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もう1つの世界陸上も始まったゾ!

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

20日、バルセロナで世界水泳選手権が開幕した。8月、モスクワでは世界陸上選手権が開かれる。大会を中継するテレビ局を軸にメディアもその話題でにぎわっている。では、同じく20日に競技が始まった「もう1つの世界陸上」、障害者スポーツの陸上世界選手権はご存じだろうか。

じつは筆者も知らなかった。この日の全国紙の朝刊には1字も触れられていなかった。だが同業のフリーライターの星野恭子さんから教えてもらったのだった。コトバがアツい。

「健常者と比べて記録は少し落ちるかもしれませんけれど、競技レベルはかなり上がっています。百聞は一見にしかず、です。さまざまな困難を乗り越え、自身の肉体の限界に挑戦する姿を是非、見てください」

国際パラリンピック委員会(IPC)が主催する「2013陸上世界選手権」はフランスのリヨンで開幕した。1994年の第一回大会(ベルリン)から、今回は6度目の開催となる。約100の国と地域から、約1300人の選手が参加する。日本からも34選手が参加しているのである。

1988年のソウル大会からオリンピックとパラリンピックは同一都市開催が正式に始まり、夏は2008年北京大会から、五輪組織委が一括してパラ運営も行うようになった。パラリンピックのメディア露出度も知名度もぐっと上がった。

昨年のロンドン・パラリンピックではどの競技場もほぼ満杯の盛り上がりを見せ、大会後のパレードも英国は五輪代表とパラリンピック代表が一緒に行進した。パラリンピックはようやく障害者のリハビリの延長から、より競技性の高いスポーツとして認知されてきたと思う。

もっとも、メディアはパラリンピック以外の障害者イベントにはまだ、冷たい。「残念です」と、星野さんも漏らす。「たしかに障害者スポーツのメディアの扱いは増えてきました。だけど、パラリンピックとそれ以外の大会の扱いの差は激しいですね」

ロンドン・パラリンピックのスローガンが『スーパー・ヒューマンに会いにいこう』だった。星野さんが言う通り、百聞は一見にしかず、である。実際、パラリンピック競技をみれば、超人技にみえた。障害の部分を補う体力、技術、そして意志…。

ふだんの努力はいかばかりか。結果はもちろん大事だが、障害者スポーツの場合、そのプロセスには見る者の心をゆさぶる何かがある。障害の存在など、いつのまにか、忘れさせてしまう迫力がある。

パラリンピックの父、英国のルードウィッヒ・グッドマン博士はこう、言った。「失ったものを数えるな、残されたものを最大限に生かせ」と。IPCの世界陸上をみれば、「生きる力」「前に進む力」を感じるのである。

ついでにいえば、星野さんは『代々木公園・伴走伴歩クラブ』(バンバンクラブ)に所属している。障害を持った人を伴走・伴歩して、一緒にランニング&ウォーキングを楽しむクラブだそうだ。星野さんはこの日朝も、ジョギングを楽しんだ。

百聞は一見にしかず。IPCの世界陸上は、インターネットでストリーミング中継もされている。<IPCサイト(http://www.Paralympic.org)からパラピンピックTVにアクセス可>

世界水泳もオモシロいけれど、時には世界陸上の「スーパー・ヒューマン」のチャレンジものぞいてみよう。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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