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エースの涙と連覇の重圧ー10連覇潰えた帝京大・竹山

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
天理大戦、奮闘する帝京FBの竹山(撮影:齋藤龍太郎)

 チームも人も、いつかは負ける。王者とて、例外ではない。大学ラグビーの雄、帝京大が2日の大学選手権準決勝で天理大に敗れ、10連覇がついえた。輝き続けたエースのFB竹山晃暉(こうき)は囲みインタビューの際、「10連覇と言って、入学してきたんですけど…」と言うと、言葉に詰まった。刹那、目から涙があふれ出た。

 「ほんとうに、自分自身が4年生になって、すごく10連覇したいという意識もありましたし、みんなの気持ちを感じていた部分もありました。でも…。この悔しい気持ちを、次のカテゴリー(トップリーグ)で生かしていきたいと思います」

 有言実行の男、竹山は奈良・御所実業高3年の全国高校大会決勝で敗れた際、「帝京大学に進学して10連覇を達成します」と口にした。いつも目標を明確に設定し、公言し、精進する。その目標に向け、帝京大1年目からレギュラーとなり、喝采を浴びてきた。

 図抜けた運動能力と観察眼。V7、V8、V9を達成し、最上級生となった今季は副将として、チームを引っ張ってきた。ゴールキックも任され、その責任はおおきくなった。

 連覇の重圧は? と聞かれると、竹山は「そうですね」と少し、考えた。

 「どのスポーツ界でも、10という数字、10連覇というのは、僕が生きている中では経験していないですし、見てきてもいないので、ほんとうに4年生になって、対抗戦が始まる頭から、すごく、こう1試合1試合の重みというものを感じていました」

 自己分析すれば、竹山は試合の前に緊張するタイプではない。リラックスする状態を作り出して、グラウンドに入ってスイッチを入れる。試合を楽しむ。それが「自分のカラー」だと信じていた。だが、対抗戦の慶大戦あたりから、「試合のスタートから、いつもと違う自分がいたのかなと思います」とささやくように打ち明けた。

 「やはり連覇を背負う重圧とか、プレッシャーがありましたし、周りのみなさんから期待を背負ってきたので、それに応えようとやってきました。重圧を感じながらラグビーをやっていたんです」

 一方、「打倒!帝京」を目指す他校の包囲網は年々、強まってきた。食生活を改善し、科学的なトレーニングを経て、どの大学もフィジカルアップを図ってきた。今では、からだのケア、コンディショニングに気を配るのは普通になってきた。戦術、戦略も研究され、今季は苦戦が相次ぐようになってきた。

 それでも、竹山のプレーの輝きは鈍らなかった。この日の天理戦でも、だ。だが、前半の序盤、スタンドオフの北村将大が脳震とうを起こし、交代した。「あのプレーで、チームとしてショックを受けてしまった」。攻守のリズムが乱れる。スクラムも押された。

 天理大に突破役の3人のトンガ出身選手を効果的に使われ、ディフェンスがポイントに寄ったところで、快足のランナーに外へボールを運ばれてしまった。ミスも続発と、悪循環をたどる。

 ノーサイド。7-29。よもやの完敗だった。竹山は右ひざを緑色の芝のピッチにつけ、左ひじをひざにつけて、立ち尽くす深紅のジャージのチームメイトをぼう然と見続けた。背番号15のうしろ姿が泣いていた。そう、見えた。

 「これまで先輩たちが築き上げてきた連覇というものを、しっかり背負って戦っていたんですけど、自分たちの甘さが出てしまったのが、この点差になったのかなと。帝京大より、天理大が強かったということをしっかりと受け止めることが大事だと思います」

 試合後のロッカールームではほとんどの選手が泣いていた。岩出雅之監督からはこう、言われたそうだ。“今まで多くの選手を泣かせてきたのだから、今日は自分たちが思い切り泣け”と。竹山も涙が止まらなかった。

 「個人的にはこのカテゴリーで優勝できなかった悔しさは残りますが、次のトップリーグのチームでもがんばっていきたいなと思います。ただ次のカテゴリーの目標はまだ、はっきりと想定できていないので…。正直、12日の決勝に向けて自分のマインドをセットしていたからです」

 竹山は試合後、奈良県の中学時代から良きライバルだった天理大のウイング久保直人にこう、声をかけた。「決勝戦でもしっかりトライをしてくれよ」と。ノーサイド精神というラグビーの本源がつい、浮かんだ。

 竹山は帝京大に感謝する。「言葉に言い表せないほど、たくさんの経験をさせていただいた。心身ともに成長させてもらった」と。ラグビー選手としてだけでなく、掃除、礼節など生活面の規律やインテグリティ(高潔さ)、努力の継続の大切さも学んだ。

 まだ22歳だ。竹山はトップリーグのチームに進み、日本代表入りを目指すことになるのだろう。この悔しさを、鍛錬の先の栄光へどう結ぶのか。「負けて学べる」こともある。悔し涙が、ラグビー選手として、いや人としての成長の糧になる、きっと。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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