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伊藤匠七段、棋王戦挑決第2局で広瀬章人九段に勝利 藤井聡太棋王への挑戦権獲得!

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 12月26日。東京・将棋会館において第49期棋王戦コナミグループ杯・挑戦者決定二番勝負第2局▲伊藤匠七段(21歳)-△広瀬章人九段(36歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 10時に始まった対局は19時10分に終局。結果は105手で伊藤七段の勝ちとなりました。

 敗者復活戦から勝ち上がった伊藤七段は、挑決で2連勝。藤井聡太棋王への挑戦権を獲得しました。

 五番勝負第1局は富山県魚津市・新川文化ホールでおこなわれます。

21歳伊藤七段、再びタイトル戦番勝負へ

 挑決第2局は改めて振り駒がおこなわれます。その結果、「と」が4枚出て、伊藤七段先手に。伊藤七段は得意の相掛かりを志向し、広瀬九段も受けて立ちました。ただし広瀬九段は角筋を開かない方針です。

伊藤「相掛かりから手将棋模様の将棋で。構想力が問われる将棋だと思っていました」「中盤の構想の取り方が難しい将棋だったかなと思います」

 手将棋(てしょうぎ)とは、定跡形をはずれた将棋のこと。前例はなく、大局観が問われる展開です。互いに一手一手を慎重に考え、比較的スローペースの進行となりました。

 57手目。伊藤七段は盤面中央に角を飛び出します。以下、この角を基軸にして、中央での押し合いを制しました。さらに伊藤七段は2筋で飛車を使って動き、相手に銀を使わせます。

伊藤「(80手目)△2三銀打と打たせる格好になって、少し指しやすいかなとは思っていました」

 伊藤七段は飛車を中央5筋に転換し、金と刺し違え、いよいよ決めに行きます。攻めながら広瀬九段の飛車を取り、105手目、その飛車を広瀬陣一段目に打ち込みました。広瀬玉は受けが難しく、伊藤玉はすぐにはつかまらない形です。

 広瀬九段は一度席を立ちます。戻ってきたところで、記録係が尋ねました。

記録「広瀬先生、残り9分です。秒読みは何分からにいたしますか?」

広瀬「大丈夫です」

記録「はい」

 そして一呼吸をおいたあと、広瀬九段は投了を告げました。

広瀬「負けました」

伊藤「ありがとうございました」

 両者ともに深く一礼。大一番に幕が下ろされました。

 準決勝では広瀬九段に敗れた伊藤七段。敗者復活戦から巻き返し、挑決で広瀬九段に2連勝して、挑戦権を勝ち取りました。

伊藤「(今期トーナメントは)苦しい将棋がかなり多かったので、挑戦という結果になったのは、運がよかったかなと思います。やはり1敗して挑戦は厳しいかなと思っていたので。そうですね。挑戦できてよかったと思います」

 五番勝負で戦うのは八冠を占める最強の相手、藤井棋王。秋の竜王戦七番勝負では、伊藤七段は4連敗で敗れています。

伊藤「やはり一度タイトル戦を経験して、より、またタイトル戦に出たいという思いが強くなったので。今回挑戦できてうれしく思います」

 21歳同士の五番勝負。将棋界の新時代到来を感じさせるタイトル戦となりそうです。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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