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現役最年少棋士・伊藤匠五段(19)今年度勝率1位確定! 藤井聡太竜王(19)5年連続トップならず

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 3月30日。東京・将棋会館においてお~いお茶杯第63期王位戦・挑戦者決定リーグ紅組▲西尾明七段(42歳)-△伊藤匠五段(19歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は19時45分に終局。結果は128手で伊藤五段の勝ちとなりました。リーグ成績は伊藤五段2勝1敗、西尾七段0勝3敗。伊藤五段はリーグ優勝に望みをつなぎました。

 伊藤五段の今年度勝率は0.818(45勝10敗)となりました。

 藤井聡太竜王は勝率0.813(52勝12敗)。2017年度以来、5年連続で勝率8割台という偉業を達成しています。

 ただし勝率1位は5年連続ならず。1位の座は、同学年の現役最年少棋士に明け渡すことになりました。

 羽生善治現九段(50歳)と藤井竜王。デビュー以来4年連続勝率1位はタイ記録です。

伊藤五段、大器の証明

 10時、西尾七段先手で対局開始。矢倉模様で後手が速攻を含みとする現代調の立ち上がりとなりました。両者ともに慎重に間合いをはかり、息の長い序盤戦に。千日手を思わせる手順も見られたあと、西尾七段が動いて、夕方から本格的な戦いが始まりました。

 中盤、コンピュータ将棋が示す評価値上では、西尾七段がかなりリードした場面も見られました。しかし伊藤五段はそこから離されず、また五分に。白熱した終盤に入りました。

 最終盤、伊藤五段は銀を捨てて猛ラッシュに出ます。持ち時間4時間を使い切り、すでに一分将棋になっていた西尾七段。時間が切迫する中、受け間違えがあったようで、伊藤五段の攻めがきれいにつながりました。

 伊藤五段は8割を超える素晴らしい成績で、今年度勝率1位が確定しました。今期新人王戦で優勝し、順位戦ではC級1組昇級を果たした伊藤五段。もう一つ大きな勲章を得たことになります。

 これまで勝率ランキングは一般的に、のちに一流棋士へと成長する若手が上位を占めてきました。

 その中にあって、すでに五冠の立場であり、ほとんどトップクラスを相手にして勝率2位の成績を収めた藤井竜王もまた驚異的です。(もっとも藤井竜王自身は、記録をほとんど意識していないようですが)

「対戦相手を考えれば藤井竜王の方が優っている」

 そう考えられる方もおられるかもしれません。しかしそうしたことは抜きにして、タイトル戦番勝負も予選も同じ一局とし、客観的な数字だけを比較するのが記録部門の前提です。

 今年度の活躍をもとに選考される将棋大賞では、最優秀棋士賞は藤井竜王、新人賞は伊藤五段でほぼ決まりでしょう。

 ともかくも、伊藤五段が藤井竜王の5年連続勝率1位を阻止したのは、将棋界にとってビッグニュースです。あとでふりかえってみれば「これが新しい物語の序章だった」ということになるのかもしれません。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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