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広瀬章人八段、藤井聡太竜王への挑戦権獲得! 挑決三番勝負で山崎隆之八段に2連勝

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 8月23日。東京・将棋会館において第35期竜王戦挑戦者決定三番勝負第2局▲広瀬章人八段(2組優勝、35歳)-△山崎隆之八段(1組4位、41歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は22時26分に終局。結果は141手で広瀬八段の勝ちとなりました。三番勝負は広瀬八段が2連勝で制し、藤井聡太竜王(20歳)への挑戦権を獲得しました。

 藤井竜王に広瀬八段が挑む七番勝負。第1局は10月7日・8日、東京都渋谷区・セルリアンタワー能楽堂でおこなわれます。

山崎八段、チャンスを活かせず

 三番勝負第1局は劇的な終盤を制して、広瀬八段が勝ちました。

 第1局では時間切迫に泣いた山崎八段。本局ではできるだけ時間を残す方針で臨みました。

 先後が替わって、本局は広瀬八段が先手。まずは独創的な山崎八段がどのような序盤戦術を見せるかが注目されました。

山崎「飛車を振れってひたすら言われて」

 立ち上がりでの駆け引きの中、「棋は対話なり」という言葉の通り、山崎八段は広瀬八段の心中を読んで誘いに乗り、四間飛車に振りました。山崎八段にとってみれば大変めずらしい選択です。対して広瀬八段は居飛車穴熊を目指しました。

広瀬「美濃とかもあるんでしょうけど、穴熊に組んで、そんなにマイナスにならないかなと」

山崎「そうですね。まあ、マイナスにする技術は、やっぱりないなあ、と」(苦笑)

 山崎八段は定跡形にはせず、独特の駒組を見せました。35手目、広瀬八段は6筋の歩を中央五段目にまで進めます。

山崎「ちょっと序盤少し誤算があってちょっと苦しくなったかな、と思ったんですけど」「ちょっと6五突かれちゃうのを、うっかりしまして」「突けないと思っていたので」

 序盤の細かいところですが、広瀬八段が少しポイントをあげ、模様がよくなりました。ただしそこから山崎八段は差をつけられずについていきます。

広瀬「作戦勝ちになりそうで、ちょっとどうやっていいか」

山崎「そうですね。ここはちょっと作戦負けになりそうだけど、一応いちばん、自分ではわかんない」

 局後の検討では、広瀬八段がもっとよくなりそうな順が検討されていました。

山崎「銀が泣いている・・・」

 山崎八段からはそんな言葉も聞かれました。本譜は山崎八段が相手の6筋の位に向かって反発。広瀬八段は先に銀を捨てて桂を取り返す順を選びますが、山崎八段にとっても希望が見える展開となってきました。

広瀬「序盤はまずまずかなと思ってたんですけど。ちょっと中盤の方針というか。少し見慣れない形だったので、駒組の仕方がわかんなくて。(48手目)△6五歩▲同銀と取る予定ではいたんですが、ちょっとなんかあまり・・・。進んでみるとあまり成算がなかったので。ちょっとそこから苦しくしてしまったような気がしていて」

 51手目。山崎八段は21分考えて、桂を成り捨てます。代わりに銀を打ち込む順など、他の順も考えられました。

山崎「銀打ってよければ、話は早いんですけど」

 山崎八段はその先の変化に自信が持てなかったようです。局後、このあたりはかなり進んだところまで検討されました。

山崎「2時間ぐらい考えて、っていう感じですけど。本当はこういうのを読まないといけないんでしょうけど」「時間を使わないようにと思ったら、こっち(本譜)の方を」

 広瀬八段は飛車を三段目に構える「モノレール飛車」。山崎八段は一段目の飛車を初期位置に近い7筋に移動し、相手の穴熊に照準を合わせます。このあとから見始めた観戦者は、最初は山崎八段の四間飛車から始まったと推測できなかったかもしれません。

 夜戦に入り、形勢ほぼ互角の状況が続いたあとで、広瀬八段がまずリードを奪います。75手目、広瀬八段は7筋に軽妙な歩を垂らします。一般的な感覚で見れば、山崎陣は「玉飛接近」の悪形。両方の駒を同時に狙えるとなれば、攻める側は効率よく攻められます。

 山崎八段は両膝を抱え「体育座り」の姿勢で盤上を見つめます。

「さすがの山崎八段もしのぐのが難しいか?」

 そう思わされたところからしのいでみせるのが山崎八段です。進んでみると山崎玉はピンチを脱して、評価値も逆転。山崎八段がリードを奪いました。

 そして今度は広瀬八段が差を離されないように手段を尽くします。

山崎「中終盤は、はっきりいいかなと思ってて。前回の反省をいかして一応、少し時間も残していたので。踏み込むか、手堅くいくかみたいな感じで、ちょっと中途半端な手が多かったですね」「優勢を意識してしまって。そうですね、チャレンジャー精神がちょっと。『ギリギリだったらいい』っていうぐらいの気持ちでずっとやらないといけなかったんですけど」

 やがて形勢は逆転。広瀬八段が再びリードを奪いました。

広瀬「途中ははっきりわるかったと思うんですけど。一応飛車を取って、少し勝ちやすい展開になったかなと思いました」

山崎「やってて、読みも入ってない手ばっかり指してたので。ちょっとちぐはぐになってしまって、そこからはちょっと自分の弱い部分がものすごく出てしまったので。そこはもう本当にもったいないというか」

 広瀬陣の穴熊はそう堅くはないものの、最後は玉の遠さが活きました。対して山崎陣は飛車を取られて打ち込まれると、そう粘りの効かない形です。

 最後は山崎八段が一手違いの形を作りました。広瀬八段は山崎玉を即詰みに討ち取り、今期竜王戦本戦も幕を閉じました。

 感想戦では、山崎八段が多くしゃべっていました。

山崎「いやちょっと、実力が出てしまいました」

 その言葉を最後として、感想戦も終了。両者の対戦成績はこれで山崎3勝、広瀬7勝となりました。

 かくして今期七番勝負は、藤井竜王に広瀬八段が挑戦します。

広瀬「まだ終わったばっかりで、まだ実感がないというか。ただやっぱり相手は強い相手なので、こちらががんばんないとシリーズは盛り上がんないと思うので。開幕までによりいっそう、コンディションなど上げていけるようにしたいと思います」

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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