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斎藤慎太郎八段(29)日本シリーズ、ベスト4進出! 177手の大熱戦を制して渡辺明名人(38)に勝利

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成・筆者)

 9月10日。熊本県益城町・グランメッセ熊本において第43回将棋日本シリーズ・JTプロ公式戦2回戦▲斎藤慎太郎八段(29歳)ー△渡辺明名人(38歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 15時43分に始まった対局は17時34分に終局。結果は177手で斎藤八段の勝ちとなりました。

 斎藤八段はベスト4に進出。準決勝で糸谷哲郎八段(33歳)と対戦します。

斎藤八段、二転三転の末に勝ちをつかむ

 公開でおこなわれる本棋戦。対局開始に先立ち、両対局者はファンの前で、互いの印象について次のように述べました。

渡辺「斎藤さんとはいろんなところでもう、対戦、重ねてきているんですけれども。今年のJT杯(1回戦、木村一基九段戦)でも非常にいい内容で勝たれてきたので。まあやはり、勢いがあるなと感じますね」

斎藤「(渡辺名人は)本当に私が修行時代からトップにおられる先生で。私が棋士になってからの対局では、なかなか力を出しきれない将棋も多いので、今日はよいところを見せられるように、はい、がんばりたいと思っております」

 抽選で選ばれたファンの男性が振り駒をした結果、「と」が3枚出て、斎藤八段先手と決まりました。

 戦型は角換わり腰掛銀。斎藤八段が4筋から動いたのに対して、渡辺名人は飛車を回って応じます。大きな戦いは起こらずに、また駒組へと戻りました。

 50手目。渡辺名人が囲いに入城していた玉を引いて間合いをはかったところで、解説の森内俊之九段が棋譜読み上げの小高佐季子女流初段に声をかけます。

森内「じゃあここですかね。すみません、次の手を封じ手にしますので、小高さん、よろしくお願いします」

小高「斎藤八段、次の手を封じてください」

 ここで本棋戦恒例の次の一手予想クイズ。斎藤八段が51手目を封じました。

 休憩が終わって封じ手開封。

小高「封じ手は▲6八金です」

 斎藤八段は玉から離れるモーションで金を寄りました。森内九段らが挙げた3つの候補手の中になく「その他」が正解です。

森内「そうでしたか。われわれ、やってしまいましたね(苦笑)。申し訳ありません、本当に」

 それだけ手が広くて予想が難しい局面だったのでしょう。

 渡辺名人は小考のあと、決断よく攻めていきます。斎藤八段は堂々と迎え撃ち、ついに本格的な戦いが始まりました。

 斎藤八段は馬を作り、71手目、相手陣二段目に歩を打って、飛車先を止めます。渡辺名人が飛車を逃げたのに対して、手が止まりました。ここは誤算があったか。斎藤八段は貴重な時間を使って考えます。何度かがくっとするような仕草を見せたあと、失敗したことを認めて反省。打ったばかりの歩を成り捨てました。

森内「ちょっと失敗しちゃったんでやり直したんですけど、ちょっとつらい手ですね。歩が1枚、めちゃめちゃ大きい局面なんで」

 斎藤八段は相手陣二段目ではなく、三段目に歩を打ち直しました。

斎藤「打った歩を成ってしまったんでどうしても歩が足りない将棋になって。自信はなかったんですけれど」

 終局後、斎藤八段はそう反省していました。

 渡辺名人が流れをつかみ、やがて優位に立ちます。

 両者ともに一手30秒未満で指す攻防が続いて101手目。苦境の斎藤八段は相手の攻めをくいとめるため、そっぽに香を打ちました。

森内「斎藤さん、すごい根性ですね。イメージ的にすごい、すっきりした将棋を指すイメージがあったんですけど。けっこうこの将棋ではなりふりかまわずという感じに思えるところもありますので」

 本局ではこのなりふりかまわぬ指し回しが、功を奏しました。斎藤玉は追われながら中段へと逃げ出し、形勢は混沌。二転三転する中、勝敗不明の最終盤へと入りました。

 斎藤玉は上下はさみうちで追い込まれながらも、きわどくしのぎます。渡辺玉は追われながら斎藤玉に接近。スリリングな秒読みの戦いが続く中、双方の攻防手が飛びかいました。

 161手目。斎藤八段は桂を打って相手玉に王手。この桂が自玉への詰めろをきわどく受けています。

 終局後はこのあたりが検討されました。渡辺玉は禁じ手の「打ち歩詰め」で詰みを逃れる順もあるなど、複雑な局面。そこを斎藤八段は正確に乗り切ります。

 171手目。斎藤八段は相手の玉と金が利いているところに銀を捨てました。金で取ったり渡辺玉が逃げたりすれば、斎藤玉の上部が開けて負けない態勢に。渡辺名人は玉を下がりながら銀を取ります。そして斎藤八段は上から攻防に利く金を打って、ついにはっきりしました。

 渡辺名人は斎藤玉に一度王手をかけます。斎藤玉に詰みはなく、ついに攻防手も尽きました。渡辺名人は頭を下げて、ここで投了。観戦席から大きな拍手が起こり、177手の大熱戦に幕が下ろされました。終局後、渡辺名人は熱を冷ますかのように、「爽節」と揮毫した扇子でしばらく仰いでいました。

森内「いやあ、すごい熱い将棋でしたね。二転三転というか。斎藤さんの方はかなりピンチの場面も多かったと思うんですけど、すごいがんばりだったですね」「本当にもう大熱戦で、まあいろんなことがあったと思うんですけど、すごい熱い将棋を見せていただきました。ありがとうございました」

 森内九段が検討を締めたあと、両対局者は観客席に向かって一礼。再び大きな拍手が起こっていました。

 渡辺名人と斎藤八段の通算対戦成績はこれで渡辺12勝、斎藤6勝となりました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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