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新人賞受賞者・藤本渚五段、新年度1局目で名人挑戦者・豊島将之九段に勝利! 4月2日、王位リーグ

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 4月2日。大阪・関西将棋会館において伊藤園お~いお茶杯第65期王位戦・挑戦者決定リーグ紅組▲豊島将之九段(33歳)-△藤本渚五段(18歳)戦がおこなわれました。

 藤井聡太王位への挑戦権を争う、リーグ中盤の重要な一戦。10時に始まった対局は19時6分に終わり、結果は100手で藤本五段の勝ちとなりました。

 リーグ成績はこれで藤本2勝1敗、豊島1勝2敗に。藤本五段は格上のトップクラスを降す、大きな勝利をあげました。

名人挑戦者VS.新人賞受賞者

 豊島九段は2023年度順位戦A級において7勝2敗とトップの成績をあげ、藤井名人への挑戦権を獲得しました。これから始まる七番勝負で名人位を争います。

 藤本渚五段は加古川青流戦で優勝。新人王戦で準優勝。順位戦でC級2組からC級1組に昇級するなど、フルシーズン参戦1年目にして、大きな実績をあげました。

 2023年度の成績は51勝9敗(勝率0.850)という驚異的なものでした。

 勝数51は伊藤匠七段と並んで1位。対局数は伊藤七段に次いで2位。勝率も藤井八冠に次いで2位ながら、歴代4位という将棋史上に残るハイアベレージでした。

 藤本五段はこれらの活躍を評価され、将棋大賞の新人賞を受賞しています。

 名人挑戦者と新人賞受賞者。将棋界の新年度にふさわしい好カードといえるでしょう。

藤本五段、終盤で競り勝つ

 両者は本局が初手合となります。

 豊島九段先手で、戦型は定跡形をはずれた相居飛車の立ち上がり。豊島九段が手早く攻めの銀を繰り出すと、藤本五段は受けの金を中段に繰り出し、序盤早々から乱戦となりました。

 飛車交換のあと、両者ともに中段に飛車を打ち合い、相手陣の駒を取りながら成り込んで、一気に終盤の形状に。激しくもバランスが取れたまま、最終盤の寄せ合いに入ります。

 藤本玉は初期位置のままずっと動かず、終局まで居玉のままでした。対して豊島玉は下段から追われ、中段へと逃げていきます。

 80手目。藤本五段は豊島陣に桂を成り込みます。持ち時間4時間のうち、残りは豊島2分、藤本1時間6分。勝敗不明の難所で、残り時間の差が明暗を分けることになったのかもしれません。

 豊島九段は1分を使って、あとは一手60秒未満で指す一分将棋に入りました。そして四段目から桂を打って藤本玉に迫ります。結果的にはこの手が疑問だったか。桂を打つのではあれば、代わりに三段目から打つ方がまさったようです。

 藤本五段は王手をかけながら金をはずし、自玉を安全にしながら相手玉に迫っていきます。

 93手目。秒読みの中、豊島九段は金を打って藤本玉に詰めろをかけます。対して藤本五段は12分考え、自陣の金を立ちます。自玉の逃げ道を開きながら相手玉に迫る攻防の好手。以下は藤本五段の一手勝ちがはっきりとしました。

 100手目。藤本五段は龍で相手の銀を取ります。豊島玉が受けなしなのに対して、藤本玉は詰みがありません。豊島九段はここで投了。19時6分、藤本五段の勝ちとなりました。

 王位リーグは、紅組は佐々木大地七段、斎藤慎太郎八段、そして藤本五段の3者が2勝1敗で並びました。

 白組は木村一基九段が2勝0敗でトップ。木村九段は両リーグを通じて、唯一の無敗者です。以下は羽生善治九段、渡辺明九段が2勝1敗で続いています。

 藤井王位への挑戦権を獲得するのは、はたして誰でしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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