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なにもかもが異次元!大名人候補・藤井聡太二冠(18)順位戦通算39勝1敗&21連勝でB級1組昇級

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 3月10日。大阪・関西将棋会館においてB級2組順位戦最終11回戦▲藤井聡太二冠(18歳)-△中村太地七段(32歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は23時36分に終局。結果は127手で藤井二冠の勝ちとなりました。藤井二冠は10勝0敗、中村七段は6勝4敗で今期リーグを終えました。

 B級2組からB級1組への昇級者は藤井二冠、佐々木勇気七段(9勝1敗)、横山泰明七段(7勝3敗)の3人で決まりました。

 藤井二冠はC級2組、C級1組に次いでB級2組も10戦全勝で通過したことになります。順位戦通算成績は異次元の39勝1敗(勝率0.975)。また順位戦連勝記録も21に伸ばしました。

 藤井二冠の今年度成績はこれで43勝8敗(勝率0.843)となりました。

 藤井二冠の今年度残る対局は3月23日の松尾歩八段戦(竜王戦2組準決勝)の1局のみです。そこでもし敗れても勝率8割を超えることは確定。史上初めて4回目の勝率8割以上を達成しました。

 連勝記録も16に伸びました。勝数、勝率、連勝の3部門で全棋士中1位。なにもかもが異次元の成績です。

実力者・中村七段を相手に完勝

 藤井二冠先手で、戦型は相掛かりに進みました。

中村「相掛かりになったら(7四歩を取らせる)この形をやってみようかなと思ってました。いろいろ考えてきたんですけど。後手番ですけど、積極的に動けるかなと思ってこの形を選びました」

藤井「相掛かりにするのは予定だったんですけど、△4二玉から△7二金とされて、ちょっとこちらの構想がわからなかったです、はい」

藤井「少し珍しい形の序盤になって。どういうふうに組んでいくべきか、難しい将棋だなと思ってました」

 午後は互いに時間を使い合って、じりじりとした進行。40手目の段階で18時、夕食休憩に入りました。

 18時40分、対局が再開されたあと、局面は次第に動いていきます。中村七段は中段の飛車で藤井玉を攻めます。一方で藤井二冠は動きに乗って、その飛車を圧迫しました。

藤井「序盤はあまり思わしい展開ではないのかな、というふうに思っていて。中盤は勝負を仕掛けていこうというふうに思って指していました」

 47手目。藤井二冠は盤上中央に銀を打って中段を制圧します。

中村「▲5五銀と打たれたあたりぐらいからはずっと難しくて、なにをやっていいのかがちょっとわからなかったです」

 さらには桂を跳ねだして中村玉にプレッシャーをかけていきます。形勢はわずかに藤井二冠ペースとなっていました。

中村「中盤から終盤の入口にかけてずっと難しくて。複雑な将棋だったかなと思うんですけど。ちょっとうまく受け止められてしまってというか。難しいところで均衡を保つ・・・というかバランスを崩す手を指してしまって、そこからはチャンスがない将棋になってしまったかな、というふうに思います」

 50手目。中村七段は端1筋に角を打って反撃に出ます。厳しい攻めのようですが、藤井二冠はうまく対応して差を詰めさせません。

中村「端角とかも、その角がはたらくつもりでやってたんですけど、それが結果的にちょっとはたらかないものになってしまったのが、ちょっとまずかったですね。なんかもう少しその角をいかすような手があったかどうか。なければちょっとこの角がよくなかった、というところなんですけど」

 これまで順位戦では深夜の戦いで、数え切れないほどのドラマが生まれてきました。しかし藤井二冠はいつものように着実にリードを広げ、逆転のドラマを生じさせません。

 中村七段も藤井玉に迫る形を作りました。しかし69手目。藤井二冠が自陣に桂を打ち付けたのがぴったりとした受けでした。

藤井「▲6八桂と打って部分的に受け止められる形になったので、そのあたりで指しやすくなったのかと思います」

 最終盤。藤井二冠は相手に駒を渡しながら、決めに行きます。

 順位戦の持ち時間は6時間。藤井二冠は113手目、中村七段は114手目で持ち時間を使い切って、あとは一手60秒未満の「一分将棋」となりました。

中村「ちょっと形勢は苦しいかなと思ったんですけど。苦しいながらも自分にできることをと思ってやってました」

藤井「うまく粘られて決めきれない状況が続いていたかと思うんですけど(121手目)▲3四飛車から▲5二角成で詰み形になったので、そこではっきり勝ちになったかと思いました」

 中村玉は最後、盤上中央にまで逃げました。127手目、藤井二冠は下から角を打ち、その玉を詰ませます。

記録「50秒、1、2」

中村「負けました」

 中村七段は折り目正しく一礼。藤井二冠も礼を返して、対局が終わりました。

 両者しばらくの沈黙のあと、中村七段が口を開きます。

中村「なんか難しそうなところから一気にダメにしちゃいましたかね」

藤井「序盤、失敗気味だと思ってたんですけど」

中村「ああ、そうでしたか・・・」

 そんなやり取りが聞かれました。

 かくして藤井二冠はB級2組でも10戦全勝を達成。順位戦通算39勝1敗、さらには21連勝という信じられないような勢いで白星を重ね、B級1組に駆け上がっていきました。

藤井「最終局は来期の戦いにもつながってくると思っていたので、いい形で終えられたのかなと思っています。(好成績については)順位戦はやっぱり持ち時間が長いので、自分に合っているのかなというふうには思うんですけど、ただ・・・。(小考して)そうですね、あまり成績のことは気にせずに、また来期も一局一局に全力を尽くしたいな、というふうには思います」

 さらに現在は公式戦16連勝中です。

藤井「それについて、自分では意識することではないかな、というふうに思っているので。次の対局もいい内容にできるように、という思いで取り組んでいきたいと思います」

 さらに今年度勝率もまた8割超え確定。史上初めて4回目の年間勝率8割達成となりました。

藤井「今期はタイトル戦にも出ることができて、その中で、成績的にもいい結果が出せたかな、というふうに思っています。ただやっぱり内容的には課題が残る将棋がたくさんあったので、また来期、そういったところを改善できるようにしたいなと思います。特に今期はタイトル戦もあったり、順位戦も上のクラスで。今まで以上に手強い相手との対戦が多かったと思うので、その中で8割という結果を出せたのは、自分の思ってた以上の成績だったのかな、というふうに感じています」

 中村七段は昇級争いに加わりながらも、6勝4敗という成績で終え、最後は届きませんでした。

中村「内容的にうまく指せない将棋が強く印象に残ってますので。もう少し実力をつけて、また来期、出直したいというふうに思います」

 注目された藤井二冠との対戦については次のように語っていました。

中村「長い時間の将棋で指せるということで、組み合わせが決まったときから非常に楽しみにしていたんですけど。その中で、しっかり準備して臨めて。難しい中終盤を・・・なんていうんでしょうか、勝負なんですけど、複雑な将棋を楽しむことができたなかとは思います。ただ、結果が出なかったのは非常に残念です」

 さあいよいよ、藤井二冠は来期B級1組です。A級とほとんど遜色のない13人の実力者が集う「鬼の棲家(すみか)」で、どのように戦うのでしょうか。

 B級1組では順位戦で藤井二冠に唯一黒星をつけた近藤誠也七段(24歳)も待っています。

 今期B級1組は3月11日が最終戦。その結果をもって、来期のメンバーが確定します。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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