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東京五輪招致。猪瀬知事誕生の影響は?

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

衆院選で自民党が圧勝した日、東京都知事選では前副知事の猪瀬直樹氏が史上最多の得票数で勝利を収めた。この結果が、2020年東京五輪パラリンピック招致にどう影響を与えるのか。

猪瀬新知事は、石原慎太郎前知事のもと、東京五輪招致を推し進めてきた。選挙戦の公約でも「石原都政の継承」「東京五輪の推進」を掲げていた。既定路線とはいえ、同招致委サイドにとっては前進ではある。なぜかといえば、予想以上の票数だったのだから、東京五輪招致も都民の信任を得たと判断するからだ。

もちろん、候補者で東京五輪招致反対だったのは宇都宮けんじ氏だけだった。主要候補のなかでは招致反対の人はいなかったのだから、選挙結果をそのまま「五輪招致大賛成」に直結することはできないが。

猪瀬新知事は就任後、「絶対にオリンピックをとりにいく」と断言している。五輪招致の旗振り役となる猪瀬氏には熱意があるようにみえる。先のロンドン五輪では、石原氏は健康状態を理由に現地視察を取りやめたが、猪瀬氏はロンドンに入り、選手村や活動拠点のジャパンハウスを訪れ、日本選手団を激励した。国際スポーツ界とのネットワークづくりにも務めたようだ。

じつは昨年、東京が2020年五輪再挑戦を決める際、ラジオで猪瀬氏と東京招致について討論させてもらった。わたしはラジオ局のスタジオに入り、猪瀬氏は電話で出演した。こまかい内容は忘れたが、猪瀬氏は東京の都市としての魅力と五輪招致の意義を熱っぽく話していた。被災地の復興にもひと役買うのだと強調していた。

つまりは、東京五輪招致にかける姿勢は一貫している。はっきりいって、東京招致が成功すれば都知事の大きな功績となる。人間だもの、猪瀬氏はさらに東京五輪招致に力を入れることになるだろう。

石原氏と比べた場合、猪瀬氏はアンチ派が少なくなるだろう。タカ派の石原アレルギーは結構、いた。発想力、論理、行動力も負けまい。だが石原氏ほどの強烈な個性、リーダーシップは感じられない。発言のインパクトでは劣る。東京五輪招致を考える時、海外メディアの露出度は落ちるだろう。いわゆる「発信力」。海外メディア対策が課題となる。

五輪招致成功に向けての課題は、国内が五輪開催支持率アップで、海外は国際オリンピック委員会(IOC)委員の取り込みである。支持率アップのためには、まずは都議会、都庁職員をホンキにさせることが大事だろう。その上で都民の招致機運をどう高めていくのかがカギを握る。ロンドン五輪での日本勢の活躍で五輪への関心は高まった。

これをどう招致機運に結び付けるのか。五輪メダリストをひっぱり出してのイベントが目白押しではある。はっきり言って、メダリスト乱用には反対である。競技者は競技に専念させる。練習は邪魔しない。握手会、トークショーなどいらない。ただ競技の露出、ひたむきな姿をみせる工夫をすればいい。

今後のポイントは、年明けに秘密裏に実施されるIOCの支持率調査と、3月のIOC評価委員会による東京の現地調査となる。IOC評価委員のメンバーはもう、決まっている。どんな競技団体が母体か、親日派かどうか、好き嫌いもリサーチできるだろう。

年明けから、海外での招致活動が解禁される。そこで猪瀬氏がどう陣頭指揮をとり、どう東京をアピールしていくのか。来年の序盤の3カ月が勝負どころとなる。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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