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ワセダ、来季への課題は?

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

ワセダにとっては、来季に向けた「厳しいレッスン」となっただろう。確かに覇気と一生懸命さは伝わってきた。ワセダOBでもあるヤマハ発動機の清宮克幸監督に「ワセダ、ナイス・ゲーム!」とまで言わせた。だがトップリーグ(TL)の上位チームを倒すまでの戦術の徹底、こだわり、奇策はなかった。

ワセダの後藤禎和監督と清宮監督は大学日本一の時の同期である。互いに敬意を表し、ベストメンバーで対決した。ワセダの試合のテーマは4つ。セットプレー(スクラム&ラインアウト)のマイボールを確保する。相手得意のラインアウトからのモール攻撃を抑える。ディフェンス、とくに「ストップ・ザ・CTBマレ・サウ」。ミスボールのカバーリング~だった。

スクラムは健闘した。がラインアウトからのモールではずるずると押し込まれた。ディフェンスでは、基本となる1対1のタックルが甘かった。ワセダOBのFB五郎丸歩やWTB田中渉太にラインブレイクを許した。相手プレッシャーにミスを犯し、カバーリングが遅れ、ピンチを広げてしまった。

ワセダと比べれば、ヤマハは「強くて、でかくて、はやい」、つまりは帝京大戦と同じ構図だった。いや彼我の差はそれ以上。そんな相手にふつうに真っ向勝負を挑んでも勝てるわけがない。

ワセダに、「これで絶対トライを取る」とのプレーはなかった。意表を突く作戦も、例えばFB藤田慶和ら、個性を生かした攻めもほとんどなかった。フィジカルや体力で劣る学生チームとしては「頭」でTLチームに勝負するしかないのだが…。

クレバーさが足りなかった、と後藤監督は嘆いた。 「冷静さを含めたクレバーさ。ちっちゃいチームがそこで後手に回っていたら勝てるはずがない。もうちょっと、シンプルに状況に応じたプレーをしてほしかった」

すべては前半の序盤である。自陣からでもボールを積極的に回していこうとの意図はわかる。でも、強風の風上にいたのだ。ゴール前で3、4回展開して、ゲインできなければ、キックで陣地を稼ぐのが常套手段だろう。

例えば、PGを返した後のヤマハのキックオフ。ワセダは自陣の22メートルラインの内側でボールをキャッチしてから、蹴らずに、10フェーズ(局面)も攻め続けた。

最後は、FB藤田が密集でノットリリースの反則をとられ、そこからのピンチが続き、前半12分、ヤマハWTB田中にトライを許してしまう。ゴールも決まって3-14とされ、試合の流れが決まった。

前半20分までに3-19となった。あくまで結果論ながら、残り60分間のスコアだと13-17だから、スコア上は互角の展開だったことになる。ヤマハのFB五郎丸は「(ワセダに)こわさはあまりなかった」という。

これまたワセダOBであるヤマハのSH、矢富勇毅も、こう漏らした。「気持ちの部分は見えましたが、(ワセダに)こだわりという部分に関しては見えなかった。ちょっとぼやけていたかな」。矢富たちの早大時代のチームには、低いタックル、ブレイクダウンでは絶対、負けないとのこだわりがあった。最後、矢富は後輩たちにやさしくエールを送る。「(大学選手権で)優勝してほしいですね」と。

この敗戦から何かを学び、ワセダは来季、どうやって大学日本一奪回を目指すのか。FWは主力が卒業する。どんなにバックスがよくてもラグビーはFWがよくないと勝てない。まずは帝京大とのフィジカル差を縮めることが条件となる。

来季のワセダの中心選手、フランカーの布巻峻介は言った。

「ラグビーIQというか、ひとり一人が自分で考えられるようにならないといけない。チームどうこうのより、ひとり一人がまず、頭もそうですし、からだもそうですし、レベルアップしないといけない」

まずは自律。そして考える癖をどうつけていくのか。強じんなからだをどうつくるのか。食べて食べて、トレーニングでからだをでかくして、冷静さを含めたクレバーさを身につける。そして、こだわり。高い目標設定(当然、大学日本一)と意思統一、覚悟がスタートとなる。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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