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難解なIOC理事会の投票行動

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

今更ながら、国際オリンピック委員会(IOC)理事会の投票方式、投票行動がよくわからない。摩訶不思議な展開で、野球・ソフトボールが「逆転勝ち」し、五輪競技追加の最終候補に残ったのである。

絞り込み方法は理事会で14票(ロゲ会長は投票せず)の内8票を獲得した競技が正式決定となり、8票に届かない場合は最低得票の競技を外して再投票を行うという手順で8票を超える競技が出るまで何度も行われる。

1ラウンドの最初の投票。レスリングが過半数の8票でいきなり最終候補入りした。注目すべきは、野球・ソフトとローラースポーツ、ウエークボードの3競技が0票だったということである。

1位抜けしたレスリングを外し、7競技で2ラウンド目の投票に移った。空手がトップの5票。武術4票、スカッシュ2票。野球・ソフトとスポーツ・クライミングは1票。ローラースポーツ、ウエークボードが0票となり、0票の両競技を外した5競技で3度目の投票を実施。空手、武術がいずれも4票、野球・ソフトは3票。スカッシュ2票。スポーツ・クライミングが1票となった。

空手、武術、野球・ソフト、スカッシュの4競技で4度目の投票を実施し、空手と武術が4票ずつ、野球・ソフトとスカッシュも3票ずつとったため、野球・ソフトとスカッシュのプレーオフが行われ、野球・ソフト(8票)がスカッシュ(6票)を上回った。

ここで野球・ソフト、空手、武術の3競技による投票に移り、野球・ソフトが6票、空手、武術が4票ずつ。空手と武術のプレーオフが行われ、空手9票、武術5票となった。

そこで野球・ソフトと空手による決戦投票が行われ、過半数の9票を獲得した野球・ソフトが、5票の空手を破り、最終候補入りしたのである。

改めてレスリングと野球・ソフト以外の6競技で3ラウンド目を実施し、結局はスカッシュが3つ目の最終候補に滑り込んだ。3ラウンドでの不思議は、途中で空手が5票から2票に落ちたことである。投票過程の票数が互いにわからない「秘密投票」のため、場の雰囲気で、こういった説明不能の事態が起こる。

ちょっとわかりにくいシステムながら、ポイントは空手と武術の得票数がほとんど変わらなかったこと(武術の鉄板ぶりは特筆に値する)、対照的に野球・ソフトの得票数は増えていったことである。

なぜか。もちろん投票前のプレゼンで野球・ ソフトの訴えがよかったこともあろう。IOCの指導にそって、新しい総括団体をつくり、時間短縮のため7回制に変える試合変更もアピールした。五輪復活への熱意も伝わった。

ただ思うに、IOC理事会のバランス感覚が働いたのではないか。まずレスリングの格闘技系が最終競技入りしたため、同じ格闘系より、球技に票が流れることになった。

これは9月のIOC総会で実施される会長選挙と無関係ではあるまい。IOC理事会の中に、会長に立候補している人がトーマス・バッハ副会長(ドイツ)やセルゲイ・ブブカ理事(ウクライナ)ら4人もいる。ならば、総会に出るIOC委員の特定の競技団体グループに反感を抱かれたくないとの心理が働く。

だから、競技団体に猛反発を食らったレスリングをまず残し、バランスよく、球技系の野球・ソフトに票が流れたのではないか。

何はともあれ、IOC理事会の一貫性のなさ、不透明さには毎度、頭が痛くなる。もっと明確な基準を設け、わかりやすく物事を運んではくれまいか。

【「スポーツ屋台村」より】

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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