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早大、王者の牙城崩せず

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田の意地か。試合終了のホーンと同時にCTB坪郷勇輝がトライを返した。最後まで集中力は切れなかったけれど、逆転はできなかった。悔しいけれど、帝京大とは、やはりフィジカルと基本技がちがった。

ノーサイド。酷な結末に早稲田の選手たちはふらふらとグラウンドをさまよう。SO小倉順平は地面にへたりこみ、FB藤田慶和は空を仰いだ。フランカー金正奎は左手で顔を覆って号泣し、帝京主将の中村亮土に肩をかかえられた。

あえて毅然とした態度をとろうとする主将の垣永真之介の姿が痛々しい。

「どんなに点をとられても、試合中、まったく負ける気がしなかった。まだ全然イケると。最後にいいラグビーができた。でもあと一歩、あと一歩、届きませんでした」

誤算はスクラムである。今季、帝京大にスクラムでは優位に立ってきた。だが、そのスクラムが不安定だった。なぜか。帝京大がきっちり対策を練ってきたからである。

序盤、早稲田は、帝京大に低く、早く構えられてしまった。ヒットで優位に立てない。さらに左右への揺さぶりをかけられた。キックオフからのノーホイッスルトライで先制した後のファーストスクラム。

早稲田ボール。自陣中盤の右のポイントだった。相手3番が前に出るカタチで、1番の大瀧祐司が内側に押し込まれた。スクラムは左に回り、NO8からの球出しが乱れた。ターンオーバーを許した。

2つ目の早稲田ボールのスクラム。自陣中盤の左中間あたりのこのスクラムでは、こんどは帝京1番がアウトステップ気味に出てきた。早稲田3番の垣永がねじ込められ、右回りに崩されるカタチになった。またも球出しが乱れ、相手SHにボールを奪われた。

3つめのスクラムは前半10分。自陣中盤の早稲田ボール。早稲田が対抗しようと組みこんだところ、1番の大瀧の足が滑り、スリップダウンのコラプシングの反則をとられた。このあと自陣ゴール前のタッチに蹴られ、ラインアウトからのFWラッシュでトライを奪われる羽目になった。

相手との駆け引きもあるが、レフリーとのコミュニケーションも悪かった。フッカーの須藤拓輝は「最初、レフリーのマネジメントにうまく対応できなかった」と言う。

「相手に(スクラムで)プレッシャーを受けている気はしなかったんですけど、うまく回されました。押す方向を、右、左と切り替えてきた。正直、不本意なペナルティーもありました」

自信を持っていたスクラムで苦しみ、なかなか敵陣に入ることができなかった。それでも対応し、徐々に優位に立つようになった。ただ、この日のスクラムは、ぜんぶで8本にとどまった。

後藤禎和監督は「もっと、もっと、組みたかったなという気がします」と振り返った。

さらに接点のブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)である。フィジカルで圧倒する帝京大のパワーにやられ、どうしても差し込まれてしまう。凄まじいプレッシャーにミスやターンオーバーも許した。

5点差に追い上げたあとの後半30分。パスミスから逆襲され、ゴール前の怒涛の波状攻撃から、相手フッカーにトライを奪われた。痛かった。チカラ負けである。

ブレイクダウンからの圧力でミスも犯し、エースFB藤田慶和もスペースを与えてもらえなかった。むしろ攻撃機会が少ない中で、よくぞ5トライも獲ったと思う。

もっとも、点の取り合いでは帝京大には勝てない。後半の序盤、ブレイクダウンのターンオーバーなどから、3トライを献上したことが悔やまれる。1年生SO松田力也にあれほど走られるとは。

「後半開始から20分間の集中力で、帝京大が上回ったということです」と、後藤監督は悔やんだ。

「ブレイクダウンで、想像以上にプレッシャーを受けて…。そこにつけ込まれて失点を重ねてしまいました」

早稲田は1年間、よく鍛練を積んだ。規律もあった。でも、帝京大を倒すまでにはいたらなかった。5連覇を許してしまった。

より大事なことは、この敗戦をどう来季に生かすか、ということだろう。「やっぱりからだが強かった」と、3年生のフランカー布巻峻介は漏らした。

「イチバンは、そこに差を感じました。でも、そこで戦うというよりは、僕らはそういうことをさせないことにフォーカスした方がいいと思います。もちろんからだ作りはしますが、ひとり一人の意識改革が大事だと思います。もっと進化させていかないといけない部分があると思います」

この日、早稲田は先発8人が3年生以下だった。来季も帝京大はすこぶる強い。来季への戦いは、もう始まる。意識改革とはつまり、365日、どんな1日を過ごしていくのか。環境改善を含め、もっと厳しく、もっと高いレベルで、どうチーム全体で工夫と努力を継続させていくのか。そういうことだろう。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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