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「強くなることで、いままでと違う景色を見ることができたら」藤井聡太棋聖(18)初防衛後、記者会見全文

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 7月3日。藤井聡太棋聖(18歳)は棋聖戦五番勝負第3局に勝利。渡辺明名人の挑戦を退け、3連勝で棋聖防衛を達成しました。同時に史上最年少でのタイトル初防衛、九段昇段の記録も更新しています。

 棋聖戦第3局終了後の夜、藤井棋聖の記者会見がおこなわれました。(記者からの質問は簡略に表記)

――タイトルを防衛した感想を一言お願いします。

藤井「今期棋聖戦、渡辺名人を挑戦者に迎えるという形になって。自分にとって試練といえる五番勝負なのかな、というふうに思っていたので。その中で防衛という結果を出せたことはとてもうれしく思っています」

――このあとは王位戦七番勝負、叡王戦五番勝負で豊島将之竜王・叡王との戦いが続く。そちらへの意気込みを。

藤井「このあと王位戦と、叡王戦とあるので、シリーズを盛り上げられるように全力を尽くしたいと思っています」

――静岡県各地、全国で大雨による被害が出た。大雨を気にしながら観戦されていた方々に一言。

藤井「本日、大雨で災害があったとのことで、被災された方にお見舞い申し上げます。このような状況ではなかなか、将棋を楽しんでいただくということはやっぱり難しいところもあるのかな、というふうには思うんですけど。日常が戻ってというか、将棋を楽しんでいただけるという環境が戻ってくることを願っています」

――棋聖戦五番勝負で渡辺名人(前棋聖)を相手に去年は3勝1敗。今年は3勝0敗。そのことについて。

藤井「ただ今回の棋聖戦、第1局から第3局までどれも苦しい部分があったと思うので。3連勝というのは実力以上の結果が出たのかな、というふうに受け止めています」

――直前の王位戦第1局(豊島竜王戦)で内容がよくなかった、という話もあった。どう気持ちを切り替えた?

藤井「直前の王位戦第1局では早い時間の終局になってしまって。申し訳ないな、と思うところはあったんですけど。その分、今日は最後まで楽しんでいただけるような熱戦にできれば、というふうには思っていました」

――棋聖位に就き、タイトル保持者となって1年が過ぎた。自身で変わった、成長したと思う点があれば。

藤井「タイトルホルダーになったことで、トップ棋士の方と対戦する機会が格段に増えて。その中で成長した実感というより、やっぱり新たな課題が見つかるということの方が多いかなあ、とは思うんですけど。それも成長になんとかつなげていければな、というふうに思っています」

――三段から四段に上がる頃の自分を振り返って、その頃の九段に対するイメージはどのようなものだったか? そのとき、九段になるにはどれぐらいかかるか、という予想はしていた?

藤井「九段というと本当に、大変実績のある方ばかりという印象でしたので、自分もそこに加わることができたのはうれしく思っています。やっぱり九段の方は息長く活躍されている方がとても多いというふうに思うので、自分もそれを見習っていきたいな、というふうに思います。特に・・・。プロ棋士になってから、段位の昇段の規定ってけっこういろいろあるので、あまり具体的に(どれぐらいかかるかという)そういうイメージというのはなかったです」

――3日前に王位戦第1局で豊島竜王に敗れたショックはあったか? それをうまく解消した方法はあったか?

藤井「王位戦の第1局ではこちらも持ち時間を残して負けてしまって。やっぱりその結果以上に、熱戦にできなかったことが見ていただいているファンの方にとって申し訳なかったな、というふうには思っていて。なので結果はともかく、早い時間に終わってしまうとか、そういったことがないように最後まで考え抜こうというふうに、今日は思っていました」

――今日はまったく影響はなかった?

藤井「うーん、どうでしょう(苦笑)。影響自体はもちろん、ないとは言えないかなとは思いますけど。まあでも、自分としては今日はいい状態で臨むことができたのかな、というふうには思っています」

――これからの目標、将来的なビジョンは?

藤井「タイトル数であるとか、あまり具体的な数字というのは、自分としては意識していなくて。それよりも、やっぱり対局の内容をなんとかよくしていきたい、というのが変わらず思っていることです」

――記録にあまり興味がないのはどうして?

藤井「結果ばかりを求めていると、逆にそれが出ないときにモチベーションを維持するのが難しくなってしまうのかな、というふうにも思っているので。結果よりも内容を重視して、やっぱり一局指すごとに改善していけるところというのが新たに見つかるものかな、と思うので。やっぱりそれをモチベーションにしてやっていきたいというふうに思っています」

――よく「強くなりたい」っていうお言葉もずっとおっしゃってますが、そういった思い、またはその、将棋の真理というんですかね、そういうとこに目指していくっていう、そのあたりをもうちょっとうかがえますでしょうか。

藤井「これまで公式戦で200局以上あったかと思うんですけど、その中でも完璧に指せたな、という将棋は一局もないですし。自分が強くなることで、いままで見たことのないような局面にも出会えるかなというふうにも思っているので。強くなることでやっぱりそういった、いままでと違う景色を見ることができたらな、というふうには思っています」

――ファンや地元の方などへの意識の変化は?

