感謝祭のメインエベント

 明日アメリカ時間の26日はサンクスギビング・デー(感謝祭)。古くから家族、友人が集まり食事を共にする祭日はアメリカ人にとりクリスマスと同等か、もしかしたらそれ以上に意義深いイベントである。翌日の金曜日はブラックフライデーと呼ばれ、量販店を中心に安売りセールが行われる。アメリカ人が1年中で最も金を使う日と言われ、開店を前に買い物客が我先にと入口に殺到する。そして土曜日28日、ロサンゼルスのステープルズ・センターでマイク・タイソンvsロイ・ジョーンズJrが開催される。

 彗星のごとくトップシーンに現れ、統一世界ヘビー級王者に君臨。一方で「地球上、最悪のワル」と呼ばれ、スキャンダルまみれだったタイソンに関して多くの説明はいらないだろう。対するジョーンズはミドル級、スーパーミドル級、ライトヘビー級そしてヘビー級と4階級で王者に就いた元パウンド・フォー・パウンド・キング。特にスーパーミドル級までは手に負えない強さを誇った。

 ボクシングのレジェンド対決。エキシビションマッチながら両者の大物度は最大級。当初9月に予定された一戦が「感謝祭週間の週末」にシフトしたのは、家族や友人たちとわいわいがやがや観てほしいという主催者の意向が反映されたとみる。

安全対策優先のルール

 2人は“実戦”を希望したが、それは叶わなかった。2018年の2月まで現役だったジョーンズだが、すでに51歳。ラストファイトから15年以上経つタイソンは54歳。安全管理が優先され、昨日カリフォルニア州アスレチック・コミッション(CSAC)が公表したルールは以下のようになっている。

ラウンド数と時間……8回戦で1ラウンド2分。(両者が希望した10回戦、男子の試合の1ラウンド3分はCSACが拒否)

使用グローブ……12オンス。(通常ヘビー級戦は10オンスを使用)

ヘッドギア……着用しない。(最大の王座承認団体WBCは着用させたかった)

開始時間……PPVカードの開始は現地時間の午後6時(日本時間29日午前11時)。タイソンvsジョーンズは午後8時頃にゴングが鳴る予定。

米国向けPPV料金……49.99ドル(約5150円)。

当日の両者の体重……タイソンは最終戦のケビン・マクブライド、その前のダニー・ウィリアムズ戦とも233ポンド(105.69キロ)を計測。キャリア最重量だったブライアン・ニールセン戦の約240ポンド(108.86キロ)ほどでリングに登場すると思われる。一方ジョーンズは2011年からリミット200ポンド(90.72キロ)のクルーザー級でリングに上がった。おそらく200ポンドをやや超える体重で臨むと予測される。

試合中のカット……どちらかあるいは両者が顔面をひどくカットした場合、試合は終了する。

薬物検査……試合前に両者はVADA(ボランティア・アンチ・ドーピング協会)のテストをクリアしなければならない。ただし今回マリファナのテストはなし。(タイソン自身がマリファナ栽培の農園を経営し服用者のため。大麻はカリフォルニア州では一部合法)

スコアリング……試合の採点はCSACは関与せず、WBCが任命するセレブのジャッジ(元女子チャンピオンのクリスティ・マーティン、元世界王者のビニー・パジェンサ、チャド・ドウソン)がリモート採点する。しかしこれは参考記録で、試合後、勝者はアナウンスされない。レフェリーはCSACが任命済み(レイ・コロナ氏)。

ファイトマネー……タイソンは1000万ドル(約10億3000万円)、ジョーンズは推定300万ドル(約3億900万円)。ジョーンズの保証額は100万ドルという報道もある。

オッズ……勝者が発表されないのに賭け率が出ているのは不思議だが、試合発表時からこれまで約3―1でタイソン有利の予想が主流。ただしブックメーカーによってはおよそ3-2から2-1でジョーンズ有利と出ているところもある。

コーチとコンビネーション中心のメニューをこなすジョーンズ(写真:BoxingScene.com)
コーチとコンビネーション中心のメニューをこなすジョーンズ(写真:BoxingScene.com)

