒・うがい・マスク着用の徹底

マスク着用を除き、平時も手洗い・消毒・うがいについては、多くの介護施設等では「標準予防策」となっているはずだ。インフルエンザ流行期の今であれば、マスク着用の施設等も多い。

各法人からの回答にも、これらの感染症対策を「徹底する」という記述が多かった。問題はこの「徹底」である。「標準予防策」として平時から行っていることほど、実はおろそかになりがちだ。

例えば、マスク。

マスクを着用していても、鼻が出ていたり、ずらして顎に当てていたり、ずれたマスクの鼻先を指でつまんで動かしたり。

ついやってしまいがちだ。

それでは病原体を含んだ飛沫を吸い込んだり、マスクの表面についた病原体を手指につけてしまったりすることになる。

せっかく有効な感染症対策を打ち出しても、ルールが正しく実践されなければ、対策の効果は損なわれてしまう。

そこで、特別養護老人ホーム美里ヒルズ(三重県津市。以下、美里ヒルズと表記)では、新型コロナウイルスに関する感染対策を職員に周知する際、改めてマスクの正しいつけ方や正しい手の洗い方、咳エチケットなどをわかりやすく示したイラスト入り資料を同時に配布した。

こうした情報提供は、職員の感染予防の意識を高めることにつながるだろう。

この施設では感染状況の変化に合わせて、とるべき対策をこまめに更新。今後も、県内で罹患者が出た場合、近隣施設で罹患者が出た場合、自施設で罹患者が出た場合、といった区切りで、対応のレベルをさらに引き上げていくことにしているという。

▲美里ヒルズでは、新型コロナウイルス感染対策と併せてマスクの正しい付け方の資料も職員に配布している(筆者撮影)
▲美里ヒルズでは、新型コロナウイルス感染対策と併せてマスクの正しい付け方の資料も職員に配布している(筆者撮影)

(3)研修等の中止・延期

法人内での研修や会議、懇親会等に、制限をかけている法人は多い。SOMPOケア株式会社(本社・東京都。以下、SOMPOケアと表記)では、「複数事業所による合同研修、会議、懇親会等は原則中止または延期」とし、「開催必須の場合はWEB会議等の代替手段にて実施」としている。また、「公共交通機関を使用した遠方への出張も原則中止または延期」という徹底ぶりだ。

このほか、施設見学や実習生の受け入れの中止や制限、施設内でのイベント、外出レクリエーションの中止や延期を決めた法人も多い。

施設の場合、おむつなどの衛生用品やリネンなどを納品する業者の出入りもある。こうした業者についても、「受け渡しは玄関先で行う。ご入居者の居室への納品は禁止。リネン等の大量納品がある場合は、入館時の検温・手洗い・うがいを徹底し、共有部にのみ納品可とする」(SOMPOケア)、

「マスク着用・手洗い・手指消毒をお願いした上で、玄関など施設の限られた場所で行うこととし、施設内に立ち入る場合には体温を計測してもらい、発熱が認められる場合には立ち入りをお断りする」(美里ヒルズ)と、施設内への立ち入りを制限している。

熱がある家族は看取り期の入居者であっても面会禁止

また、家族等の面会についても、どの法人も概ね制限をかけている。

「原則控えてもらう」(SOMPOケア)(A法人)

「基本的には感染終息まで面会は遠慮いただくが、必要な届け物がある場合は玄関先での対応。来所を受けて入れるのは、37.5度以上の熱がなく、咳、鼻水、くしゃみ、ノドの痛み、嘔吐、下痢等の症状がない場合」(ニチイ学館)、

「原則制限するものとし、緊急やむを得ない場合は体温を計測してもらい発熱が認められない場合のみ可とする」(美里ヒルズ)という対応。

どの法人も、面会を受け入れる場合は、マスク着用や手指消毒は必須である。

しんまち元気村では、家族等の面会を受け入れている(2月13日策定の対応)。ただし、玄関口で検温を実施。37.5度以上ある場合や、呼吸に息苦しさがある場合には入場を全面禁止している。面会する入居者がターミナル期であっても例外はないという方針だ。

▲新型コロナウイルスの高齢者への感染を防ぐため、家族等の面会は制限している法人が多い(フリー画像)
▲新型コロナウイルスの高齢者への感染を防ぐため、家族等の面会は制限している法人が多い(フリー画像)

感染拡大を防げるかどうかは今が正念場

難しいのは、日中、通って利用するデイサービスの利用者や、訪問介護の利用者への対応だ。

美里ヒルズでは、デイサービスの利用者には送迎車に乗る前に検温。37.5度以上の熱がある場合は利用を断り、ケアマネジャー(介護サービスの調整等を行う専門職)に連絡してその後のフォローを依頼することとした。

一方、訪問介護を提供するB法人(本社・東京都)では、2月25日現在、発熱がある利用者にも訪問を実施。使い捨てマスクを訪問先の利用者宅で処分するという対応をとっている。体調不良の高齢者こそ訪問介護を必要としており、職員の安全確保との兼ね合いは難しい。

