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バンタム級に進出する井上尚弥。ベストな標的は11秒KO男テテだ

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
英国メディアは早くもテテvs井上をクローズアップ(写真:BoxNation)

 30日、横浜文化体育館で行われるWBO世界スーパーフライ級チャンピオン井上尚弥(大橋)の7度目の防衛戦。挑戦者のヨアン・ボワイヨ(29歳)は無効試合1つを含み31連勝20KO中のフランス人だが、トップクラスを相手にした実績に乏しく、井上の前半のストップ勝ちを予想する関係者が多い。そして井上は今回の試合がスーパーフライ級最後のファイトになると明かしている。

パワーが生きるバンタム級

 油断は禁物だが、大方の予想どおりボワイヨが12ラウンド終了のゴングを聞くことはないとみる。井上は条件が許せば、来年2月24日ロサンゼルスのザ・フォーラムで挙行される「SUPER FLY2」に出場を検討していた。いや、大いに意欲的だったと言うべきだろう。しかし話題に上がったIBF王者ジェルウィン・アンカハス(フィリピン)との統一戦は相手の都合で実現せず。他のランキングボクサーとの防衛戦もオプションにあったらしいが、それではモチベーションが保てず、1クラス上のバンタム級に進出する決断を下した。

 スーパーフライ級ながらバンタム級を超えて122ポンド(スーパーバンタム級)のスパーリングパートナーでさえ耐えきれないといわれる井上のパワー。転向の最大の理由は体重を維持するのが困難になったからだが、減量から解放された井上がよりパワーアップすることは疑う余地がない。“モンスター”がより鮮烈なKOシーンを披露する期待が高まる。

 一方で今年9月の「SUPER FLY1」でアントニオ・ニエベス(米)を一蹴した井上には米国ファンとメディアからスーパーフライ級で勇姿を披露してほしいという要望が強い。特にローマン・ゴンサレス(ニカラグア)に2連勝、2戦目で豪快に“ロマゴン”を沈めたWBC王者シーサケット・ソールンビサイ(タイ)とのアジア人対決への期待が高揚している。

ファンはシーサケットとの対決を熱望

 シーサケットには2月24日、フアン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)との指名防衛戦が組まれている。今すぐ井上vsシーサケットを実現しろと言われても無理な話だ。井上自身には全く責任はない。だが米国ファンはエストラーダと対戦した後に井上と統一戦を希望する(強豪のメキシコ人を相手に防衛する確証はないのだが)。

 パウンド・フォー・パウンド・ランキングを上昇中の井上には絶賛の声が浴びせられる一方で、「118ポンド(バンタム級)に上がるにしても115ポンド(スーパーフライ級)で実績をつくってからにしてほしい」という意見がある。人気ボクシングサイトの一つ、ボクシングニュース24ドットコムはティム・ロイナー記者が「井上がバンタム級に上がるタイミングがストレンジだ」と指摘。「約3年間、井上は115ポンドの王者に君臨したが、唯一の強敵は戴冠した40代のオマール・ナルバエス。シーサケット、アンカハス、カリド・ヤファイ(英=WBA王者)との対決をファンは熱望している」と記す。

 繰り返すが、井上も彼の陣営もこれらの選手と戦いたかったことは間違いない。だが記事ではあたかも井上が統一戦を避けて転級するように書かれている。私もこちらの一般のファンから「どうして井上は2月に来ないんだ。タイ人とのパンチャー対決が見たかったよ」と突っ込まれた。これは軽量級に関心が薄いアメリカでは稀有なことだ。それだけ井上に対する関心が並大抵でないことの証でもある。

 ちなみに同サイトはトップ選手の「こき下ろし」に特徴がある。各選手、たとえばマニー・パッキャオ、カネロ・アルバレス、アンソニー・ジョシュアらの英国選手に対して各ライターが辛口コメントを並べる。技術的な内容が中心だが、ここで批評されたら一流の証明という見方がされる。これまで軽量級で取り上げられる選手はロマゴンぐらいしかいなかった。今後、井上の記事が増えるなら、それだけ注目され、人気が上昇していると考えていい。

最新の防衛戦で11秒で相手を沈め世界戦最短記録をつくったテテ(写真:ボクシングシーン)
最新の防衛戦で11秒で相手を沈め世界戦最短記録をつくったテテ(写真:ボクシングシーン)

ネリと速決テテが対戦を希望

 さてバンタム級に活躍の場を求める井上がターゲットにする王者は誰か。スーパーフライ級のように必ずしも誰もが納得するマッチメークが実現するとは限らない。だが“モンスター”には王者側からも対戦希望者が出ている。

 その一人が山中慎介との再戦が確実視されるWBC王者ルイス・ネリ(メキシコ)。薬物問題で疑惑の渦中にいたネリは最終的に処分は科せられなかった。どこまでも恐れを知らぬ戦法とパワーとスピードは井上とかみ合うこと間違いなし。スリルを提供する。だが、まずは山中に勝つことが先決。同時に今度こそドーピング検査を納得のいくかたちでクリアしなければならない。

 もう一人はWBO王者ゾラニ・テテ(南アフリカ)。サウスポーの強打者は11月、北アイルランドのベルファストでシボニソ・ゴニャ(ナミビア)に初回わずか11秒KO勝ちで防衛。世界タイトルマッチのKO記録を6秒短縮した。26勝21KO3敗のテテはこれが13度目の初回KO勝ち。海千山千のフランク・ウォーレン・プロモーター傘下という背景があるが、ネリよりも対戦に現実味があると推測される。テテはIBF・S・フライ級王座を神戸で帝里木下(千里馬神戸)との決定戦で獲得しており比較的日本へ招へいしやすいと思われる。

 そして一撃のインパクトはネリより上。ラッシングパワーではメキシカンに軍配が上がるかもしれないが、スリリングなシーンは保証済み。現状でもっとも井上にフィットするライバルだと位置づけられる。テテ(29歳)は2月10日ロンドンでWBOの指名試合でナルバエスを迎え撃つ。ナルバエスは3連勝中だが、42歳の老雄に3階級制覇を達成する余力が残っているとは思えない。ナルバエスを撃退したところで井上との対決がクローズアップされるだろう。

黄金のバンタム再び

 バンタム級はWBA&IBF統一王者にライアン・バーネット(英)が君臨する。もちろん井上の標的の一人にノミネートされるが、初防衛戦が統一戦だったこともあり、まだ実績の点で見劣りする。バーネットはしきりにテテとの統一戦をアピール。しかしこれは彼のエディ・ハーン・プロモーターのポーズに過ぎないと噂される。また同じ英国のWBA“レギュラー”王者ジェイミー・マクドネルは亀田和毅(協栄)に2連勝など地道にキャリを進行。だがスーパーバンタム級進出が濃厚でレーダーから外れる。

 前出のロイナー記者は「井上がテテを敬遠したら、バンタム級は根絶するだろう」と結ぶ。でも「井上の進出で同級は黄金期を再び迎える」と期待を込めて祈りたい。

2冠統一王者バーネット(右)もテテとの対決をアピールする(写真:ボクシングシーン)
2冠統一王者バーネット(右)もテテとの対決をアピールする(写真:ボクシングシーン)
ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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