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井上尚弥vsバトラー戦まで2週間。4団体統一戦を英米メディアはどう報道しているか

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
決戦まで2週間(写真:PROBELLUM)

50年ぶりの統一王者誕生

 WBAスーパー・WBC・IBF世界バンタム級統一王者井上尚弥(大橋)vs同級WBO王者ポール・バトラー(英)の4団体統一戦まで2週間となった。バトラーをプロモートする「プロべラム」によると、WBO王者は12月初めに来日する。12月13日、有明アリーナでの対決まで余裕を持ったスケジュールを立てているという。決戦ムードの高まりを感じる。

 長いボクシングの歴史の中でバンタム級王座がオフィシャルに一本化されるのは1972年のエンリケ・ピンテル(パナマ)以来50年ぶりとなる画期的な一戦。海外メディアの関心も高い。その中からいくつか紹介してみたい。

毎朝スマイルを浮かべるバトラー

 まずバトラーの地元リバプールのメディア「エコー」。見出しは「ボクシングでもっとも困難な仕事――比類なき王座を狙うポール・バトラーの告白」。ここでバトラーは「人は、どう見ても無謀だと言う。でも聞いてくれ。私は無謀なことに挑むのだ。前向きに対処している。イノウエと対戦する以外に比類なきチャンピオンになる道はないのだから」と胸中を明かす。

 バトラーのジョー・ギャラガー・トレーナー(54歳)は「調整は順調に運んでいる。10週間のハードトレーニングで我々は一体化している」と愛弟子をバックアップ。前WBA世界スーパーミドル級スーパー王者カラム・スミス、ホルヘ・リナレス(帝拳)と対戦したアンソニー・クローラ(元WBA世界ライト級レギュラー王者)、元WBA世界スーパーバンタム級王者スコット・クイッグ(いずれも英)を育てた同氏は4人目のバトラーにミラクルを期待する。

 記事はバトラーのコメントで締めくくられる。「おそらく今、フィジカル、メンタル両方でベストなポジションに昇華していると思う。朝起きると顔にスマイルを浮かべて自分を奮い立たせ、ジムへ向かう」

 スマイルを浮かべるほど井上の強さを実感していると受け取れる。リアル過ぎるバトラーの言葉から試合の結末が見えてくるようだ。

ギャラガー・トレーナー(右)とのコンビで番狂わせを目指す(写真:BBC Sport)
ギャラガー・トレーナー(右)とのコンビで番狂わせを目指す(写真:BBC Sport)

井上は草食系であり肉食系

 同じ英国のボクシング専門誌「ブリティッシュ・ボクシング・ニュース」は「ベビーフェンス・アサシン(童顔の暗殺者)と呼ばれるイギリスの選手がライジング・サンの土地で50年ぶりの比類なきバンタム級チャンピオンを目指す」と記述。プロべラムの社長、リチャード・シェーファー氏のコメントを紹介する。

 「これ以上の番狂わせはないと言っていい。でもポール・バトラーは歴史に名前を刻む準備をしている。彼が4団体統一チャンピオンに就けば、地震性の衝撃が世界に伝わるだろう」と語る。

 同誌はバトラーが井上を攻略する手段としてノニト・ドネアとの第1戦を参考にしていると記す。筆者がプロべラムの広報を通じてバトラーにインタビューした時も同様の返事だった。以前の表現では「ビデオを擦り切れるほど観ている」というニュアンス。アウトボクシングを貫いて判定勝ちを狙う作戦らしい。だが、同誌の記事は「12ラウンズにわたり、正味36分、あのパワーから逃れるのは非常に難しい」と結ばれる。

 続いて米国の「ボクシング247ドットコム」は前述のザ・リバプール・エコーの記事をメインライターのジェームス・スレイター氏が解説しながら試合展開をプレビュー。「29歳のイノウエは現在、全盛期にいる。対戦相手にアドバンテージを与えるような弱点は見当たらない」とモンスターをべた褒め。そして「バトラーは負けても失うものが何もない。彼には途方もなく大きい仕事だ」と分析。最後に「バトラーの勇気を称えたい。草食であり肉食でもあるモンスターとファイトするのだから」と井上を無敵の動物に例えて強さを強調している。

期待はすでにスーパーバンタム級

 ボクシング247の関連サイト、「ボクシングニュース24ドットコム」は、主に英国の選手を担当するチャールズ・ブラン記者が「机上ではイノウエの早いラウンドのノックアウト勝利という結論に達する。イノウエの最新試合で犠牲になったドネアの姿を見れば非力なバトラーにはイージーな仕事は期待できない。12月13日の結末は容易に想像できる」とリアリスティックに綴る。

 同記者はバトラー戦を通過点ととらえ、「イノウエはスーパーバンタム級の2人、スティーブン・フルトン(WBC・WBO王者)、ムロジョン・アフマダリエフ(IBF・WBA王者)を下して意外に早く同級でも比類なきチャンピオンに就くかもしれない」と未来を予想。「でも彼らは才能があり、パワフルで若い。バトラーを破ることよりもずっとハードな仕事が待っているだろう」とやはりバトラーには勝ち目ないと見ている。

童顔の暗殺者バトラーは無謀な闘いに挑む(写真:BoxingScene.com)
童顔の暗殺者バトラーは無謀な闘いに挑む(写真:BoxingScene.com)

モンスターの強さはバランスの良さ

 同サイトの井上vsバトラーに関する最新記事で、「“モンスター”というニックネームは本当にふさわしい」と投稿したのがステファン・ラドサフレビッチ記者。井上の圧勝を前提に彼と他のチャンピオンたちを比較する。

 井上の長所として「彼はトラッシュ・トーク(派手な舌戦)をせず、オーバーアクションで勝利を祝うこともない、ピュアな選手。パワーと確かなスキルだけで魅了する、今日のボクシングでは稀有な存在」と記述。加えて「ジョー・ルイスやロッキー・マルシアノといったレジェンドを想起させる」と連続25度の防衛記録を持つルイスと49勝無敗で引退、飛行機事故で非業の死を遂げたマルシアノ、2人の元ヘビー級王者を例に絶賛する。

 記事では「イノウエの試合にフォーカスするのはパワーだけではない。彼は多彩な才能を持った均整の取れた選手。中でも卓越したタイミングとカウンターパンチのスキルが真骨頂。同時にここ5、6戦でディフェンス重視の姿勢が顕著。ディフェンスと攻撃のポジション取りの向上が目立つ。ファンはその辺のバランスの良さを見逃しがちだ」と具体的な指摘をしている。

 鬼に金棒とはまさにこのことだろう。同記者が「モンスターの名前にふさわしい」と主張する理由がそこにある。ビッグステージが待っているスーパーバンタム級進出に向け、井上はどんなパフォーマンスを披露するだろう。海外メディアの報道も日々、熱を帯びてきた。試合が将来、語り継がれるには、ひとえにバトラーの頑張りにかかっていると言えよう。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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