2月23日にアップした、「高齢者介護施設は新型コロナウイルス感染ハイリスク者の集団生活の場。面会の一時的中止も検討すべきでは?」の記事では、地域の感染状況に応じ、施設等での面会の一時的な中止の検討を呼びかけた。

家族等や入居者からの反発はあるだろうが、面会を全面的に禁止するのは、ある意味簡単な感染症対策だ。

しかし、美里ヒルズの施設長は、マスクの正しい着用、適切な手洗いの励行、ドアノブの消毒(美里ヒルズでは、2月25日現在、1日5回の消毒を行っている)など、職員がやるべき基本的な事柄の確実な実行を徹底することが、面会中止より先だと語る。

もっともな指摘だ。

こうした非常時にこそ、法人としての基本姿勢が如実に表れる。刻々と変わる状況を冷静に把握しながら、迅速に適切な対応を打てるかどうか。

これからの1~2週間が、新型コロナウイルスの感染拡大を防げるかどうかの正念場だという。介護施設、事業者のこうした頑張りで、高齢者への感染拡大を防いでもらうと同時に、私たち一人ひとりも感染予防への意識を高めて、この1~2週間を過ごすことが大切だ。

マスクの鼻先をつまんでずらしたり、たたんでポケットに入れたりするのはもうやめよう。

*1 厚生労働省 中華人民共和国湖北省武漢市における新型コロナウイルス関連肺炎について(令和2年1月31日版)

【2月27日午前11時40分 追記】

厚生労働省から指示が出た面会制限について

面会についても、2月24日の都道府県・市町村宛ての事務連絡「社会福祉施設等(入所施設・居住系サービスに限る。) における感染拡大防止のための留意点について」で「感染経路の遮断という観点で言えば、可能な限り、緊急やむを得ない場合を除き、制限することが望ましい。少なくとも、面会者に対して、体温を計測してもらい、発熱が認められる場合には面会を断ること」と明記された。

これを受けて、すでに面会中止の対応を行っている介護施設もある。繰り返しになるが、高齢者介護施設や高齢者が多数入院している病院などでは、地域の感染状況を把握した上で、速やかに適切な対応をとってほしい。

正しいアルコール消毒の方法

新型コロナウイルスは、病検体を含んだ飛沫を吸い込む「飛沫感染」、病原体で汚染されたもの(ドアノブ、手すり等)を介した「接触感染」で感染するとされている。「接触感染」リスクを下げるには、手指の消毒が重要だ。

手指のアルコール消毒に関して、筆者は2月27日NHK「あさイチ」から得た情報で、認識を新たにした。「あさイチ」に出演していた東邦大学感染制御学研究室教授の小林寅てつさんによれば、アルコール消毒は、プッシュ式ボトルを下まで押し切って、手からボタボタと落ちるほどアルコール液を手につけてから、疫学的な手洗い同様に爪や指の間、指の一本一本にすり込まないと病原体を十分に消毒しきれないのだという。

是非皆さんも覚えておいてほしい。

【2月27日午後3時15分 追記】

感染者の休業補償を周知している法人も

メールでの質問に追って回答してくれた社会福祉法人伸こう福祉会では、37度台で体調に何らかの異変がある場合は出勤停止、ドアノブ、パソコン等不特定多数が触れる箇所のこまめな消毒など、様々な感染症対策を実施している。

感染が疑われる場合は、速やかな報告を徹底。具体的には、発熱が3日以上続き、身体のだるさや息苦しさなどの症状がある場合は、すぐに本部の人事労務担当者まで報告し、氏名、年齢のほか、下記の情報を伝えるよう周知している。

  1. 発熱が始まった日
  2. 毎日の検温結果と服薬の有無
  3. その他の症状
  4. 周囲に新型肺炎患者や濃厚接触者がいるかどうか
  5. 発熱前はどのような業務についていたか、勤務の状況

伸こう福祉会の対応で特筆すべきなのは、万一、感染した際には、診断書の提出により休業中の給与をすべて補償することを職員に周知していることだ。

陽性反応が出てから陰性になるまで時間を要し、陰性になってもまた陽性反応が出るなど、新型コロナウイルスは非常に感染状況がつかみにくい。休業期間も長くなるだろう。だからこそ、休業補償を周知することで、職員は感染したことを報告しやすくなる。

法人として非常に重要な対応だと感じた。

介護福祉ライター/社会福祉士+公認心理師+臨床心理士

高齢者介護を中心に、認知症ケア、介護現場でのハラスメント、地域づくり等について取材する介護福祉ライター。できるだけ現場に近づき、現場目線からの情報発信をすることがモットー。取材や講演、研修講師としての活動をしつつ、社会福祉士として認知症がある高齢者の成年後見人、公認心理師・臨床心理士としてクリニックの心理士、また、自治体の介護保険運営協議会委員も務める。著書として、『介護職員を利用者・家族によるハラスメントから守る本』(日本法令)、『多職種連携から統合へ向かう地域包括ケア』(メディカ出版)、分担執筆として『医療・介護・福祉の地域ネットワークづくり事例集』(素朴社)など。

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