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史上最年少名人候補・藤井聡太竜王(20)A級4勝1敗! 正確無比な読みで広瀬章人八段(35)に勝利!

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 11月14日。東京・将棋会館において第81期A級順位戦5回戦▲藤井聡太竜王(20歳)-△広瀬章人八段(35歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は23時56分に終局。結果は93手で藤井竜王の勝ちとなりました。

 リーグ成績は藤井4勝1敗、広瀬3勝2敗。藤井竜王は豊島将之九段と並んで名人挑戦権争いのトップに立っています。

 藤井竜王の順位戦通算成績は驚異の53勝4敗(勝率0.930)です。

 史上最年少名人の期待がかかる藤井竜王。順位戦で圧倒的な成績をあげ続けたまま、名人挑戦権も獲得できるのでしょうか。

 藤井竜王の今年度公式戦成績は24勝6敗(勝率0.800)となりました。

藤井竜王、速攻を仕掛ける

 現在、竜王戦七番勝負を戦っている両者。広瀬八段は毎局ごとに、優れた工夫を見せています。

 本局は藤井竜王先手で、広瀬八段は角筋を止める形。左端9筋を突き合う細かな駆け引きのあと、広瀬八段は4三に銀を上がり、いわゆる「雁木」の形に組みました。

広瀬「一応、端歩の交換が入ってるのが唯一の主張というか。後手にとって得な変化が多いかなと思ったんですけど」

 藤井竜王は攻めの銀を足早に繰り出し、相手の角頭をねらって速攻を仕掛けました。飛車を一路左の3筋に寄せ「袖飛車」の形で揺さぶります。

 28手目、広瀬八段がねらわれている銀を引いたところで昼食休憩に入りました。

 午後の戦いに入って、31手目。藤井竜王は元の2筋に飛車を戻して、相手陣突破をねらいました。

広瀬「▲2八飛車からけっこうシンプルに来られる順は、なんかあまり考えてなくて。まあその場で考えることになったんですけど」

藤井「こちらから▲3四歩と打って▲3六飛車と浮くとか。手は広いのかなと思ったんですけど。一応、本譜は一番シンプルにやってはみたんですが。ただあまり、進んでみるとちょっと、それほどよくなかったかなと思いました」

 藤井竜王は角を交換します。対して38手目、広瀬八段は金と桂、どちらで角を取り返すか。

広瀬「最初は(△3三)同金のつもりだったんですけど。まあ△同桂もあるんじゃないかと考えて。まあ、結局そっちを選んだんですけど。ちょっと善悪はわからないです」

 39手目。藤井竜王は50分考えて、桂取りに歩を打ちました。

藤井「▲3四歩打つと、けっこう激しい展開になるので。うーん、まあそうですね。そういった展開のときに、どうかというのは考えていました」

 対して広瀬八段も長考に沈みます。

広瀬「△3三同桂で▲3四歩打たれて、ちょっと固まっているのでは、形勢がわるくなっててもおかしくはないかなとは思ってて。基本ずっと苦しめの設定になったなと思ってました」

 考えること1時間23分。広瀬八段は飛銀両取りに角を打ちます。藤井竜王は「両取り逃げるべからず」の格言通り、どちらの駒も逃げず、すぐに相手の桂を取りました。対して広瀬八段も長考中に読んでいた通り、ノータイムで銀を取ります。

広瀬「△5五角はもちろん、ほぼこの一手かなと思って。まあ、▲3三歩成のときに飛車取るか、銀取るか。まあ、飛車が取れないとおかしいとは思ったんですけど。ちょっとそうですね、先の変化で見通しが立たなかったので。ちょっと予定変更というか。まあちょっと苦しそうですけど、銀の方を取ってという、決断の時間です」

 広瀬八段とすればもちろん、できればより価値の高い飛車の方を取りたかったところ。しかしそれではうまくいかないと見て、相手玉に近い銀の方を取って迫りました。こちらの順の方であれば、馬(成角)が自陣にもよく利いています。

 43手目。藤井竜王は桂を打ちました。飛車取りとともに、広瀬玉の逃げ道をふさぐ一石二鳥の好手です。藤井竜王はもちろん、この手を指す以前から読んでいて、これでいけそうと判断しての着手でした。

藤井「▲7四桂をいったん打つことができるので。▲3三歩成△2八角成▲7四桂のような展開はけっこう攻めていけるんじゃないかとは思ってました」

 44手目、広瀬八段はじっと飛車を逃げて辛抱します。形勢は藤井竜王リードです。コンピュータ将棋ソフトが示す評価値だけを見れば、藤井竜王勝ちでほどなく終わってしまうのではないかと思われた方もいたかもしれません。しかし実戦の進行は、そう簡単にはいきません。本局の終局は順位戦らしく、深夜となりました。

