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「じっと我慢のボンカレー」温故知新の渡辺明名人(37)発言でなつかしフレーズがリバイバルヒット

松本博文将棋ライター
画像:いらすとや

「じっと我慢のボンカレーですか」

 渡辺明名人(37歳)は、思わずそう口にしました。

 第2回女流ABEMAトーナメント予選Bリーグ第2試合。チーム西山-チーム加藤戦の3局目、▲西山朋佳女流三冠-△野原未蘭女流初段戦の中盤。野原女流初段は攻めの銀を引いて辛抱しました。チーム加藤の監督を務める渡辺名人には「じっと我慢のボンカレー」と感じられたわけです。

 野原女流初段は最後は敗れたものの、途中は我慢が実を結び、強豪を相手にかなり挽回したようにも見えました。将棋では辛抱、我慢が大事であることは、先人が繰り返し説いてきたところです。

 さて観戦者からは渡辺名人の発言に対して、早速多くの反応がありました。

 筆者も早速アンケートを取ってみました。

「ああ、あれか」とすぐにピンと来た方は少数派だったようです。

 渡辺名人もいつしか自然に覚えたこのフレーズ。それまで聞いたことがなくともなんとなく由来がわかるのは、現在五十代以上の方が多いかもしれません。1970年代に放映されたボンカレーのCMにおいて「じっと我慢の子であった」というセリフがありました。

 1978年から80年にかけて『週刊少年キング』誌上で連載された『5五の龍』というつのだじろう作の漫画があります。羽生善治九段をはじめ、多くの棋士が影響を受けた名作です。

 作中、奨励会5級の駒形竜(こまがた・りゅう)は先輩の段須(だんす)3級から駒形茂兵衛(もへえ、戯曲「一本刀土俵入」の主人公)に名前が似ていると、からかわれます。カッとしやすい駒形少年。心の中でこうつぶやきます。

駒形「じぶんだって段須(だんす)なんて変は名前じゃないか!(中略)・・・とい返したいところだけど相手は先輩・・・ ここはじっとガマンのボン・カレーだ! なんといわれても将棋に勝てばいいんだ!」

(つのだじろう『5五の龍』中公文庫コミックス版4巻182p)

 段須3級が香を落としての対局。駒形5級は終盤で「ダンスの歩」の手筋をくらって追い込まれます。しかしじっと我慢の姿勢が功を奏したか、最後は冷静に勝ち筋を見つけることができました。

 というわけで「じっと我慢のボンカレー」は『5五の龍』にも残されている、由緒正しき(?)フレーズだとわかりました。

 CM上の元の言葉「我慢の子」も過去の観戦記などで見つけることができます。

(前略)現状は受けに回らざるを得ない。じーっとガマンの子であった。ガマンをしたあとで△8八角から反撃に出た。このあたりの緩急自在さは、森内の別の持ち味でもあろう。

(A級順位戦・中原誠永世十段-森内俊之八段観戦記、加古明光「毎日新聞」1999年10月12日朝刊)

 長い歴史を誇る将棋界。現在では使われなくなった言葉もたくさんあります。それらの中からは「温故知新」で、なにかの拍子に注目されることもありそうです。

 将棋ファンの間で、改めて使われ始めた「じっと我慢のボンカレー」。その汎用性の高さから、今年の将棋界を代表する流行語の一つとなるのかもしれません。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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