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藤井聡太叡王に挑戦するのは誰か? 永瀬拓矢九段、ライバル・佐々木勇気八段を下して本戦ベスト8進出

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 1月25日。東京・将棋会館において第9期叡王戦本戦トーナメント1回戦▲佐々木勇気八段(29歳)-△永瀬拓矢九段(31歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は16時48分に終局。結果は116手で永瀬九段の勝ちとなりました。

 永瀬九段はこれでベスト8に進出。藤井聡太叡王への挑戦権獲得まであと3勝としました。本戦2回戦(準々決勝)で佐藤天彦九段と対戦します。

近年の叡王戦

 永瀬九段は2019年、高見泰地叡王(現七段)に挑戦。4連勝ストレートで七番勝負を制し、叡王位に就きました。

 翌2020年、永瀬叡王は豊島将之竜王(現九段)の挑戦を受け、3勝4敗2持将棋1千日手という歴史的死闘の末に、叡王位を失っています。

 第6期から、叡王戦は現在の方式に移行。2021年の五番勝負では藤井聡太挑戦者が3勝2敗で豊島叡王を下し、三冠目となるタイトルを獲得しています。

 以後、藤井叡王は2022年に出口若武六段を3勝0敗(1千日手)、2023年に菅井竜也八段を3勝1敗(2千日手)でしりぞけ、現在叡王位3連覇中。通算5期で与えられる「永世叡王」の資格までもっとも近い位置にいます。

ライバル同士の熱い戦い

 永瀬九段は昨年、挑戦者決定戦で菅井竜也八段に敗れました。

 永瀬九段は今期はシードでの本戦出場となりました。

 佐々木八段は段位別予選で中村太地八段、神谷広志八段、稲葉陽八段に勝って本戦に進んでいます。

 佐々木八段は常に好成績を収めながらも、まだタイトル挑戦の経験がありません。そろそろと期待するファンは多いでしょうし、藤井八冠との番勝負ともなれば、大変に盛り上がるでしょう。2017年、藤井四段の30連勝目を許さなかったのは、佐々木五段でした。

 小学生の頃から張り合う仲であった永瀬九段と佐々木八段。両者が棋士になってからも熱い戦いが繰り広げられてきました。棋士になってからの実績では永瀬九段が先行しています。しかし永瀬九段はいまでも佐々木八段のことを「天才」と呼んではばかりません。

 本局は佐々木八段先手で角換わりに進みそうな出だし。しかし佐々木八段の方から角筋を止め、両者ともに、いわゆる「雁木」の構えを組みました。

 佐々木八段が仕掛けて動くと、相居飛車らしく、盤上全体に戦いが広がります。

 形勢ほぼ互角のまま終盤に入ったあと、永瀬九段が龍の威力で寄せの網をしぼっていき、優位に立ちました。

 92手目。永瀬九段は龍を寄せて、詰めろと飛車取りを同時にかけます。コンピュータ将棋(AI)が示す評価値を見る限りでは、ここではほぼ互角に戻っていたようです。

 持ち時間3時間のうち、残りは佐々木4分、永瀬21分。佐々木七段は玉の右足の地点にすぐに銀を打ち、詰めろを防ぎました。これも実戦の呼吸なのでしょう。しかし残念ながら、敗着になったか。代わりに玉の横に角を打てば難しかったようです。

 永瀬九段は佐々木玉の周りを攻めたあと、飛車を取って決めにいきます。佐々木八段も永瀬玉に迫りますが、詰めるまでには至りません。

 116手目。永瀬九段はタダで取られるところに、王手で角を打ちます。これが逃げ道をふさぐ、鮮やかな決め手。佐々木八段が投了して、熱戦に幕がおろされました。

続くライバル同士の戦い

 両者の対戦成績はこれで、永瀬6勝、佐々木2勝となりました。

 両者は1月31日、A級順位戦8回戦でも対戦。こちらもまた、大きな一局です。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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