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藤井聡太王位(19)銀得ではっきり優勢に 豊島将之挑戦者(31)鬼辛抱で耐える 王位戦第5局2日目

松本博文将棋ライター
徳島 眉山からの風景(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

 8月25日。徳島県徳島市・渭水苑においてお~いお茶杯第62期王位戦七番勝負第5局▲藤井聡太王位(19歳)-△豊島将之竜王(31歳)戦2日目の対局がおこなわれています。棋譜は公式ページをご覧ください。

 50手目。豊島王位が41分考えて銀を出た手は、はっきりいえば悪手だったようです。

 51手目。藤井王位は44分考えて桂を跳ねました。熟慮の末の決断です。そして席を立ちました。

 盤の前に一人残された豊島挑戦者。ほおづえを突いて、うつむき、そしてコップに注がれた「お~いお茶」を飲みます。

 藤井王位が跳ねた桂は豊島挑戦者の飛車に当たっています。

 飛車が逃げると、いま出たばかりの銀をタダで取られてしまう。

 しかし飛車を逃げないと攻め合いになり、飛車を取られて不利になってしまう。その際、封じ手で跳ねた桂が壁となって、玉の逃げ道をふさいでしまっています。

 ここに至るまで、豊島挑戦者はどこかで重大な誤算があったのかもしれません。

 トップクラスの棋士でも、長くタイトル戦をたたかっているうちに、不出来な一局もあれば、普段では考えられないようなミスが生じることもあります。

「史上最強」と呼ばれる羽生善治九段でも、2003年度王将戦七番勝負第1局では、思わぬ誤算で中盤に銀損し、ライバル森内俊之挑戦者に敗れたことがありました。

 今期王位戦第1局。藤井王位は豊島挑戦者を相手に完敗を喫し、2日目15時35分と早い時間での終局となりました。

 本局では豊島挑戦者が苦境に立ちました。

 長考1時間10分。豊島挑戦者はじっと飛車を一つ引いて逃げました。これはある意味、感動的な手です。豊島挑戦者は銀1枚を損する「銀損」を甘受して、少しでも勝負のアヤがある順を選んだということです。

 悪手の顔を立て、一直線に負けに行く順を選んでしまうということはよくあります。しかし悪手は悪手として反省し、局面を点でとらえ、気を取り直して、その局面での最善を選ぶのが将棋における強者のスタイルのようです。

 53手目。藤井王位は角で銀を取ります。これで銀得。目に見える形で、大きな戦果をあげました。

 55手目、藤井王位は歩を打って、しっかり角取りを受けます。手番の豊島挑戦者が次の手を考えているうち、12時30分、記録係から声がかかりました。

「休憩の時間です」

 対局は13時30分に再開されます。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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