藤井「タイトル戦に出るようになってから、本当にいろいろな方のおかげで棋士として将棋を指すことができるんだな、という意識がより強くなったところはあるのかな、というふうに思います」

――今期棋聖戦五番勝負で3連勝した勝因は?

藤井「勝因というのはまあ、なんだろう・・・(笑)。難しいですけど・・・。そうですね、特に第2局、第3局ではかなり途中でこちらの持ち時間が少なくなって、時間に差がつくという場面がけっこうあったんですけど。そういった状況の中で粘り強く指すことができたのかな、というふうには思っています」

――第2局は先手番で相掛かりだった。昨年まであまり先手番で相掛かりを指していなかったと思うが。

藤井「1年ほど前までは、先手のときは角換わりの割合がかなり高かったんですけど。角換わりはかなり研究の比重が高い展開になりやすいというのもありますし。もう少しいろいろな展開の将棋を指した方が、自分にとっても面白いのかな、というふうに最近は考えています」

――勝つためもあるが、いろんな戦型を指した方が面白い、という気持ちもけっこう強い?

藤井「そうですね、はい」

――終局直後、大山康晴15世名人の「タイトルは防衛して一人前」という言葉へのコメントがあったが。

藤井「今回、防衛戦で結果を出すことができたんですけど。ただ、それで一人前になったかというと(笑)そういう意識はない・・・。というかやっぱり、今回の五番勝負では課題というか、改善できるポイントというのがいろいろあったので。もちろん、防衛してほっとしているところはあるんですけど、それに満足することなくやっていきたいな、というふうには思っています」

――前回の王位戦までは高校生という立場。今回は専業のプロ棋士という立場。そのことについて。

藤井「うーん、そうですね・・・(小考)。今年から将棋に専念するという形になって。あまりタイトル戦に臨む上でなにか気持ちが違うということはないんですけど。時間がより多く取れるようになったので、取り組めていることは多いのかな、というふうには思っています」

――渡辺名人には通算8勝1敗。豊島竜王には1勝7敗。人によって星が片寄っていることを自身でどう考えている?

藤井「うーん、そうですね(苦笑)。自分でもどう解釈するのか、難しいとは思っているんですけど・・・。あまり対局に臨む上ではそういった過去の結果というのはあまり関係のないことかな、とは思いますし。また豊島竜王には現状、かなり負け越してしまっていますけど。そういった負けてしまった将棋からもしっかり学んで、今後対抗できるようにやっていけたらとは思っています」

――いま思い描く理想の将棋指し、棋士像は?

藤井「あまり明確なゴールがあるというわけではないかな、と思っているので。できる限り強くなるというのが現状の目標です」

――四段のとき(2017年)に「炎の七番勝負」に出てから九段に昇段するまで4年。この4年を一言でいうと?

藤井「四段になってから『炎の七番勝負』で羽生先生はじめトップ棋士の方と対戦させていただいたり。プロ棋士になる前は本当に、そういった機会っていうのはほとんどなかったので。棋士になってからそういう機会をいただいて。その中で自分自身、成長できた4年間だったのかなというふうには思っています」

――この喜びを誰に真っ先に伝えたい?

藤井「うーん、そうですね(苦笑)。自分自身は6日にまた次の対局(B級1組順位戦、久保利明九段戦)があるので、あまり喜びすぎてもいけないのかな、というふうには思っているんですけど。うーん、そうですね・・・(長考)。うーん、そうですね、やっぱり、このあとも対局は続くので、また落ち着いてから考えたいと思います」

――子どもたちに、将棋に強くなるアドバイスは?

藤井「上達法については、あまり確立した方法があるわけではないので。自分は詰将棋が好きだったんで、昔から詰将棋をよく解いていたんですけど。そんな感じで、自分が好きな、楽しいという形で取り組んでもらえるのがいちばんいいのかな、というふうに思います」

――カメラに向かって全国の視聴者に笑顔で一言お願いします。

藤井「ご観戦いただきましてありがとうございます。今日の将棋、途中、苦しい場面もあって、難しい将棋だったんですけど、なんとか防衛という結果を出すことができて、とてもうれしく思っています。このあとも王位戦、叡王戦とありますので、そちらを、番勝負を盛り上げられるように、せいいっぱい戦っていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします」

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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