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移籍SOが感じた王者の強さとは

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

強い。さらに強くなっている。サントリー・サンゴリアスは間違いなく、進化している。たぶん勝つためのカルチャー(文化)がクラブにあるからだろう。福岡サニックスからの移籍1年目、日本代表でもある指令塔、SOの小野晃征はこう、言った。

「サントリーの強さは全員の意識の高さです。ぶれない。試合ジャージを着たい意識、勝ちたい意識、チャンピオンになりたい意識がすごく高いと思います」

ラグビーの日本選手権決勝(東京・国立競技場)。試合前のウォーミングアップが終わる際、小野は「ウォ~」と大声を上げた。両手で自分のほおをバシッバシッとたたいた。サントリーにとっては3年連続の決勝でも、小野にとっては初めてのファイナルである。気持ちは昂っていた。

でも試合が始まれば、冷静になることができた。ただサントリーのラグビーをすればいい。「アグレッシブ・アタッキングラグビー」。攻め続けるのである。そう思った。

勝負のポイントは、後半の立ち上がりだった。シンビン(反則による一時的退場)で一人少ないサントリーが球を保持しながら、相手ゴール前に迫る。相手ペナルティーのアドバンテージを確認した後、小野が判断よく、相手ライン裏のインゴールにゴロキックを蹴り込んだ。これをCTB平浩二が押さえた。

このトライは大きかった。サントリーは常にスペースに誰かが走り込んでいく。ディシプリン(規律)と確立されたアタックシェープ(陣形)。こうやってトライを獲るんだという意識統一がしっかりしているのだ。

「サントリーは誰が試合に出ても、プレーは変わらない。走り込むシェープも、ディフェンスシェープも。一人ひとりの役割がすごく、明確になっている。シーズンを通しても、チームのパフォーマンスがぶれない。それがサントリーの強みです」

だから史上初の公式戦17戦全勝による2年連続の2冠を実現できたのだろう。この1年、ハードワークを積み重ねた結果、一人ひとりがレベルアップした。フィットネスもストレングスもゲームの理解度も。だから、チームとして成熟し、パワーアップした。

試合後、大久保直弥監督も小野も、試合前日のノンメンバーの快挙を口にした。試合に出場しない約20人中11人が、練習の筋力トレーニングで自己ベストの数値を記録した。いかにディシプリンと目的意識が高いか、コンディショニングがうまいかの証左である。

小野は言った。

「シーズン最後の日にそういうパフォーマンスを出せるのは素晴らしい。選手の意識も高いけれど、チームのマネジメントのコントロールもすごいと思います」

チャンピオンチームは日本ラグビーをリードする使命を負う。王者の指令塔なら、日本代表としても活躍してほしい。

ニュージーランド育ちの25歳。福岡サニックスは「日本ラグビー界を担うにふさわしい選手にステップアップさせるため」、王者サントリーへの移籍を後押しした。昨秋の日本代表の欧州遠征でも活躍し、順調に成長しているようだ。

日本代表としては。

「ジャパンは去年、世界ランクのトップ10に入ろうと努力し、(欧州遠征で)2勝した。ことしは、去年のパフォーマンスよりレベルアップしていきたいと思います」

チャレンジ続きのタフなシーズンがやっと終わる。小野は笑顔に安ど感を漂わせる。

「まずはいいオフを過ごしたい」

【「スポーツ屋台村」(五輪&ラグビー)より】

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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