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豊島将之挑戦者(32)後手番で鮮やかブレイク! 王座戦五番勝負第1局で永瀬拓矢王座(29)を破る

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 8月31日。東京都港区・グランドプリンスホテル新高輪において第70期王座戦五番勝負第1局▲永瀬拓矢王座(29)-△豊島将之挑戦者(32)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 9時に始まった対局は20時10分に終局。結果は110手で豊島挑戦者の勝ちとなりました。

 初の王座獲得に向けて、豊島挑戦者は幸先のよいスタートを切りました。

 第2局は9月13日、愛知県名古屋市・名古屋マリオットアソシアホテルでおこなわれます。

豊島挑戦者、複雑な終盤を乗り切る

 先に対局室に入ったのは永瀬王座。普段の対局と変わらず、タイトル戦でもスーツで通しています。続いて和服姿の豊島挑戦者が登場。両者ともに席について駒を並べます。

 本局で立会人を務めるのは、元王座・塚田泰明九段。記録係は広森航汰三段です。

 五番勝負開幕に先立っての振り駒。広森三段が5枚の歩を白布の上に放った結果、「歩」が4枚、立った駒が1枚で、永瀬王座の先手と決まりました。

塚田「はい、定刻9時になりました。それでは第70期王座戦五番勝負第1局を永瀬王座の先手番で開始してください。よろしくお願いします」

 塚田九段が声をかけて、両対局者は一礼。持ち時間各5時間の対局が始まりました。

 戦型は角換わり。互いに銀を腰掛ける前に、永瀬王座が桂跳ねから先攻しました。前例のある形ながら、両対局者ともに指し手が早く、研究の広さ、深さを推測させる進行となりました。

永瀬「きわどいというか、そういう将棋なのかな、とは思ってはいたんですけど。ただなんか、ちょっと手が狭い将棋にしてしまったのかもしれないです」

豊島「激しい展開になって、きわどい将棋なのかなって。そうですね。まあなんか、ずっとけっこうきわどい将棋だったのかもと。前例のある形なので、まあ、なんというか。難しい将棋というか。互角に近い将棋。後手なんでちょっと苦しいかもしれないですけど。まあでも、わりと互角に近い展開になって」

 永瀬王座は飛車を切ってどんどん攻めていきます。対して豊島挑戦者も攻め合いに出て、一気に終盤戦に入りました。

 66手目。豊島九段は46分考え、タダのところに銀を打って王手をかけます。

「終盤は駒の損得より速度」という格言通りの一手でした。

 対して永瀬王座は71手目、3六の歩頭に銀を出て捨て、血路を開きます。見応えのある終盤の攻防が続き、そこで夕食休憩に入りました。

豊島「夕食休憩のところでなんか、本譜の順みたいな感じで、けっこう先手の変化するところが難しいのかなと思ったんですけど。まあでも長い手順なんで、そんなになんか、はっきり確信が、まではいかないんですけど」

 豊島玉が3一に逃げたのに対して77手目。永瀬王座は残り時間をすべて使い切り、38分考えて金を取りました。

 ここは複雑きわまりない局面。しかし豊島挑戦者はしっかりと先まで読んでいました。飛車打ちの王手から、永瀬玉は中段を経て豊島陣にまで追われます。そこで上下はさみうちの形にな追い込まれ、受けがありません。

永瀬「激しい展開で、一応きわどいとは思ってはいたんですけど。そうですね、△3一玉と引かれたときに、なんか、候補手が難しい気がしたので。そこまで進むとダメになってるのかな、と思います。自然に攻めたつもりではいたので、どこが致命的にまずかったか、ちょっとすぐにはわからないですけど。そうですね、進めてみるとまずかったのかな、と思います」

 最後、豊島玉は詰まない形。永瀬王座は歩を打って王手をかけます。豊島玉は横に逃げる。永瀬王座は歩を成り捨てる。そのやり取りが2回あり、そこで永瀬王座は投了を告げました。きれいな棋譜を残す、というよりは、あくなき勝負への執念を見せた一幕だったかもしれません。

 両者の通算対戦成績はともに10勝ずつのイーブンに戻りました。永瀬王座は9月5日に誕生日を迎え、30歳になります。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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