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熱き鬼軍曹・永瀬拓矢王座(29)冷徹な指し回しで朝日杯ベスト4! 藤井聡太竜王(19)初の2回戦敗退

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 1月16日。愛知県名古屋市・名古屋国際会議場において第15回朝日杯将棋オープン戦2回戦▲永瀬拓矢王座(29歳)-△藤井聡太竜王(19歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 14時に始まった対局は16時0分に終局。結果は109手で永瀬王座の勝ちとなりました。

 永瀬王座はこれでベスト4進出を決めました。

 藤井竜王は本棋戦の名古屋対局で初の敗北。初参加から優勝、優勝、ベスト4、優勝と抜群の実績を誇っていましたが、今期で初めてベスト4に届きませんでした。

 藤井竜王と永瀬王座の対戦成績は藤井7勝、永瀬3勝となりました。

 藤井竜王の今年度成績は47勝12敗(勝率0.797)となりました。

 年度途中では史上最高勝率の更新も期待された藤井竜王でしたが、現在は勝率8割を切っています。

永瀬王座、負けない指し回しで逆転許さず

 振り駒の結果、「と」が3枚出て、先手は永瀬王座と決まりました。

 飛車先を保留しての角換わり模様に対して、藤井竜王は角筋を止め、現代調の雁木に組みます。

 24手目。藤井竜王は7分考えて角を引きます。持ち時間40分の本棋戦では、熟慮に入るといえそうです。

藤井「通るかどうか、わからなかったです」

 相手からの攻めが見えているだけに、決断の一手。研究というよりは、その場で考えた手のようでした。

永瀬「想定していなかったので」

 という永瀬王座。しかしひるむことなく、前に出ます。序盤から一触即発の激しい変化を含んでの進行。角交換のあと、互いに自陣に角を打ち合うという、複雑にして高度な応酬が見られました。

 40手目。藤井竜王は相手の3筋の歩を突き、相手の攻撃陣にアクションをかけていきます。

藤井「勢いはよかったんですけど、ちょっと、切られて」

 41手目。永瀬王座は飛車を切り、角と刺し違えて攻めていきます。手順は激しい。しかしバランスの取れた形勢のうちに、終盤戦へと入りました。

 57手目、永瀬王座は龍取りに銀を打ちます。藤井竜王が龍を逃げるのに対して、さらにもう1枚、合わせて2枚の銀を投資。容易には負けない、いかにも永瀬流の指し回しが見られました。

 64手目。藤井竜王は40分の持ち時間を使い切って、あとは一手60秒未満で指す「一分将棋」に。永瀬玉の近くにいやみな歩を置いて、応手を待ちました。

 残り5分の永瀬王座。ここで時間を使い切って、両者一分将棋に。そして藤井陣の急所に桂を打って寄せ合いに出ました。勝敗不明のきわどい形勢です。

 対局場に秒読みの声が響く中、リードを奪ったのは永瀬王座でした。相手陣に侵入した馬(成角)と自陣中段に据えた角の威力で、相手玉を追い込んでいきます。

 藤井竜王は居玉を左辺中段に逃してしのぎ、手番を得て反撃に出ました。しかし永瀬王座は手堅く受けてスキを見せず、ついに勝勢へと持ち込みます。

 前期朝日杯。藤井現竜王は準決勝で渡辺明名人、決勝で三浦弘行九段を相手に絶体絶命のピンチに陥りながらも、そこを切り抜けて逆転勝ちを収めました。

 しかし本局では逆転の余地がなかなか生まれません。永瀬王座は焦ることなく、冷徹な指し回しを続けています。

 93手目。永瀬王座は銀を打って攻め続けます。

永瀬「▲5三銀までいけば龍が取れてるので」

 藤井竜王の攻防の龍を消して、盤石の態勢を築きました。

 藤井竜王の背が次第に丸くなり、何度か中空を見つめるようになります。そしてがくっと首が折れ、しばらくの間、目を閉じてうつむいていました。

 109手目。永瀬竜王は桂を打って王手をかけます。以下、藤井玉が受けなしに追い込まれるのに対して、永瀬玉は寄りません。藤井竜王が投了して、熱戦に幕が降ろされました。

 藤井竜王は本棋戦で初めてベスト4進出ならず。東京・有楽町マリオン朝日ホールでおこなわれる準決勝、決勝に姿を見せることはなくなりました。

藤井「残念ながら今日は負けてしまったんですけど、皆さまぜひ、有楽町にも来ていただければと思います」

 名古屋のファンを前に、藤井竜王はそうあいさつをしていました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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