村田諒太の挑戦者にパッキアオを撃ち破った男が再浮上 カネロ争奪戦となるか?

パッキアオに番狂わせで勝ちウェルター級王者に就いたホーン(写真:REUTERS)

月末勝てば12月、日本開催

 前WBO世界ウェルター級王者で現在WBAミドル級3位にランクされるジェフ・ホーン(豪州)がロブ・ブラント(米)に2回TKO勝ちで王座を奪回した村田諒太(帝拳)の対戦相手に挙がっている。米国でスポーツ専門メディアのESPNがレポートしたのに続き、いくつかのボクシングサイトが発信。豪州でもそれに準じて報道されている。

 期日は交渉が締結すれば「クリスマス前」というから12月と踏んでいいだろう。日本開催が有力視される。発信源は帝拳ジムと共同で村田を米国でプロモートするトップランクの総帥ボブ・アラム・プロモーター。バカンス先のバハマ諸島から伝えた。すでにホーンのプロモーターとトレーナーと連絡を取り合っているもようだ。アラム氏と帝拳ジム側との折衝に関しては今日現在レポートされていない。

 ただしホーン(19勝13KO1敗1分)には一つ条件があり、今月31日予定される同胞マイケル・ザラファ(26勝15KO3敗)を迎えるWBAオセアニア・ミドル級王座の防衛戦で勝利を飾らなければならない。実績からホーン有利は動かないが、昨年、前IBFウェルター級王者ケル・ブロック(英)と敵地でフルラウンド戦ったザラファ(27歳)は侮れない相手だ。

マイケル・ザラファ(写真右)と地域タイトル防衛戦を控えるホーン(写真:BoxingScene.com)
マイケル・ザラファ(写真右)と地域タイトル防衛戦を控えるホーン(写真:BoxingScene.com)

ブラント再戦前に話があった

 ホーン(31歳)が村田の相手に挙がったのは初めてではない。ブラントvs村田2が締結する前、村田vsホーンで挑戦者決定戦が行われる話が持ち上がった。しかしホーンの夫人が夫婦の第二子となる出産を控えていたため、ホーンが辞退した経緯がある。

 ちなみに豪州メディアによると、その時、村田サイドから提示されたファイトマネーは200万ドル(約2億1000万円)近く。ベルトを失ったテレンス・クロフォード(米)戦でキャリアハイの300万ドルをゲットしたホーン。タイトルマッチ以外でそれだけ稼げるのだから対戦意欲を刺激されたに違いない。「夫人の出産に立ち会うことは、高額なマネーを得ることやビッグファイトに勝つことより貴重で高価なものだ」。ホーンの決断は豪州で“美談”として扱われた。

 だが、結果的にホーンは賢明だったとも受け取れる。もし7月に予定された村田戦を選択していれば、ただの挑戦者決定戦。一方、今回契約にサインすれば、ダイレクトに世界王者に挑戦できるのだ。今回、どのくらいの報酬がオファーされているか判明していないが、ホーンと彼の陣営は相当、挑戦に乗り気だと思われる。

実現すれば村田有利

 一方、村田陣営の帝拳ジム本田明彦会長は村田がブラントに鮮やかなリベンジを果たした直後、「ビッグマッチ思考」を打ち出した。「ただの防衛戦はしませんよ」と。状況から、まだ遠い存在と言わざるを得ないが、ターゲットはトップ2のサウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)と“GGG”ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)。本田氏の発言は両者との対戦が実現するためのステップと理解していいだろう。

 そして日本で絶対的なスターの一人である村田とマニー・パッキアオに勝ってウェルター級王者に就き、豪州では不動の人気を誇るホーンは背景的にもビジネス的にもナイスな組み合わせといえる。村田のモチベーションは言うに及ばず、ミドル級でキャリアを再構築しているホーンもトップ2へ向けたベクトルは間違いなく一致する。付け加えれば強靭なフィジカルを誇るホーンにしても、テクニックではロンドン五輪金メダリストの村田が同大会で準々決勝敗退の豪州人を勝る印象がある。パワーでもウェルター級上がりのホーンを上回るはずだ。勝敗を占えば、村田有利の予想が立つ。

米国では注目度が今一つ

 それでも本場米国で村田vsホーンは、あまり歓迎されていない。実力がトップ2と、もう一つのWBO王座を保持するデメトゥリアス・アンドラーデ(米)で形成するトップグループと離れていると捉えられているからだ。村田が保持するベルトはWBA“レギュラー”王座。同“スーパー”王者はカネロ・アルバレス。セカンダリ(2番目の)という形容がつく村田の王座はどうしても評価が低くなってしまう。

