Yahoo!ニュース

藤本渚五段(18)竜王戦6組優勝! 山下数毅三段(15)四段昇段・フリークラス編入の権利獲得はならず

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 5月21日。大阪・関西将棋会館において第37期竜王戦6組ランキング戦決勝▲山下数毅三段(15歳)-△藤本渚五段(18歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は19時29分に終局。結果は132手で藤本五段の勝ちとなりました。

 藤本五段は6組で優勝。本戦進出を果たしました。

 奨励会員として史上初めて6組決勝に進んだ山下三段。6組優勝での四段昇段(フリークラス編入)の権利獲得はなりませんでした。

十代同士の大一番

 本局はいろいろな意味で、大変注目される一番でした。もし山下三段が勝てば、竜王戦6組優勝から棋士昇格の権利を得る初めてのケースとなります。

藤本「やっぱり自分が最後の相手ということもあるので。すごく気合が入りましたね。山下さんとは練習対局をさせてもらっていますし。相手も自分じゃなければたぶん、山下くんを応援してたと思いますけれど(笑)。まあ、自分なので。やっぱりがんばろうと思いましたね」

 藤本五段と山下三段は普段からVS(ブイエス、1対1形式の練習対局)をする間柄だそうです。

山下「普段からVSで教えてもらってる藤本先生と、この竜王戦6組の決勝という場で当たれたことをうれしく思いました」

藤本「これまで何十局と、練習をさせてもらって。特に終盤力が非常に鋭いという印象があって。自分より上だと思っていましたし。その終盤力をまともにくらわないようにはしようかなと思っていました」「(練習対局を始めたのは)1年も経ってないんじゃないかと思います。だいたい週に1回ぐらいのペースでお願いしています。もちろん、勝ったり負けたりではあるんですけど。自分が負けた将棋とかで、全然、かなり時間を余されて、一気に終盤で寄せられてしまうとか。全然勝負にならない将棋とかもあったので。そういう展開になると非常にきびしいかなと思ったので。本局はそういうのはなるべく避けようと思っていました」

 振り駒の結果、先手は山下三段。後手の藤本五段は得意の新型雁木に組みました。対して山下三段は速攻に出ます。

藤本「序盤の対応としてはまずまずかなとは思ってはいたんですけど。やはり、あまり指し慣れていない展開になったので。中盤の方針の立て方だったりとか、そういうのはやっぱり、対局中に考えて組み立てていく感じになったので、そこは苦労しました」「序盤はある程度準備をしたつもりではあったんですけど。あまり想定しないというか。時間を使わずに飛ばしたりとかはできなかったので。ちょっと微妙かなと思っていました」

山下「こちらとしても序盤、ちょっと想定している展開からははずれて」

 形勢はほぼ互角のまま、中盤の戦いが続いていきます。

藤本「中盤の方針の立て方だったりとか、そういうのはやっぱり、対局中に考えて組み立てていく感じになったので、そこは苦労しました」「中盤で少し模様が良くなったかと思ったんですけど。指してるうちにちょっと、だんだん苦しくなってきてるような気がして。そのあたりは自信はなかったですけど」

 戦いのさなか、山下三段は自陣を金矢倉にまとめます。コンピュータ将棋(AI)が示す評価値では、山下三段が少しリードしていました。

 85手目。山下三段は桂得する順に踏み込みます。ただし、自玉が一気に薄くなるので、怖いところ。このあたりから情勢は、藤本ペースとなっていきます。

藤本「玉頭の方に手がついてからは少し自信がでてきた感じでしたね」

山下「ちょっと苦しそうだったのを、なんとか盛り返せてきたかな、というところで、急にわるくなってしまって。いい勝負になりそうだったので、残念です」

 藤本五段は銀損ながら、山下陣に飛車を成り込んで龍を作り、山下玉に迫ります。

 対して105手目、山下三段は下段一段目に桂を打って受けました。結果的にはこの手が敗着となったようです。

 藤本五段は角を成り込んで馬も作り、攻めが途切れない形となり、はっきり優位に立ちました。

藤本「迫り方がいろいろあったのでどれがいいか、難しい選択だったと思いますけど。攻めがけっこう細いので、切れないっていうのを心がけて指しました」

 藤本五段は山下三段の粘りを許さず、最後は山下玉を詰ませて、勝利を飾りました。

 藤本五段は竜王ランキング戦で初の優勝を飾りました。

藤本「それはうれしいです。やっぱりすごく注目される対局だったので、そこで結果を出せてよかったなと感じます。(本戦は)6組ということで一番下からということではあるんですけど。もう挑んでいく気持ちで、がんばっていきたいと思います」「(6組では)1回戦からずっときびしい相手が続いていて。ちょっと自分の中で課題かなと思ったのが、終盤でこちらが少しよくなって、時間とかもこちらがリードしていたり、相手が秒読みに入っていたりとか。ってなったときに、相手が秒に追われて手の精度が落ちるっていうのはしょうがない話だと思うんですけど。なぜか、時間の余ってる自分が乱れていくみたいな展開が、自分の中で何局かあって。そこは直した方がいいと思いました。(本戦は)特に序盤はやっぱり、自分はまだまだけっこう大雑把なところもあるので。そこでやっぱり離されてしまうときびしくなると思うので。そこをしっかりがんばっていきたいと思います。(目標は)まずは1勝ですかね。本戦はもちろん初めてなんで。全然大きいことは言えないんですけど。とりあえず目の前の一局をがんばろうと思っています」

 棋士昇格の権利は得られなかった山下三段。しかし来期は5組に昇級し、そこで指すことになります。

山下「(6組では)本当にきびしい戦いばかりで、実力不足を痛感しました。6組での対局を振り返ると、全体的に序中盤の精度が低かったと思うので、来期はもう少し精度のいい序中盤を指して、よりよい将棋を指したいです」

 山下三段は現在進行中の三段リーグでは3勝1敗。上位2人に入れば四段に昇段し、棋士の資格を得ます。また3位でも次点2回となり、フリークラス編入という形で、四段に昇段できる権利を得ます。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

松本博文の最近の記事