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斎藤慎太郎八段(29)A級順位戦で2敗キープ 糸谷哲郎八段(34)依然1勝で苦しい星取りに

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 12月9日。大阪・関西将棋会館において第81期A級順位戦6回戦▲糸谷哲郎八段(34歳)-△斎藤慎太郎八段(29歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は23時24分に終局。結果は126手で斎藤八段の勝ちとなりました。

 斎藤八段は4勝2敗で名人挑戦権争いの2番手の位置をキープ。一方、糸谷八段は1勝5敗と苦しい星取りになりました。

斎藤八段、時間切迫の中で押し切る

 両者は昨年のA級最終局で対戦し、糸谷八段が勝利。斎藤八段のA級全勝を阻止しています。

 糸谷八段先手で、戦型は角換わりに。糸谷八段は攻めの銀を手早く前に進める、得意の早繰り銀を選びます。対して斎藤八段はバランスのよい腰掛銀で対抗しました。

 31手目。糸谷八段は早繰り銀を五段目に進め、相手の腰掛銀にぶつけていきました。

糸谷「銀ぶつけたのがちょっと工夫というか。早いかもしれないんですけど」

 対して斎藤八段は取って交換に応じるか。それとも引くか。

斎藤「ちょっと穏便に行こうかと」

 24分考えて、斎藤八段は引く方を選びました。糸谷八段の主張が通った形ですが、形勢に差が生じたわけではないようです。

 糸谷八段の動きに応じてきた斎藤八段。50手目、端9筋から突っかけて、本格的に反撃に出ました。ここで夕食休憩に入ります。

 夜戦に入ってしばらくは、形勢互角の時間が続きました。両者ともに自信が持てない感じで進行していたようです。

 70手目。斎藤八段は角を切って銀と刺し違え、桂を成り込みます。

糸谷「この局面がいいかわるいかは、全然わかんなかったんですけど」

 盤上の形勢は斎藤八段がわずかにペースをにぎっていたようですが、持ち時間6時間のうち、残りは糸谷2時間15分、斎藤37分で、時間は大きく差がついていました。まだどちらが勝ってもおかしくはない状況です。

 73手目、糸谷八段は玉を三段目に上がります。いかにも糸谷好みと思われる力強い受け。しかし糸谷八段は局後にこの手を悔やんでいました。

 76手目。斎藤八段は端9筋に銀を打ち、糸谷玉に迫ります。これが糸谷八段の見落としていた攻めで、形勢の針はかなり斎藤八段側に傾いたようです。

 しかしながら、なかなか土俵を割らないのが糸谷流。83手目、糸谷八段が自陣に打った角は攻防に利いています。

 88手目。斎藤八段は一度自陣に手を戻し、じっと金を寄って受けました。

斎藤「いやもう、わかんなかったです。金はちょっとまずいことになったかなと」

 糸谷八段がだいぶ差を詰めて、盤上にはかなりあやしいムードが漂っていました。また残り時間は糸谷1時間49分に対して、斎藤2分。深夜の順位戦、なにが起こっても不思議ではない状況です。

 しかしここで斎藤八段は踏みとどまりました。糸谷八段は少しずつ時間を使って手段を尽くしますが、少しずつ足りないと感じていたようです。

記録係「残り2分です。50秒・・・」

 記録係の秒読みの声を聞いて、126手目、斎藤八段は四段目の龍で王手をかけます。もう一枚の一段目の龍と上下はさみうちの形で、糸谷玉は寄っています。斎藤八段は正確な指し回しで、最終盤を時間消費なしで乗り切りました。

糸谷「まいりました」

 糸谷八段がすぐに投了を告げ、深夜にまで及ぶ戦いに終止符が打たれました。

 感想戦では、時折糸谷八段のぼやきが聞かれました。コンピュータ将棋ソフトが指摘した手ならば、どうだったのか。

「しかこれが最善だったら、人間には難しいんじゃないですか」

 糸谷八段がそう苦笑して、感想戦もお開きとなりました。

 両者は1週間後の12月16日、竜王戦2組1回戦でも当たります。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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