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豊島将之九段、今期A級でついに初黒星 広瀬章人九段、残留に向けて大きな白星 A級順位戦7回戦終了

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 1月19日。大阪・関西将棋会館において第82期A級順位戦7回戦▲豊島将之九段(33歳)-△広瀬章人九段(37歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は23時39分に終局。結果は106手で広瀬九段の勝ちとなりました。この結果、リーグ成績は広瀬2勝5敗、豊島6勝1敗。ここまで全勝だった豊島九段についに土がつきました。

 A級は7回戦まで終わりました。名人挑戦の可能性を残して8回戦を迎えるのは、豊島九段、菅井竜也八段、渡辺明九段、永瀬拓矢九段の4者です。

 広瀬九段は残留に向けて、大きな白星をあげました。

挑戦と残留を目指して

 将棋界の歳時記では、年明けから春にかけて、順位戦は終盤を迎えます。

 A級10期目の広瀬九段。昨年はプレーオフで藤井聡太現名人に敗れたものの、7勝2敗で1位タイの成績をあげています。

 しかし広瀬九段は今期ここまでは不振。現在は残留を目指す立場です。

 豊島九段は名人1期を含め、今期でA級7期目。今期も名人挑戦権争いの有力候補と見られ、ここまで6連勝と快調に飛ばしてきました。

 今節では菅井竜也八段は渡辺明九段に敗れて2敗に後退したため、もし豊島九段が無敗をキープすれば、さらに独走状態となります。

 2019年の竜王戦七番勝負など、大きな舞台で対局を重ねてきた広瀬九段と豊島九段。本局までの対戦成績は広瀬13勝、豊島14勝と拮抗しています。直近の12月15日に指された竜王戦1組2回戦では広瀬九段が勝っています。

広瀬九段、しのいで反撃

 本局は豊島九段先手で、戦型は相掛かりに。先手の豊島九段が攻撃陣である右側の桂を跳ねたのに対して、広瀬九段はバランスよく腰掛銀に構えます。序盤から互いに時間を使う、比較的スローペースの進行となりました。

 豊島九段は中段の飛車を5筋に回ったあと、中段に桂を跳ね出して攻めに出ました。対して広瀬九段は受け続けます。

 豊島九段は角桂と金の交換という駒損の代償に、59手目、その金を広瀬陣に打って飛車を召し上げました。コンピュータ将棋(AI)が示す評価値を見れば、このあたりまでは豊島九段がペースをつかんでいたようです。

 広瀬九段は飛車を見捨て、豊島陣に角を打ち込んで香を取り、その香を中央5筋に据えました。このあたりの広瀬九段の指し回しが見事だったか、形勢は次第に広瀬よしへと変わります。

 豊島九段の攻めが一息ついたあと、広瀬九段は豊島陣を着実に攻略していきます。玉から離れた場所に金を打ち、粘る豊島九段。しかし広瀬九段の寄せは正確で、逆転を許しません。

 106手目。広瀬九段は豊島玉の横に銀を打ちます。これで豊島玉は受けなし。23時39分、豊島九段が投了して対局が終わりました。

A級、いよいよ最終盤

 A級8回戦は1月31日、5局が一斉におこなわれます。対戦カードは以下の通りです。(▲=先手、△=後手)

▲豊島将之九段(6勝1敗)-△斎藤慎太郎八段(2勝5敗)

△菅井竜也八段(5勝2敗)-▲佐藤 天彦九段(3勝4敗)

△渡辺 明九段(4勝3敗)-▲中村 太地八段(3勝4敗)

△永瀬拓矢九段(4勝3敗)-▲佐々木勇気八段(3勝4敗)

△稲葉 陽八段(3勝4敗)-▲広瀬 章人八段(2勝5敗)

 全敗者だけでなく、全勝者もいなくなったA級順位戦。挑戦と残留をめぐって、今期はどのようなドラマが見られるでしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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