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フライ級ウォーズを制するのは誰だ!

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員

ロマゴン優位は不動

注目のWBC世界フライ級タイトルマッチ八重樫東(大橋)-ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)が明日に迫った。両者とも計量をクリアし、開始ゴングを待つばかり。パウンド・フォー・パウンド・ランキングにも登場する最強の挑戦者“チョコラティート”を迎え、果たして王者八重樫がどんなパフォーマンスを披露するのか非常に興味深い。

軽量級に関心が薄いアメリカでも八重樫-ゴンサレスはメディアとファンの注目を集めている。本場リングで戦っているゴンサレスは、ミニマム級王者時代からその強さが知れ渡っている。八重樫も初めてベルトを巻いたポンサワン・ポープラムック(タイ)戦がESPNと他のメディアから2011年の最高試合に選出されたこともあり、名前が浸透した。また井岡一翔(井岡)との激戦をユーチューブなどで見た一部のファンが、その戦闘スタイルの虜になっている。「フライ級最強はヤエガシ」、「現役日本人ナンバーワンはアキラ」と報じるメディアもある。

勝敗予想をもっともシンプルに表すブックメーカーの賭け率は試合直前、7-2でゴンサレス有利と出ている。より具体的に展開と結末を掘り下げる記事ではゴンサレスの終盤TKO勝ちというものが多い。日本のファンにはもっと八重樫に分がある試合に映るかもしれないが、私も米国メディアに同調したい。

ハードパンチャーぶりが引き立つゴンサレス(39勝33KO無敗)だが、それが彼の魅力であっても、最大の長所ではない。相手を自由に動かせない圧力、囲い込む能力、英語のカット・オフ・リングが実に巧妙だ。八重樫は無理な打ち合いを避け、スタミナと脚力を生かしたアウトボクシングを選択するはずだが、どこまで全うできるか疑問だ。メキシコの大物の一人、エドガル・ソーサをアウトボックスした八重樫(20勝10KO3敗)にしてもゴンサレスが相手では荷が重いだろう。サバいていてもどこかで引き金を引く時が来る。そこにゴンサレスの痛烈なリターンを食らう可能性が生じる。もっとも八重樫はカウンターのカウンターに懸ける手がある。だが母国の偉大な先達、故アレクシス・アルゲリョの後継者と呼ばれるゴンサレスがその餌食になる姿は想像しにくい。

アルゲリョというよりもゴンサレスのスタイルは現WBA世界ミドル級王者ゲンナジー・ゴロフキンを想起させる。ミニマム級からライトフライ級王者時代は思うようにタイトル戦が組まれず、キャリアが停滞、ひいては怪物性の減退を指摘されたゴンサレス。だが3階級制覇のチャンスを得て、怪物ロマゴンは覚醒するとみる。

メキシコとタイでもタイトル戦

東京の試合の翌日(時差があり実際は2日後)メキシコシティでWBA&WBO世界フライ級タイトルマッチが行われる。統一王者フアン・フランシスコ・エストラーダに元ライトフライ級王者ジョバニ・セグラが挑戦する。メキシコ人対決は同国の格闘技の殿堂アレナ・メヒコでゴングを聞く。

ロマゴンと白熱したファイトを演じ、大いに株を上げたエストラーダ(26勝19KO2敗)は24歳。今後の躍進次第で、ボクシング王国メキシコを牽引して行く期待を背負う。インでもアウトの距離でも対応可能な万能型で、スピードに乗ったコンビネーション、カウンターの能力でも傑出したものを持つ。強豪“ハワイアンパンチ”ことブライアン・ビロリアを攻略したように、強固なメンタルも売り物。予想がエストラーダに傾くのもうなずける。

それでも軽量級では無類の強打の持ち主で意外性に生きる男セグラ(32勝28KO3敗1分。32歳)がアップセットを起こすシーンも想像可能だ。左右にスイッチを多用するスラッガーで、オープンガードからセオリー無視のパンチを繰り出す。ビロリアにはフィリピンで意外なストップ負けを喫したが、その後復調。自国のライバル、エルナン“タイソン”マルケスを豪快に沈め、エストラーダ挑戦へ前進した。

トーナメント形式なら、ロマゴンとエストラーダの再戦となりそうだが、10日にはタイでIBF世界フライ級王者アムナット・ルエンロエン(タイ)がマックウィリアム・アローヨ(プエルトリコ)との防衛戦を予定する。1週間に3つの世界タイトル戦。この一戦の勝者も絡むとなると、フライ級最強決定戦はいっそう華やかさを増す。

日本で井岡の3階級制覇を阻止したルエンロエン(13勝5KO無敗)は2度目の防衛戦。元囚人ながら刑務所でボクシングに開眼し、アマチュアではオリンピック代表になった異色選手。対するアローヨ(15勝13KO1敗)も2009年世界選手権優勝とアマで輝いた実績を持つ。唯一の黒星は4回戦時代、岡田隆志(元MTジム所属)にダウンを奪われ判定負けしたもの。だが現在4連続KO勝利とノッている。

ボクシングの全17階級でもフライウェイトは今、充実のクラス。王者統一トーナメントが実現することを願ってやまない。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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