 村田vsホーンの話題を報じたボクシングメディアも「あなたが素敵なカードだと思うなら、それなりに素敵になるでしょう」(バッド・レフトフック・ドットコム)と何とも皮肉なコメントで締めくくっている。それに反して豪州では「我らがホーンがカネロ・アルバレスとの究極のメガファイトへ前進する」と対決機運が高揚している。

Hornet(スズメバチ)のニックネームがあるホーンは元小学校教師の肩書がある(写真:BoxingScene.com)
Hornet(スズメバチ)のニックネームがあるホーンは元小学校教師の肩書がある(写真:BoxingScene.com)

カネロの標的は古豪コバレフ

 村田はブラントとの初戦で敗れて回り道を強いられなければ、「東京ドームでゴロフキンに挑戦」という青写真があった。ブラントに初戦で完敗し、それは雲散霧消するのだが、その段階でカネロよりも可能性が高かったゴロフキンはまだ脈があるのだろうか。

 今、世界一リッチなボクサーに君臨するカネロはスポーツ動画配信DAZNと大型契約を結び、ミドル級シーンの中心に位置し簡単に村田やホーンと対戦に応じるのは難しいと思われる。現時点でカネロが食指を伸ばしているのが昨日、地元ロシアで前評判の高かった指名挑戦者アンソニー・ヤード(英)に11回KO勝ちで撃退したWBO世界ライトヘビー級王者セルゲイ・コバレフ(ロシア)。11月にも米国で実現すると噂される。ウエート設定はおそらくライトヘビーとミドル級中間のスーパーミドル級リミット(168ポンド=76.20キロ)周辺にセットされるだろう。

 カネロ、彼のプロモーター、ゴールデンボーイ・プロモーションズ(GBP)、DAZNの米国進出の旗手エディ・ハーン・プロモーター(マッチルーム・ボクシング)とも第一オプションはゴロフキンとの第3戦だ。この三者の中でもっともゴロフキン戦に執着するのはオスカー・デラホーヤ氏率いるGBP。それが思惑通りに運ばず、恒例のカネロの9月ラスベガス登場が今年は消滅した。

 ハーン・プロモーターは「ライトヘビー級のコバレフは危険すぎる。カネロはアンドラーデと対戦すべきだ」と主張。逆に同じDAZN傘下のゴロフキンには「試合は楽しみを損ねるものとなる」という理由でアンドラーデを相手に推さない。それは最近DAZNと契約したビリー・ジョー・サンダース(英=WBO世界スーパーミドル級王者)も同様。ディフェンシブなスタイルのアンドラーデとサンダースはゴロフキンとかみ合わないというのだ。

 つまるところ、カネロがコバレフ戦を希望するのは昨年のスーパーミドル級王座(WBA“レギュラー”王座)獲得に続き、キャリアに箔をつけたい――という理由からではないだろうか。元ライトヘビー級3冠統一王者でもあるコバレフ(36歳)は一種のブランド。ゴロフキンに次ぐビッグネームだとカネロは見ている。

GGGよりもカネロ

 これをカネロの“気まぐれ”と解釈するのはあまりにも軽率だ。それでも3本のベルトの一つIBF王座をはく奪されたカネロの後釜を狙うゴロフキンは、キャリア進行が堅実な印象を与える。ゴロフキンvsIBF1位セルゲイ・デレフヤンチェンコ(ウクライナ)の王座決定戦は10月5日ニューヨークのマジソンスクエアガーデンで挙行される。

 その勝者と来年カネロが対戦するのが理想なのだが、村田やホーンの今後を占うと、ゴロフキンよりもカネロの方が対決の可能性が広がるという見方ができる。これは何もカネロの衝動的な行動に期待しているわけではない。上記のようにカネロ、GBP、ハーンは一枚岩とは言えなくなってきたからだ。

 特に盤石に思えたカネロ-GBPのタッグが怪しくなってきた。まだ噂に過ぎないが、アラム氏がトップランク入りを迫りカネロに接触しているという。まさかDAZNとの11試合、日本円で400億円を超える契約を反故してアラム氏になびくとは考えられないが、明日のことは全く予測不可能なのがボクシング界。万が一そんな事態になったら、真っ先に指名がかかるのが村田だろう。

 今、村田vsホーンが締結する見込みは50-50というところか。だが今後を見つめると、ぜひとも勝利を収めておきたい相手だ。もしかしたらアッと驚く挑戦者がセレクトさせるかもしれない。それでもホーンは「ただの防衛戦」の範ちゅうを超えたライバルに違いない。交渉の進展が待たれる。