広瀬八段、手段を尽くす

 藤井竜王が45手目を考慮中、東京では地震が起こりました。盤面を映すABEMAの中継映像もしばらく揺れ続けるぐらいの大きさです。両対局者も揺れを感じてか、少し気にする仕草を見せました。しかし地震はほどなく収まって、対局は中断することなく続行。18時、夕食休憩に入りました。

 夜戦に入っての45手目。藤井竜王は55分を消費したあと、「と金」で金を取ります。駒割は金桂と銀の交換で藤井竜王が駒得するわかれとなりました。

藤井「もっと直線的に攻め合いにいく変化も考えたんですけど。ただ、あまり成算が持てなかったので。ちょっと本譜▲4四角が、ちょっとそうですね。利いているのかどうか、なんというか、微妙なところかなあと思ったんですけど。駒得なので面白く感じて、指せればと思いました」

 52手目。広瀬八段は王手で軽く歩を成り捨てます。これがさすがの好手。藤井玉を三段目の不安定な形にさせて、実戦的にはまだまだ勝負のアヤがありそうです。

藤井「こちらの玉が7七玉という不安定な形になって。自玉をどういうふうに安定させればいいのか、常に難しい将棋だったかなと思います」

 54手目。広瀬八段はじっと桂取りに歩を打ちます。

広瀬「とりあえず7四の桂馬を除去してがんばる形にしないといけないと思って。一応そういう感じにはなったかなと思ったんですけど。うーん、そうですね。取ったからといって、いいわけではないので。まあちょっと基本的には自信なかったです」

 さらに58手目。広瀬八段が銀をかわした手もまた、藤井竜王にとって意外だったようです。

藤井「△7三歩と△4二銀というのがちょっと、見えていなかったので。ちょっと、そうですね。あのあたり、どう指せばいいのかわからなかったです」

藤井竜王、正確無比な指し回しで逆転許さず

 59手目。藤井竜王はじっと歩を垂らします。こちらもさすがの最善手。そうして作られたと金が、広瀬玉を着実に追い詰めることになりました。

藤井「▲4三とから▲5三とと使える形になって。少し指せるかなとは思ったんですけど」

広瀬「(終盤は)チャンスはなかったと思います。▲3四歩垂らされたとき、正しい手順があったかどうかわかんないですけど。ちょっと本譜だと、と金が思いのほか厳しかったので。ちょっとそうですね。その数手が、もう少しましな順があったかもというところで」

 藤井竜王優勢の終盤で迎えた78手目。広瀬八段は藤井玉近くに歩を打って、いやみをつけます。

広瀬「△6六歩のところはまあ、はっきり足りないとは思ってました」

 ただし藤井竜王もそれほど自信があったわけではありませんでした。

藤井「△6六歩と打たれたときがちょっと、どういうふうに指すのがいいのか、わからなくて。最後までよくわかっていなかったです」

 持ち時間6時間のうち、残りは藤井1時間1分、広瀬52分。藤井竜王は29分考えて、じっと銀取りに歩を打ちます。広瀬八段も藤井玉に迫る形を得て、相手に少しのミスでもあれば逆転できそうな形を作りました。

 しかし藤井竜王は間違えません。相手と自分の玉の詰む、詰まないを正確に読んで指し進めていきます。

 93手目。藤井竜王は中段五段目に玉を逃げます。藤井玉は上部に逃げ道が開けていて、きわどく詰まない。対して広瀬玉は下段に追い詰められて、受けがありません。

 広瀬八段はここで13分を使いました。しかし攻防ともに手段はありません。王手を続けようと思えば続けられるところ、広瀬八段は潔く投了。大一番に幕がおろされました。

今期A級、折り返し地点通過

 A級1期目の藤井竜王。5戦を終えてここまで4勝1敗です。

藤井「少しずつ時間を使って、なんとかしっかり考えられるようになってきたところはあるかなと思うので。ここまでの5局をふまえてまた、後半戦で内容をよくしていけるようにがんばりたいと思います」「まだ折り返しなので(名人)挑戦を意識するという感じではないですけど。一局一局を大事にしてがんばりたいと思います」

 広瀬八段は3勝2敗となりました。

広瀬「今期は・・・。まあ、そうですね。うーん、まあ、なんというか。妥当な成績かなというところでもあるんですけど。そうですね、まあ、前半戦は、自分のいいところもわるいところも出ている将棋が多かったので。後半戦は少しでも星が伸ばせるようにやっていきたいと思います」

 藤井竜王と広瀬八段の通算対戦成績は、藤井9勝、広瀬2勝となりました。

 両者はこのあとも、竜王戦七番勝負の戦いが控えています。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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