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藤井聡太二冠(18歳8か月)は羽生善治五段(18歳6か月)に次ぐ年少記録で最優秀棋士となるか?

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 将棋界では年度ごとに活躍した棋士を表彰する「将棋大賞」という制度があります。

 対局数、勝数、勝率、連勝の記録4部門に関しては、成績によって自動的に決まります。

 藤井二冠は44勝8敗(勝率0.846)。年度最終戦でも勝って17連勝を達成しました。

 しかし将棋大賞の規定により、受賞対象とはなりません。今年度連勝賞受賞は14連勝を達成した澤田真吾七段(29歳)と決まりました。

現時点(3月29日)ではまだ今年度の全対局は終わっていませんが、永瀬拓矢王座(28歳)の対局数1位は確定しています。

 また藤井聡太王位・棋聖(18歳)の勝数1位も決まりました。永瀬王座は3月30日の対局で勝てば勝数で藤井二冠に追いつき、2人が並んで1位となる可能性が残っています。

 藤井二冠は勝率部門において4年連続で1位。しかも前人未到の4年連続8割台です。

 タイトルホルダーの勝率としては、羽生善治七冠(1995年度)を抜いて史上1位です。

 将棋大賞では「最優秀棋士賞」「優秀棋士賞」「敢闘賞」「新人賞」「女流棋士賞」など、棋戦スポンサー各社の代表らによる選考で決められる部門もあります。

 現在の将棋界は渡辺明名人・棋王・王将(36歳)、豊島将之竜王・叡王、永瀬王座、藤井王位・棋聖の4強の時代と言われています。今年度の活躍が目立ったのもやはりこの4人でした。

 最優秀棋士候補として選考委員が投票するのはやはり、この4人のいずれかになるでしょう。

 筆者の個人的な印象としては、本命は藤井二冠と思われます。

 藤井二冠は今年度、史上最年少17歳でタイトル(棋聖)挑戦。五番勝負では渡辺棋聖(当時)を破って3勝1敗で棋聖位を獲得。史上最年少17歳でタイトルを獲得しました。

 また木村一基王位(当時)にも挑戦し、七番勝負を4勝0敗で制して史上最年少二冠、および史上最年少八段となりました。

 全棋士参加のトーナメント戦では銀河戦で初優勝を飾っています。

 また朝日杯でも3回目の優勝を達成しました。

 竜王戦では3組で優勝し、史上初の4期連続ランキング戦優勝を達成しました。

 また現在は2組を勝ち進み、年度最終戦では歴史的妙手を放って決勝に進出しています。

 順位戦でも数々の記録を作りながら、B級1組に昇級しました。

 前述の通り、年度成績でもまた圧倒的な数字を残しています。エトセトラ、エトセトラ。なんともすさまじい活躍でした。

 初めて名人となり、棋王、王将を防衛した渡辺三冠。歴史的死闘を制して叡王となり、竜王防衛、JT杯優勝を達成した豊島二冠。例年であれば両者も当然、最優秀棋士にふさわしい成績でしょう。しかし今年度はやはり、藤井二冠の印象があまりに強烈すぎたように思われます。

 2017年度。藤井現二冠(当時四段→五段→六段、14歳→15歳)は初めてフルシーズン参加した年度に、デビュー以来無敗で29連勝達成などを達成。いまもって信じられないような成績を残しました。

 一方でこの年度は羽生善治竜王が永世七冠達成、国民栄誉賞受賞、棋聖10連覇、名人挑戦など、やはり圧倒的な実績をあげています。

 将棋大賞選考委員による最優秀棋士賞の投票では、羽生善治竜王が9票を集めて受賞。藤井六段は4票で特別賞が贈られています。

 ちなみに最優秀棋士の史上最年少記録は、1988年度の羽生善治五段(年度末時点で18歳6か月)です。これはすでに藤井二冠(18歳8か月)でも抜くことはできません。

 羽生五段の1988年度成績は、64勝16敗(勝率0.800)。1974年に将棋大賞が制定されて以来、初めて記録4部門を独占しました。新人王戦で優勝し、さらには全棋士参加棋戦の天王戦、NHK杯でも優勝。タイトル戦登場はありませんでしたが、その活躍の鮮烈さはすさまじいものでした。

 各委員の投票による票数は、羽生五段9票、南芳一棋王・王将4票、島朗竜王1票でした。無冠で最優秀棋士に選ばれたのは、後にも先にも、羽生五段だけです。

 最年長記録は1979年度の大山康晴王将(当時57歳0か月)。王将復位を達成し、連盟杯、名将戦、NHK杯でも優勝。年度成績は74局指して53勝21敗(勝率0.716)で対局数、勝数は1位。将棋連盟会長として関西将棋会館建設のため、東奔西走の日々を送る中でこの成績でした。まさに超人というよりありません。

 大山15世名人の最年長記録を更新するとしたら、それは誰でしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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