Yahoo!ニュース

藤井聡太二冠(19)先手番で相掛かりを採用 永瀬拓矢王座(28)はしのげるか?竜王戦挑決第2局始まる

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 8月30日10時。東京・将棋会館において第34期竜王戦挑戦者決定三番勝負第2局▲藤井聡太二冠(2組優勝)-△永瀬拓矢王座(1組優勝)戦が始まりました。棋譜は公式ページをご覧ください。

多忙の藤井二冠

 藤井二冠は連日、大変なハードスケジュール。一昨日28日には生放送のABEMAトーナメントに出場しています。

 ABEMAトーナメントにはチームリーダーとして出場している藤井二冠。自身の活躍もあって、チーム藤井はベスト4に進出しました。

 対局や仕事でここまで忙しければ、少しでもギリギリまで寝ていたいのではないか、とも思われるところ。藤井二冠はいつもの通り、対局開始三十分近く前には対局室に入り、席に着いていました。

トップクラス同士の対戦

 永瀬王座も二十分近く前に入室。下座に着きました。現在の将棋界の序列は1位渡辺明名人、2位豊島将之竜王、3位藤井二冠、4位永瀬王座となっています。

 もし永瀬王座が豊島竜王に挑戦して竜王位に奪取すると、藤井二冠を抜いて序列2位となります。

 永瀬王座は念入りに除菌スプレーを手にかけ、両手でよくもみます。対局中にもしばしば、そのスプレーの音が聞かれます。

 藤井二冠と永瀬王座は駒を並べ終えたあと、対局開始の時間を静かに待ちます。

 第1局は対局開始直前の振り駒により、永瀬王座先手と決まりました。本局は先後が入れ替わり、あらかじめ藤井二冠先手と決まっています。

「それでは時間になりましたので、藤井先生の先手番でお願いします」

 両対局者は一礼。持ち時間5時間の対局が始まりました。

 藤井二冠は紙コップに注がれたお茶を飲み、そのあとで初手、飛車先の歩を突きました。

戦型は相掛かり

 注目されたのは後手番、永瀬王座の作戦です。永瀬王座は基本的に現在は居飛車党で、相手の出方に応じて三大戦法(相掛かり、矢倉、角換わり)のどれも指します。その中でときおり、後手番の際には横歩取りを誘導することもあります。

 また永瀬王座は、かつては振り飛車党。現在でもごくたまに振り飛車をまぜてくることもあります。藤井二冠との対戦では、今期竜王戦挑決第1局では先手番で三間飛車でした。昨年の王将戦リーグは後手番で四間飛車を採用し、藤井二冠に勝っています。

 本局、永瀬王座は2手目、飛車先の歩を突いて居飛車で臨む姿勢を見せました。こう指せば、相掛かりか角換わりか。

 5手目、藤井二冠は角の横に金を上がり、今日は相掛かりで臨む態度を明らかにします。それを見た永瀬王座はスーツのジャケットを脱いで、白い半袖ワイシャツ姿になりました。

 21手目。藤井二冠は7筋の歩を突いて角筋を開きます。この手を見て永瀬王座は足を崩しました。永瀬王座は相手が突いた歩を飛車ですぐに取ることができます。ここでしばらく永瀬王座の手が止まりました。藤井王位は席を立ち、戻ってきたタイミングでジャケットを脱ぎました。こちらは淡いブルーの、長袖ワイシャツ姿です。

 22手目。永瀬王座は8筋の飛車をすぐ横の7筋に動かすモーションで相手の歩を取りました。

 藤井二冠は歩を損した代償に、スキができた8筋から桂をねらって攻めていく順を得ます。相掛かりではしばしば現れる順で、藤井二冠の時間の使い方から推測すると、事前に十分研究してあるのでしょう。

 29手目。藤井二冠は飛車を2筋の中段に浮いて、右辺から遠く左辺へと利かせました。そこまでの消費時間は、藤井二冠はわずか9分。永瀬王座は28分です。

 角交換のあと、藤井二冠は7筋に桂を跳ねます。すでに難しい戦いに入り、早くも勝負所という感があります。

 現在はそろそろ12時。現在は34手目、永瀬王座が飛車を引いた局面で藤井二冠が35手目を考えています。

 竜王戦挑決は持ち時間各5時間(ストップウォッチ方式)。12時からの昼食休憩、18時からの夕食休憩をはさんで、通例では夜に決着します。

勝った方が道が開ける

 両者は2020年6月に初対戦して以来、1年と少しで7局目の対戦となります。

 挑戦者決定戦で当たるのは3回目(棋聖戦、王位戦、竜王戦)です。

 王将戦リーグでは永瀬王座、叡王戦本戦では藤井二冠が勝って、どちらも勝者がのちに挑戦者になっています。

 銀河戦では藤井二冠が勝って、のちに優勝しています。

永瀬王座も多忙

 藤井二冠も忙しければ、永瀬王座もまた忙しい。本局の翌日には仙台に移動して、翌々日の9月1日には木村一基九段と王座戦第1局を戦います。

 永瀬王座と木村九段はともにチームリーダーとして、今週末9月4日にもABEMAトーナメントで戦います。

 現在指し盛りの永瀬王座は28歳。9月5日の誕生日を迎えると、29歳になります。

 ハードスケジュールはトップクラスの棋士の宿命ですが、それにしても忙しそう。本局で永瀬王座が勝てばさらに対局が増え、9月9日に竜王戦挑決第3局がおこなわれます。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

松本博文の最近の記事