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藤井聡太NHK杯選手権者、2年連続で決勝進出! 名誉NHK杯・羽生善治九段とのゴールデンカードを制す

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 3月10日。NHK杯準決勝▲羽生善治九段-△藤井聡太NHK杯選手権者(八冠)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページで公開されています。

 結果は92手で藤井NHK杯の勝ち。2年連続で決勝に進み、2連覇まであと1勝としました。

 過去優勝11回で名誉NHK杯選手権者の資格を持つ羽生九段。今期はベスト4で敗退となりました。

両者妥協なしの激戦

 両者は過去に16回対戦し、藤井13勝、羽生3勝という成績が残されています。本局が始まる前、両者は次のように語っていました。

藤井「NHK杯では羽生九段との対戦は初めてなので非常に楽しみです。大きな一番ですが、あまり緊張せずに決断よく指していきたいと思います」

羽生「藤井さんとはNHK杯では、初めての対戦というところで非常に楽しみにしております。積極的に面白い将棋を指せるように全力を尽くしたいというふうに考えています」

 まず注目されたのは、オールラウンダーの羽生九段が、どのような作戦を採用するのか。解説の佐藤天彦九段は相掛かりを予想しました。

 両者一礼をして、対局開始。羽生九段は初手、角筋を開きます。予想が1手目ではずれることになった佐藤九段は、あとで苦笑していました。

 羽生九段は飛車先の歩を保留した角換わりを志向する形。対して藤井八冠は角筋を止めて、現代調の雁木に組みます。そこで羽生九段が右四間飛車にしたのが用意の作戦でした。

羽生「この出だしになれば、そうですね、これやってみようかなと思っていました」

 34手目。藤井NHK杯は端に角を出てゆさぶりをかけます。

藤井「序盤は本当に、いろいろな展開がありうるかなと思っていました。こちらも玉が薄い形なので、そこに注意して指さなければいけない展開になったかなというふうに思っていました」

 細かなやり取りを経て、41手目、羽生九段が4筋から仕掛けます。以後は盤面全体へと戦いが広がりました。

 56手目。藤井NHK杯は銀取りに5筋の歩を突き出します。攻めを呼び込むおそれもあるだけに、怖いところです。

藤井「本当はもっと攻め合いにせずに、受けに回るような感じで指さなければいけないような気はしたんですけれど。そういった具体的な手順がわからなくて。本譜は攻め合いにいったんですけど、あまり自信が持てない展開かなと思っていました。△5五歩と突いてからの攻め合いの展開は、こちらは銀を取ってもまだ先手玉が遠い形なので。苦しくなる順があってもおかしくないかなというふうに思っていました」

 じっとしていられない羽生九段は中段に桂を跳ね出し、一気に激しい進行になりました。

羽生「ちょっとどうなってるかよくわからなかったんですけど。こちらもいくしかない形になったのかな、というところで。うーん、そうですね。ちょっと終始読みきれなかったですね」

藤井NHK杯、正確に読み切る

 激しいながらもバランスが取れ、形勢互角で迎えた終盤の75手目。羽生九段は藤井陣に金取りで角を打ち込みます。ここでコンピュータ将棋ソフト(AI)が示す評価値は一気に藤井NHK杯に傾きます。

羽生「中盤、終盤の細かいところで、なにかミスがあったような気がします」

 終局直後、羽生九段はそう語っていました。

 藤井NHK杯は飛車を取らせている間に、羽生玉を小駒だけで一気に受けなしに追い込みます。

 しかし本当にそれで勝ちなのか? もし少しでも読み抜けがあれば、逆に居玉のままで薄い藤井玉は一気に詰まされてしまいます。

 早指しで時間がない中でも、藤井NHK杯の読みにスキはありませんでした。羽生九段からの大駒4枚の攻めをきれいにかわして、藤井玉は詰みません。

 92手目。藤井NHK杯が玉をかわして逃げたところで羽生九段が投了。大一番に幕がおろされました。

 両者の通算対戦成績は藤井14勝、羽生3勝となりました。

 藤井NHK杯は2年連続で、佐々木勇気八段と決勝戦を戦います。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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