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公式戦18連勝! 藤井聡太二冠(18)叡王戦八段戦を勝ち抜いて本戦進出決定

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 4月9日。第6期叡王戦段位別予選・八段戦C▲藤井聡太二冠(18歳)-△広瀬章人八段(34歳)戦がおこなわれました。

 19時に始まった対局は21時19分に終局。結果は75手で藤井二冠の勝ちとなりました。藤井二冠はこれで叡王戦本戦(ベスト16)進出を決めています。

 藤井二冠は2021年度公式戦初戦で勝利を飾りました。

 また前年度から続いている連勝を18に伸ばしました。

 18連勝は歴代上位に入る記録です。

 歴代最多は、自身がデビュー以来無敗で達成した29連勝。空前にして、あるいは絶後とも思われたその大記録に、今後どこまで迫るのでしょうか。

藤井二冠、今年度初戦もあきれるほどの強さ

 4月1日。藤井二冠は前年度の活躍が評価され、将棋大賞・最優秀棋士賞に選ばれました。

 本局が終わったあと、藤井二冠は次のように語っていました。

藤井「とても光栄なことだと思うので、それに見合う内容の将棋が指せるように精進していきたいなというふうに思います」

 藤井二冠にとっては、本局は新年度初の公式戦となります。

 広瀬八段は本日14時からの対局で、糸谷哲郎八段に勝っています。

 叡王戦では対局者が駒を並べる前に、記録係が振り駒をします。その結果「歩」が3枚出て、先手は藤井二冠と決まりました。

 本局で使われるのは一文字駒。駒の山の中から「王」の駒を見つけると盤の上に置き、「失礼します」と丁寧に一礼しました。そして所定の位置に「王」を置きます。対して広瀬は玉を据え、以下は大橋流でそれぞれ20枚の駒を並べ終えました。

 叡王戦といえば、今期からは対局者のそばに不二家のお菓子が置かれるようになりました。藤井二冠は不二家のCMにも出演しています。

 また藤井二冠はサントリーから発売されている緑茶飲料「伊右衛門」を手元に置いています。こちらも藤井二冠はCMに出演中です。

 19時、対局開始。藤井二冠は初手を指す前に、まずコップに注がれた伊右衛門を飲みました。そして飛車先の歩を伸ばします。

 戦型は互いに飛車先の歩を突き合う相掛かりとなりました。両者ともに飛車先の歩を交換したあと、藤井二冠は元の位置に戻る「引き飛車」、広瀬八段は中段に構える「浮き飛車」にしました。

 28手目。広瀬八段は持ち駒としていた歩をまた飛車先に打って、動いていきました。

 対して、序中盤で時間を使って考えるのが藤井二冠のスタイル。持ち時間が1時間なのでそれ以上は考えられませんが、それでもかなりの時間を割いて読みにふけります。

藤井「中盤はかなり(持ち時間を)使ってしまったところはあるんですけど、判断が難しい局面が多かったのかな、という印象はあります」

 36手目。広瀬八段は8筋の飛車を7筋に移動させるモーションで「横歩」を取ります。一気に激しくなる可能性を秘め、早くも勝負所となりました。

 広瀬八段は飛車を金と刺し違えていく順もありました。しかし時間を使って自重します。

 広瀬八段が飛車を元の筋に戻すタイミングで、藤井二冠は飛車を追いながら手順に桂を跳ねてさばきます。このあたりのやり取りで、藤井二冠がポイントをあげました。

藤井「△8六歩から動かれて、こちらからどう対応するか、一手一手難しいかと思っていたんですけど、8九の桂をさばいたあたりから除々にペースをつかめたのかな、という気がします」

広瀬「やってみたい形ではあったんですけど、ちょっと攻め方というか、落とし所がわからずに。桂馬さばかれたあたりは自信なかったんですけど、ほかの順も自信がなかったので・・・。うーん、ちょっと、バランスを取るのに苦労しました」「(桂をさばかれる)その手前ぐらいが、もうちょっとましな順を探さないといけなかったかな、と思います」

 観戦者の目には、藤井二冠の指し回しは自然そのものです。しかしいつの間にか差をつけているのが恐ろしいところ。本局もまた中盤で大幅にリードを奪いました。

藤井「うまく飛車角を押さえ込みつつ攻めていければと思っていました」

 藤井二冠は55手目、広瀬八段は58手目で持ち時間1時間を使い切りました。あとは一手60秒未満で指す「一分将棋」です。

 広瀬八段は角銀交換の駒損に甘んじて粘ります。対して藤井二冠の攻めは渋滞せず、自然に優位が拡大されていきます。

 藤井二冠は飛車を入手したあと、75手目、王手で広瀬陣に打ち込みます。広瀬陣は壁形で逃げ場所がなく、受けがありません。

 広瀬八段は腕を組んで盤上を見つめます。

「50秒、1」

 記録係に秒を読まれながら、広瀬八段は頭を下げ、ここで投了を告げました。

 広瀬八段にとっては、力を出せない不出来な内容となってしまいました。

藤井「本戦でもいい内容にできるように、せいいっぱい指したいと思います」

 藤井二冠は八段戦で4連勝し、本戦進出決定。あと4勝で豊島将之叡王(30歳)への挑戦権を獲得できます。

藤井「今年度は防衛戦もあるので、それに向けて、防衛戦にいいコンデイションで臨めるようにしていきたいなと思っています」

 もしかするとこの夏は、棋聖、王位の防衛戦とともに、豊島叡王と藤井二冠の熱い五番勝負が見られる可能性もあります。

 藤井二冠は今年度初勝利を飾り、さらには連勝記録を18に伸ばしました。これだけ強い藤井二冠を、誰が止められるのでしょうか。

 藤井二冠の次戦は16日。竜王戦2組決勝で八代弥七段と対戦します。

藤井「次もとても大きな対局なので。竜王戦は持ち時間5時間あるので、一手一手しっかり考えて指していきたいというふうに思います。八代七段も準決勝で渡辺名人に勝たれての決勝進出で、とてもその将棋もすごくいい内容だったので、充実されている印象があります」

 明日10日は第4回ABEMAトーナメント、チーム藤井「最年少+1」とチーム稲葉「加古川観光大使」が放映されます。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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