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鬼軍曹・永瀬拓矢王座(29)棋王挑戦まであと1勝! 佐藤康光九段(52)を押し切って挑決二番勝負進出

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 12月6日。東京・将棋会館において第47期棋王戦挑戦者決定トーナメント勝者組決勝▲永瀬拓矢王座(29歳)-△佐藤康光九段(52歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は19時48分に終局。結果は133手で永瀬王座の勝ちとなりました。

 永瀬王座はこれで挑戦者決定戦に進出。二番勝負で1勝すれば渡辺明棋王(37歳)への挑戦権を獲得できます。

 また本日おこなわれた敗者復活戦1回戦▲郷田真隆九段(51歳)-△豊島将之九段(31歳)戦は相矢倉の戦いとなり、19時11分、115手で郷田九段が勝ちました。郷田九段は敗者復活戦2回戦で佐藤九段と対戦。勝者が挑決へと進みます。豊島九段は今期敗退が決まりました。

永瀬王座、堂々の挑決進出

 ▲永瀬-△佐藤戦と▲郷田-△豊島戦の2局は東京・将棋会館5階、特別対局室で並んでおこなわれました。

 後手番となった佐藤九段。前局・郷田九段戦では角交換のあと「ダイレクト向かい飛車」にして、玉側から銀を前線に殺到させる奇想天外な作戦を取りました。今回は角筋を止めます。微妙な駆け引きがあって、佐藤九段は中飛車に構えました。

 永瀬王座は相手の動きに冷静に対応しながら、39手目、自陣の歩を突いて角交換を迫ります。これが機敏だったようです。

佐藤「ちょっとうっかりしてましたね」「うまくやられたなと思ってました」「ちょっとゆっくりするのかと思ったタイミングで(歩を)突かれて困りましたね。作戦負けになったような気がしましたね、あそこで」

 角交換のあと、永瀬王座は自玉を固めながら上部に厚みを築きます。相手の美濃囲いを上から攻める、居飛車にとっては理想的な進行となり、はっきり優位に立ちました。

 コンピュータ将棋ソフトが示す評価値の上では、永瀬王座リードで迎えた終盤戦。ただし永瀬王座は自信があったわけではないようです。

永瀬「よくはない気が・・・」

佐藤「なんかちょっと難しくなったとは思ってたんですけど」

 87手目、永瀬王座は角取りに歩を打ちます。ここでABEMAの「勝率」表示は永瀬84%から65%にまで巻き戻ります。感想戦では触れられていませんでしたが、佐藤九段は相手からの飛車切りを防いでじっと歩を打っておけば、形勢は接近していたのかもしれません。

 本譜、佐藤九段は角を逃げながら香を取ります。永瀬王座は飛車を切って銀と刺し違え、91手目、角を打ち込んだ手が飛金両取り。

永瀬「仕方なくやってる感じなので。ただ、思ったよりは難しいかなとは思いました」

佐藤「一瞬難しくなったかなと思ったんですけど、角打たれて厳しかったのか」

 永瀬王座の側から攻めが続く形となって、形勢は再び永瀬優位がはっきりしてきたようです。

「いやー」というつぶやきとともに佐藤九段の持ち時間は刻々と削られていき、やがて持ち時間4時間を使い切って、一手60秒未満で指す一分将棋に。

 95手目、永瀬王座が相手陣に飛車を打ち込んだ局面で、隣りから声が聞こえてきます。

豊島「負けました」

 豊島九段が投了し、郷田九段の勝ちが決まりました。

 ▲永瀬-△佐藤戦は永瀬勝勢の最終盤。もともと8二の地点、美濃囲いに収まっていた佐藤玉は上部へと逃げ出していきます。永瀬王座は飛車と馬で追いながら、117手目、相手の歩頭に金を打ちます。これが相手玉の上部を押さえる決め手でした。

佐藤「そうですね。ぴったりでしたね」

 佐藤九段は攻防の要の龍を失いながら、なおも粘り、ついには永瀬陣1八の地点にまで逃げ込みます。しかし133手目、永瀬王座が龍を引いてぴったりつかまっています。

記録「30秒・・・。40秒・・・。50秒、1」

佐藤「あ、負けました」

 佐藤九段が投了を告げ、永瀬王座は「ありがとうございました」と一礼。永瀬王座の挑決進出が決まりました。

 両者の対戦成績はこれで佐藤5勝、永瀬4勝となりました。

 佐藤九段は敗者復活戦2回戦に回って12月13日、再び郷田九段と対戦します。前局は今年度屈指の大熱戦でした。次局はどうなるでしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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