ジョーンズの左ボディーは要注意

 メディアを賑わす元選手やエキスパートの予想も大方、タイソンが支持されている。

 タイソンに2度勝利した元統一ヘビー級王者イバンダー・ホリフィールド氏(58歳)は「タイソンがジョーンズを捕まえると思う。そしてダメージを与えるだろう。でも捕まえることができないと、ひどい目に遭うかもしれない」と元宿敵の勝利を予想しつつ、警鐘を鳴らす。

 2004年にタイソンに勝った英国人ダニー・ウィリアムズ氏(47歳)も「タイソンのサイズとパワーにジョーンズは参ってしまうに違いない。ロイはかなり深刻なダメージを被るだろう」と指摘する。

 また1990年、東京でタイソンをノックアウトし世界にショックを与えたジェームズ“バスター”ダグラス氏(60歳)は「私は42-1で絶対不利だった。ジョーンズの勝つチャンスは私の時より少ない」と絶望を強調。“三日天下”に終わったダグラス氏だがプライドは失っていない。

 タイソンの後年のキャリアでメイントレーナーを務めたこともあるフレディ・ローチ氏(60歳)は「私はマイクがジョーンズをノックアウトすると思う」とコメントしながらも「マイクが一つだけ注意しなければならないのはロイの左ボディー打ち。バージル・ヒル(元ライトヘビー級&クルーザー級王者)を倒したパンチ」と持論を明かす。

 そして自身もカムバックする噂が流れるオスカー・デラホーヤ氏(47歳=ゴールデンボーイ・プロモーションズCEO)は「私もタイソン有利に傾く。でもジョーンズが番狂わせを起こしても驚かない。彼のキャリアがそれを証明している」と語る。

オーラvsモチベーション

 デラホーヤ氏の言葉で、ジョーンズが一世一代のパフォーマンスを披露してWBA世界ヘビー級王者に就いた2003年3月のジョン・ルイス(米)戦が頭によみがえる。ミドル級王者からヘビー級王者に君臨したのは106年ぶりの快挙だった。ちなみにその試合のジョーンズは193ポンドとクルーザー級リミットにも達しない体重。末恐ろしい可能性を感じさせた。

 しかし好事魔多し。それから2試合目となるアントニオ・ターバー(米)とのリマッチでジョーンズは悪夢の2回KO負け。サウスポー、ターバーの左で沈んだジョーンズは以後14年もリングに上がることになるが、痛烈なKO負けを喫することも何度かあり、最強ボクサーのオーラは薄らいでいる。

 それに比べタイソンはキャリア晩年の大一番、レノックス・ルイス戦で撃沈され、上記のように最後の2戦もKO負けだったが、いまだに強烈なオーラを放っている。現役時代のようにゴングが鳴ってみないと何が巻き起こるかわからない、ゾクゾクさせられる期待感が周囲に漂っている。

待ちに待ったゴングが鳴るレジェンド対決
待ちに待ったゴングが鳴るレジェンド対決

今年最大のビッグマッチ?それとも娯楽?

 コロナパンデミックの最中、タイソンがミット打ちのパフォーマンスをソーシャルメディアで流しカムバック説が伝えられた時、真っ先に対戦候補に挙がったのがホリフィールド氏だった。話が立ち消えたのはおそらく条件(報酬など)が合意に達しなかったのだろう。一方、キャリア後年、負けが込むこともあり、一部で引退も勧告されたジョーンズが対戦に手を上げたのは報酬の魅力からだと推測される。

 2人のうち、どちらにモチベーションがあるかと問われれば、ジョーンズだと答えたい。公式には勝ち負けがないエキシビションマッチ。エキシビションとは「展示会、実演会」の意味。「これはまさしくエキシビション。それ以上それ以下でもない。競争とは違います。ファンが楽しめればいいのです」(CSACのアンディ・フォスター事務局長)

 もちろん結果も興味津々だが、ファンに50ドルに見合う娯楽を提供できるかが焦点になりそうだ。