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井上尚弥S・バンタム級対戦本命がフェザー級へ逃避?候補に急浮上した男とは

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
世界バンタム級4団体統一チャンピオン井上尚弥(写真:松尾/アフロスポーツ)

絶対本命はフルトン

 バンタム級4団体統一に成功した井上尚弥(大橋)が次なるターゲットに掲げるのがスーパーバンタム級タイトル獲得だ。現在スーパーバンタム級はWBC・WBO統一王者にスティーブン・フルトン(米)、WBAスーパー・IBF統一王者にムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)が君臨する。井上は2人のどちらかに挑戦する、あるいは2人が雌雄を決し、その勝者に挑むというストーリーが“王道”だろう。しかし両者の都合や思惑が影響し、紆余曲折の展開も想定される。

 WBCバンタム級王者ノニト・ドネア(フィリピン)、同級WBO王者ポール・バトラー(英)と連続して統一戦を日本で行った井上。スーパーバンタム級進出にあたり舞台は本場アメリカではないかという観測が漂う。それはファンの期待も後押ししているように感じられる。挑む相手が米国人、米国を拠点にキャリアを進めている背景も関係するだろう。もしかしたらスーパーバンタム級デビューが日本開催になるかもしれないが、4月か5月に井上は米国リングに立つのではないかと私は読んでいる。

 井上にとって最大の標的と見なされるのがフルトンだ。もしフルトンとアフマダリエフが戦えば、若干フルトンが有利ではないかという予想が成り立つと同時に井上との戦闘スタイルの対比が観戦意欲を刺激する。先週、米国とメキシコのメディアと業界関係者に「井上尚弥が122ポンド(スーパーバンタム級)に進出する際にもっとも対戦を観たい相手は誰か?」という質問をする機会があった。回答してくれた人々の誰もが名前を挙げ、ほとんどがトップに推したのがフルトンだった。

フェザー級転向説が再び浮上中

 その本命・フルトンが2月25日、1階級上のフェザー級へ転向してブランドン・フィゲロア(米)とWBCフェザー級暫定王座決定戦を行うニュースが流れている。第1報をツイートしたのは以前ESPNドットコムなどで活躍し現在フリーのダン・ラファエル記者。米国の著名メディア人の一人だけに信頼性は高い。フルトンvsフィゲロアは再戦で、2021年に行われた第1戦ではWBОスーパーバンタム級王者フルトンが同級WBC王者フィゲロアに2-0判定勝ち。ベルトを統一した。試合がエキサイティングだったことと判定が論議を呼んだことから、両者のプロモーターのPBC(プレミア・ボクシング・チャンピオンズ)と中継するショータイムが高額オファーを提示したものと思われる。

2021年11月のフルトン(左)vsフィゲロア戦(写真:PBC)
2021年11月のフルトン(左)vsフィゲロア戦(写真:PBC)

 この再戦は昨年中からメディアに取り上げられていた。しかし年明け後まもなく、WBCが承認を取り消し、ひとまず流れたと伝えられた。よってラファエル記者の情報は一種のスクープと受け取られる。暫定王座決定戦が組まれるのは、WBCフェザー級王者レイ・バルガス(メキシコ)に、これも1階級上のWBCスーパーフェザー級王座決定戦が締結されたからである。相手は同級1位オシャキー・フォスター(米)。試合は2月11日、米テキサス州サンアントニオで行われる。

 WBCスーパーバンタム級王者時代に亀田和毅(協栄)を下しているバルガスはフォスターに勝って3階級制覇に成功すれば、スーパーフェザー級、フェザー級どちらの王座を保持するか選択を迫られる。もし前者を選べば、フルトンvsフィゲロア再戦の勝者が暫定王者から正式にWBCフェザー級王者に昇格する流れになっている。

スーパーバンタム級へUターンもありか

 タラればが多く、先がなかなか読めないが、フルトンはモンスターのスーパーバンタム級転向を待ち構えるのではなく、逃避するかたちでフェザー級に腰を落ち着ける気配だ。「せっかく井上を相手にナイスな報酬が稼げるのに絶好機を逃してしまう」と米国メディアからフルトンは揶揄されている。だがフィゲロアに勝つにせよリベンジされるにせよ、スーパーバンタム級へ戻って井上戦を実現させる見通しがないとは言い切れない。

 フィゲロア戦の2月25日は、井上がリングに立つ予定の4月か5月まで時間がある。フィゲロア戦で大きな負傷をしなければ、井上の次戦に合わせてフルトンが門戸を開くことは想定内。ただ井上自身、そして日本のファンが期待するように事が運ばない可能性の方が大きいと言わざるを得ない。事がスムーズに運ぶに越したことはないが……。

 いずれにせよ、すぐにフルトンに挑戦できないとなるとアフマダリエフという順番になるが、ウズベキスタン人王者はIBFの指名挑戦者マーロン・タパレス(フィリピン)との防衛戦がようやく内定。これがもし2月ぐらいに開催されれば、「次は井上」という状況にもなろうが、アフマダリエフvsタパレスは井上の次戦と前後して挙行される見込み。フルトン同様、予測が立てにくい。アフマダリエフは前回ロニー・リオス(米)との防衛戦で左拳を骨折し手術した経過から復帰に慎重な姿勢を見せている。それもスケジュールがズレ込む理由だろう。

井上登場はWBO王座決定戦か?

 ではいったい誰がモンスターのスーパーバンタム級初陣の相手に抜てきされるのか?

 フルトンがフィゲロアを返り討ちにしてWBCフェザー級王者に就けば、前述のようにスーパーバンタム級王座を返上する運びとなるはずだ。このうちWBC王座はあのルイス・ネリ(メキシコ=WBC1位)と米国在住のアルメニア人アザト・ホバニシャン(WBC2位)による挑戦者決定戦がオーダーされている。これはフルトンのフィゲロア戦強行をWBCがけん制する意味があると思う。

 一方これまでの揺るぎない実績から井上をバンタム級スーパー王者に認定したWBOがスーパーバンタム級転向を決意した井上に優先的にタイトル挑戦権を与える動きを見せる。フルトンが同級に戻らないとなれば、空位の王座が争われる。すでに出場権を得ていると同然の井上の相手はズバリ、WBO1位のライース・アリーム(米)だと推測される。

 実は米国の著名メディアのトップも「これは有力な情報として」と前置きして、筆者にアリームの名前を教えてくれた。2年前にWBAスーパーバンタム級暫定王者に就いたアリーム(32歳)はこれまで20勝12KO無敗。ミシガン州出身で、フルトンらと同様PBC傘下でキャリアを進行させる。「スキルとスピードに関してはフルトンに引けを取らない」という見立てをするエキスパートもおり、井上の相手として遜色はないと思える。むしろパワーに関してはフルトンを凌駕する印象だ。

 今後も井上の対戦相手は二転三転する可能性がある。今のところ候補者はPBCの選手に偏っているが、井上と契約を結ぶトップランク社あるいは他のプロモーションの選手がセレクトされるかもしれない。これまで3度米国リングに登場している井上だが、次回はより強烈なライトを浴びるステージが待っている。必ずそれに見合った実力者が対立コーナーに立つに違いない。“ザ・ビースト”のニックネームを持つアリームの名前を憶えておいて損はないだろう。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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