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午前中67手進行のハイペース! ▲稲葉陽八段(32)-△藤井聡太二冠(18)B級1組順位戦2回戦開始

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 6月3日。B級1組2回戦がおこなわれます。東京での対戦カードは以下の通りです。(▲=先手、△=後手)

▲郷田 真隆九段(1勝0敗)-△横山 泰明七段(1勝0敗)

▲千田 翔太七段(1勝0敗)-△久保 利明九段(0勝1敗)

△屋敷 伸之九段(1勝0敗)-▲三浦 弘行九段(0勝1敗)

▲佐々木勇気七段(1勝0敗)-△阿久津主税八段(0勝1敗)

▲近藤 誠也七段(0勝0敗)-△松尾  歩八段(0勝1敗)

 注目の▲稲葉陽八段(0勝1敗)-△藤井聡太二冠(18歳)戦は両対局者ともに関西所属。よって大阪・関西将棋会館で指されます。

「鬼のすみか」と言われるB級1組。藤井聡太二冠の師匠にあたる杉本昌隆八段も、かつてはこのクラスにすむ「鬼」の一人でした。また杉本八段の師匠である板谷進九段(1840-88)は1973年、順位戦参加11期目で難関のB級1組を突破し、12期目でA級に昇級しています。

「将棋は体力」というモットーを掲げていた板谷九段。「熱血」という言葉がよく似合う名棋士でした。

頑張るんだ! とにかく頑張る。身体のつづく限り。玉の頭に金をのせられるまで。

 板谷九段は著書『熱血将棋順位戦』(1974年刊)の巻頭で、そう記しています。

 9時35分頃、稲葉八段が御上段(おんじょうだん)の間に入室。下座に着きます。

 稲葉八段は順位戦参加8期目でB級1組を通過。9期目にはA級で優勝し、名人挑戦を決めました。A級には5期在籍したあと、今期はB級1組所属。1回戦で破れはしましたが、依然有力な昇級候補です。

 9時39分頃、藤井二冠が姿を見せます。4人の永世名人の書が掛けられている床の間を背にして、上座にすわりました。

 藤井二冠はC級1組に1期。C級2組に2期。B級2組に1期。今期は5期目の順位戦参加です。

 数々の大記録を更新中なのは、周知の通りでしょう。

 両者、駒を並べ終えたあと、ともに目を閉じて対局開始の時間を待ちました。

 10時、記録係が声をかけます。

「それでは時間になりましたので、稲葉先生の先手番でよろしくお願いします」

 両者「お願いします」と一礼して、対局が始まりました。

 両者はともに居飛車党です。稲葉八段は2筋、藤井二冠は8筋。互いに飛車先の歩を伸ばしていきました。

 5手目は大きな分岐点。ここで角筋を開ければ角換わり、角の横に金を上がれば相掛かりに進む可能性が高くなります。

 本局、稲葉八段は角換わりに進めました。そこからは腰掛銀、早繰り銀、棒銀が主要な3つの作戦で、本局は腰掛銀です。

 稲葉八段先手での角換わり腰掛銀は2019年1月の朝日杯本戦1回戦で現れています。稲葉八段が早めの桂跳ねで動いたのに対して、後手番・藤井二冠の反撃が厳しく、藤井二冠が攻めきって勝っています。

 本局もまた稲葉八段が桂を跳ねて動いていく形。とはいえ、朝日杯とは大きく違い、稲葉八段が激しく攻めていく展開となりました。

 藤井玉は中段四段目に引っ張り出され、すでに終盤を思わせる形。前例があるとはいえ、驚くような早い進行です。

 67手目。稲葉八段は7筋に歩を打ちました。ここまで2019年度A級6回戦▲渡辺明三冠(現名人)-△広瀬章人八段戦と同じです。その一局では67手目は14時18分に指されていました。それでも早い進行と言えそうですが、研究が深まると本局のように、午前中で一気に中盤の終わり、終盤の始めあたりまで進むこともあるのでしょう。

 12時前、藤井二冠の手番で昼食休憩に入りました。

 B級1組の持ち時間は各6時間(60秒未満切り捨てのストップウォッチ形式)。昼食休憩、夕食休憩(それぞれ40分)をはさんで、通例では夜遅くに終局となります。

 藤井二冠は本局が終われば、次はいよいよ、棋聖戦五番勝負を迎えます。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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