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女子セブンズ、戦国時代到来

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

誠実と勤勉と熱意が生み出す女子セブンズの輝きはどうだろう。ラグビーにおいて「ひたむき」とは宝物なのだ。21日。2年目の女子7人制ラグビーの太陽生命セブンズ・シリーズ第2戦の東京大会(秩父宮)では梅雨空の下、好勝負が相次いだ。とくに準決勝。ラガール7が王者アルカス熊谷をついに倒した。

チームの中心は、ニュージーランドのセブンズ代表のふたり。が、周りの日本選手もふたりに素早く反応した。昨年に比べ、選手がゲーム中、よく考えるようになっている。フィジカル、フィットネス、スキルだけでなく、いわゆる判断力、修正力がついた。

ニュージーランド選手がスペースに走り込めば、すかさずフォロー。東京大会のMVPに選ばれた東京・東亜学園高1年の15歳、平野優芽も走りまわった。

たしか取材した昨年のシリーズ最終戦の横浜大会決勝では大敗(5-46)したアルカス熊谷に厳しいタックルでミスを誘い、この日は17-7で勝った。昨年度を含め4大会すべてで全勝優勝してきたアルカス熊谷に初めての土をつけたのだった。 

ラガール7にとっては、アルカス熊谷からの記念すべき初勝利である。ラガール7の古市勝久ゼネラルマネジャーは「これまでの苦労も、この勝利で吹っ飛びました」と喜んだ。

「アルカスさんはほとんど日本代表のようなチームです。そのチームに勝って、自分たちのチームの選手も、オリンピックのチャンスをいただきたい。そう思って、がんばっているんです。昨年はアルカスさんに勝てる要素がまったくなかった。でも差を詰めて、詰めて、ここまできたんです」

圧倒的な力を発揮してきたアルカス熊谷を倒そうと、ラガール7ほか、この日優勝した東京フェニックスも、セブンズらしい良いラグビーを見せた追手門学院大学も力をつけてきた。そりゃ、NZ選手たちの力は大きいけれど、周りの日本人選手も確実にセブンズ選手として成長している。

ただ環境はまだ、厳しい。ラガール7の社会人選手は勤務先の協力を受けながらも、仕事をしながら練習に打ち込んでいる。専用のグラウンドはなく、公営グラウンドや大学のグラウンド、河川敷グラウンドなどを借り、週に4~5回、集まって練習する。

選手やスタッフの「情熱」がすべてだろう。セブンズは来年のリオデジャネイロ五輪の正式競技に決まってから、競技者が徐々に増えてきた。15歳の平野ら若手の輝きは特別である。ラガール7などクラブも増え、大会や試合も少しずつ増えてきた。

何といってもトップクラスの競い合いこそが、日本代表のレベルアップにつながる。ただ、この日の秩父宮ラグビー場はなんと入場無料だった。強化・普及がうまくいけば、観客だって増えていく。きっとビジネス面だって改善されていくだろう。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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